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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ディスプレイ〜貴方の願い叶えます〜

作者: 雪本 深白

 疲れた。それ以外の単語が浮かばない。明日も始発で出勤、あぁ、なぜ私はこんな仕事を選んでしまったのだろう。朝は早く、帰りは遅い、日中オフィスの中でプログラムと向き合う。睡眠時間は不規則で食事はコンビニの弁当ばかり。休暇もロクに取れないし、取れたとしても疲れすぎて寝て起きたら終わる程度の休日だ。服を買いに行く暇も無いから未だに学生時代の服を着ている。賃金も安い。だから貯金も出来ない。最低の職場だ。けれどやめられない。やめたら家賃が払えないし、無理やり上京した手前泣きつける実家も無ければ恋人もいない。こんな人生を後何年、何十年と繰り返して、そして死んでいくのだろうか。

 鏡に写った自分の顔を見る。メイク越しでも分かる青白い精気の消えた顔。ふぅ、とため息をついた。

 冷蔵庫から缶チューハイを取り出す。数少ない楽しみの一つだ。好きな味ではないがジュースより安くてしかも酔える。明日仕事だがどうでもいい。今だけはそんなことは忘れたい。

 なんか楽しいこと、無いかな。缶から直接チューハイを飲みながら、パソコンを付けていつものように動画サイトを適当に巡回する。

 別段、動画を見るのが楽しいわけではない。ただ、帰ってすぐには寝付けないし、音のない部屋は寂しい。だからといって家で待ってくれる恋人が欲しいとは思わない、別に今の状況で人がいても紛れるとは思わないからだ。

 あぁ、もっと楽に生きたいなぁ。何人ものメイドや執事を抱え、そのものたちは私のためにあらゆる給仕をしてくれる。私は働かず一日中好きなことだけをして、夜を迎えれば豪華な晩餐を最高のワインと共に頂いて豪華なベッドで優雅に眠りにつく。何人もの上流階級の男性が求愛をし、悩んだ挙句、誰もが羨むような素晴らしい結婚をするのだ。

 ふと、パソコン画面に見慣れない文字が表示されていることに気づく。

 検索サイトの入力フォームのようなものの上には『あなたの願い、叶えます』の文字。

 悪質ないたずらだろうな。押したらウイルスに感染するたぐいのやつだ。私は画面を消そうとマウスに手を伸ばした。

「消しちゃうんですかぁ?」

「うわぁぁあ!」

 いきなり背後から声をかけられる。反射的に立ち上がって後ろを見た。

 女性が立っていた。真っ白なワンピースを来た長い黒髪が特徴的な二十代くらいの女性だった。整った顔立ちをしており、そのあまりの精密さは人工的な美しささえ感じさせられた。

