第44話 孤児院の今
『ナルバ』の町の東の端に、恭也たちが経営している孤児院が建っている。
孤児たち68名は、みんな元気に暮らし始めていた。
また時折、王国のどこかからこの孤児院へ子供が送られることがある。
各村や町にある孤児院で、世話することができなくなった子供たちだ。
もともと200人ぐらいの子供を想定して、恭也たちが孤児院を建てたため
影響はほとんどなく、送られて来る孤児たちを預かりみんなで生活していた。
また、この孤児院では子供たちに恭也が『魔法』を教えているので
10歳を超える子供たちはみんな、『初級魔法』が使えた。
その魔法が使えたうえで、剣術などを教えてもらい将来の役に立ってもらおう
というのが、恭也の考え方だ。
この世界では魔物が存在し、いつも命の危険と隣り合わせであるが故
こういう教育方針になったのだろう。
また、町の子供たちもこの孤児院に遊びに来ることがある。
それは、恭也が教える『魔法』の授業の時だ。
しかも、中には大人たちも混ざることがある。
それは『魔法』を教えてもらい、実践して最後に食べられる甘い物が目当てだ。
恭也は、授業の最後に甘い物を出してみんなの疲れをねぎらうためだったんだが
なぜか、その甘い物が評判になってしまっていた。
その評判を聞きつけて、商人が店を出さないかと言ってきたり
料理人がレシピを教えてほしいと言ってきたり、恭也本人は困ったものだと
呆れていた。
今日も授業が終わり、いつものように甘い物を用意する。
この甘い物は俺の気分次第で出している。
中には、材料が手に入らないものがあったりするがそこは工夫で何とかしている。
孤児院の厨房で、料理をする恭也にカウンターから声がかかる。
「恭也センセー、今日の甘い物は何ですか?」
将来はエリーのような『治癒魔法使い』を目指す、黒髪のショートボブがかわいい
白いローブの女の子、クリスが聞いていくる。
「今日は、『ティラミス』っていう甘い物だよ~」
俺は、ティラミスの乗った皿をクリスの目の前に出すと
「これって『ケーキ』?」
「そうだよ、『チーズケーキ』の一種だからね~」
クリスの顔が、傍目にもわかるように笑顔になる。
「私『チーズケーキ』大好き!」
クリスの笑顔を見てから、食堂にいる人たちへ声をかけた。
「さあ、皆さん。甘い物ができたので取りに来てくださいね~」
その俺の声を聞いて、我も我もと取りに来る。
数はいっぱいあるから、みんなにいきわたる。
『ティラミス』の乗ったお皿とフォークを取っていき、自分の席について一口食べる。
あちこちからすぐに、「おいしー」などの感想が聞こえてくる。
俺はその感想を聞きながら、まだ受け取っていない人へ甘い物を配っていく。
今日の『魔法』の授業も終わり、孤児院の子供たちのことを職員さんに任せると
俺は冒険者ギルドへ、シャルたちを迎えに来た。
すでに冒険者として、自分の魔法を修行するものとして
俺が教えることがないシャルたちは、
孤児院の一部の子供たちと一緒に依頼をこなしている。
このことを提案してきたのは、アミとクロエだった。
将来、どんな職業を選ぶにしても自力で生活していけるだけの力を教えたい。
そんな願いから始まったアミとクロエの提案。
俺は、どんな職業を選ぶにしてもトラブルは避けられないだろうからと
この提案を許可した。
そして、孤児院で10歳を超えた子供たちだけを対象に
シャルたちが付き添いで、冒険者ギルドの依頼をこなしている。
でも、今日は俺の授業があったためシャルたちについて行った子は2人だけだった。
甘い物効果が、ここにもあったようだ。
俺がギルドに入り、ジェシカさんの受付で話をしているシャルたちに声をかける。
「みんな、お疲れさま。リックとエルマは、頑張っていたかい?」
みんなが声をかけた俺に振り向く。
「恭也先生。僕もエルマも冒険者の仕事に慣れてきたところです」
赤いツンツン頭が特徴のリックが、答えてくれる。
このリックは、ユエの影響を一番に受けて『魔法格闘家』を目指しているらしい。
「先生、私の甘い物はちゃんと取って置いてくれているでしょうね?」
この子は銀色の髪をポニーテールにしている弓使いの女の子のエルマ。
ちょっと生意気な口だが、甘い物に目がないからしょうがないのだろう。
エルマは、魔力を矢に変えることができそこに属性をのせて敵を倒している。
なんでも、シャルの弓にあこがれたのだとか。
「大丈夫だよ、ちゃんとみんなの分はとってあるから」
「それでよし!」
そのやり取りをシャルたちは、微笑みながら見ていた。
「シャルたちもお疲れさま。
シャルたちの分も取ってあるから、帰ったら食べていいよ」
「はい、依頼料も手続きも終わりましたのでこれから帰りますね」
シャルたちがわいわい雑談しながらギルドを出て行くのを確認して
俺はジェシカさんに声をかけた。
「ジェシカさん、これ孤児院で作った甘い物です。
余ったのでギルドの人たちで、冷やして食べてください」
俺は、アイテムボックスから大きな箱を2つ取り出しジェシカさんに渡した。
ギルドのあちこちで女性のうれしい悲鳴が聞こえていたが、
ジェシカさんは、冷静に笑顔で受け取ってくれた。
「ありがとう恭也さん。
ギルドの女性陣は、恭也さんの作る甘い物に目がないのよね~」
俺は苦笑いを浮かべて、
「それは、お騒がせをしています」
と、少し申し訳なさそうに謝っておく。
ジェシカさんは、大きな箱を取りに来たギルド職員の女性に指示を出すと
「それで、今日はどうしたの?」
と、甘い物を渡す以外に何かあるのだろうと聞いてくる。
「ええ、今日は最近噂になっている近隣国の情報を聞きに来ました」
今回も読んでくれてありがとうございます。