「な、な、な」

 あんたなんなんだ、どこから入ってきたんだ、警察呼ぶぞ。そう言いたいのに言葉がうまく出ない。

「それに入力したら、何でも願いが叶いますよ?」

「何でも? そんなわけないだろう? そんな都合の良い世界があるわけない」

「それがあるんですよぉ、嘘だと思うなら何でも適当に入力してみれば良いですよ。通常は一回だけなんですが、今だけ特別に三回まで入力して良しとします」

 私は無言でパソコンの前に座り直す。そしてキーボードに指を置く。

 願い、か。改めて言われてみると思い浮かばない。

 女性の言葉が嘘でなければ三回使えるらしい。ならとりあえず現金かな。あまり大金だと扱いに困るし、百万円くらいにしておこう。

 私は『百万円欲しい』とフォームに入力する。そしてエンターを押す。パソコン画面に『送信完了』の文字が表示され、元の入力画面に戻る。

 百万円は勿論、出てこない。

「何も起きないんだけど」

 後ろを振り返る。女性はニコニコとした人当たりのよい笑顔を浮かべた。手には私の預金通帳が握られている。

「この口座のネットバンキングって使えます?」

「……使えるけど?」

 口座開設のときによくわからないけどついでに登録した記憶がある。

「そっちに振り込んでおきましたので、ご確認ください」

 私はすぐに口座ページを開き、残高を確認する。

 よくわからない振込先から百万円が間違いなく振り込まれていた。

「マジか……」

 いや、安心するのはまだ早い。この金の素性がわからなさすぎる。

「ねぇ、この金って一体どういう理屈?」

「魔法です」

 回答になっていない回答が帰ってきた。怪しすぎる。

「利子はいくら?」

「とりませんよ、それは貸したモノではなく、あなたにあげたものですから」

「誰が?」

「私が」

 埒が明かない。とりあえず、金は安全なモノだと信じて話を進めるしかない。

 意を決してチューハイを一気飲みする。シラフではとてもデキそうにない話だ。

「あんたも飲む? 話を聞きたい……安酒しかないけど」

 私は缶チューハイの缶を傾けて女性に聞いた。

「え、私も飲んでいいんですか、ありがとうございます。いただきます」

 長い夜になりそうだと感じた。

 


 缶チューハイを二本空け終わると同時に彼女の説明が終わった。要約するとこういうことだ。

『彼女はこの世界に存在している何でも願いを叶えられる者によって雇用された存在で、私のように悩みを抱えた人間の悩みを超常的な力で解決する。解決の代償は人間の魂で、私の死後に頂いていくということになる』

 かなりファンタジックな説明だが、アルコールの力を借りればなんとか納得出来なくはなかった。けれど疑問は残るので予め聞いておく。

「魂を取られると具体的にどういう問題が起きるの?」

「あー、今の理だと輪廻の輪から外れるので二度とこの世に生まれることが出来なくなります。とはいっても次も人間とは限らないですし、この理がいつまで続くかわからないですからね」

「ふーん」

 何を言われても実感がわかなかった。まず魂からしてよくわからない。

「じゃあさ、私が仮に今の理?に違う理を願ったらどうなるの?」

 女性は今までの笑顔を崩して考え込む。しばらく考えるようにしてから口を開く。

「変わらないとは思うんですけど、うーん、変わっちゃうケースもあるんですよねぇ」

「どういうこと?」

「私たちがかなえられる願いって実は限度があってですね、お願いをする側が信じてないことって実現出来ないんですよ」

「私信じてないけど百万出てきたんだけど?」

「あー、言い方が悪かったです。正確には実際にイメージが出来るものですかね。お金は大体成功するんですよ、みんな見たことがあるから。ただ、輪廻転生の現場って言われてイメージ出来ます?」

「……出来ない」

「ですよね。よっぽど強くイメージできて、かなり強烈に願えば可能かも知れませんが……やってみます?」

「いや、いいわ。もっと現実的なやつがいい」

 空になった缶を揺らす。ふと、時計を見ると時刻は二時を過ぎていた。六時には出勤、徹夜出勤しかも酒臭い身体でかぁ。あぁ、休みたいな。

「ちなみにイメージが出来ても出来ない願いとかってあるの?」

「出来ないということは無いんですが、死者蘇生、不老不死、資本の極度の集中、大規模な歴史改ざん、タイムスリップ、異世界転生、このあたりはあまりおすすめしないですね」

「理由を聞いても良い?」

「イメージ不足で失敗するんですよ。こう、望まない感じで実現されて後から八つ当たりされるので、やめて欲しいというのが本音ですね。異世界行ったけど全然楽しくないしモテないって! こっちからしたらメチャクチャもいいところですよ。なんで異世界だと楽に勝てるみたいなイメージあるんでしょうね?」

「さ、さぁ? 自分の実力不足を環境のせいにしてるからじゃないの?」

 まぁ、それは私も似たようなものだし、あまり強くは言えない。

「ちなみに資本ってどれくらいまでセーフ?」

「宝くじで当たる金額くらいまではセーフです。その場合だとこっちとしても当たりくじを用意するだけで済むので手間も楽です。イメージもしやすいでしょう?」

 確かに。宝くじを買うたびに当たったら何買おうとか考えたりする。当たってその行動をするかはさておき、イメージはしやすい。

「逆におすすめのお願いとかってある?」

「イメージしやすいのは全般的におすすめですね。元々叶えたい夢があるタイプだとわかりやすいですね。例えば野球選手になりたいとかみたいな」

「へー」

 じゃあ、私も楽なやつにしようかな。別に人生変えるほどの願いがあるわけじゃない。しかもさっき百万円手に入れたわけだし、あと二回願い事が出来るわけだから、有給ともうちょい条件の良い仕事があれば満足デキそう。

 決めた。酒の勢いでさっさと二つ目も使ってしまおう。

「二つ目の願いなんだけどさ、今から一ヶ月くらい有給にすることって出来る?」

「え、超余裕ですよ。そんなのでいいんですか?」

 信じられない。たった一日の有給申請ですら、職場全員から白い視線を感じるのに一ヶ月も有給が取れるとか夢みたいだ。

「じゃあ、あちらの入力フォームからお願いします」

 彼女はパソコンを指し示す。きちんと手続きしないとだめらしい。

 私はパソコンに座り、『有給休暇一ヶ月ください』と入力した。送信完了の画面が出た。何も変化は起こらない。これで本当に大丈夫なのだろうか。

「ねぇ、これ本当に……」

「あ、大丈夫ですよ~、これ見てください」

 私のスマホを手渡す。同僚からのメールが入っていた。

『そういえば明日から有給なんだよね。いいなぁ、私も来月辺り取ろうかな。今年から長期有給休暇の取得を推奨するとかうちの会社も変わったよね』

 送信時刻を確認する。今から五時間ほど前に送信されたものだった。

 五時間ほど前は私は電車で帰宅中だった。そのときにメールは届いていなかった、つまり、これは。

「ちょっとした歴史改変ですね、まぁ、これくらいは問題ない範囲ですよ」

 女性は無邪気に微笑んだ。

 現在、時刻は午前三時を過ぎていた。

「ふっ、ふふふふ」

 あまりにもご都合主義的すぎる展開に私は嬉しさが止まらない。

「よしっ! 今日は飲むぞ! 徹夜だ! 付き合え!」

「はいっ!」

 名前も聞いていない見ず知らずの女性を巻き込んで深夜の宴会がスタートした。

 


 翌日。私は唐突な吐き気を感じて覚醒した。そのままトイレに駆け込むと一気に胃の内容物を嘔吐した。マーライオンのような勢いに自分でも苦笑する。流石に羽目を外しすぎた。

 ひと仕切り吐き終え、時計を見る。時刻は出勤時間をとうに過ぎていた。血の気が引くのを感じた。慌てて会社に連絡を入れる。

「すいません、ごめんなさい、体調が悪くて先程まで寝ていましたがもう大丈夫です。すぐに出勤いたしますので」

 自分でも何を言っているのかわからない内容を矢継ぎ早に繰り返す。

「何を言ってるんだ? キミは今日から一ヶ月間長期有給だろう? もしかして忘れていたのか?」

 ハッハッハッと上司の快活な笑いが電話越しに聞こえてくる。有給? そんなものうちの会社にあったっけ? ここまで考えてようやく昨夜のやり取りを思い出す。

 本当に、今日から一ヶ月もおやすみなんだ。ようやく実感が湧いてきた。

 上司と二言、三言会話を交わし、電話を切る。そっか、休みなんだ。

 リビングに戻り水を一杯飲む。まだ気持ち悪さはあるが、精神的には晴れ晴れとしていた。

 ふと、テーブルの上に置かれた通帳に目が行く。口座には百万円という大金が詰まっている。

 そして何より願い事はあとひとつ残っている。

 とりあえず今はこの有給を楽しもう。お金があって時間もある。とてもいい気分だ。何をするかはまだ決まらないが、とりあえず今日は二日酔いを治すことにしよう。流石にこの体調で出かけるのは厳しい。

 私は軽くシャワーを浴びて、ルームウェアに着替えると、ベッドに横になった。

 


 有給を消化して一週間が過ぎた。

 私は正直、途方にくれていた。控えめに言ってあまり楽しくないのだ。

 時間もお金もある。初日にたっぷり眠ったお陰で体力もある。しかし、やりたいと思えることがないのだ。

 考えてみれば私は趣味らしい趣味が特にない。

 基本的に休日は日用品や生活必需品の買い物をして、その後は適当にテレビやネットを見て、コンビニ弁当やカップ麺を食べながら缶チューハイを飲む日々を続けていた。それ以外に興味とか感心が無かったものだから趣味と呼べるものがまるでなく、また始める気力も無かった。

 最初の方は相手をしてくれた女性も今はもういない。最後の入力フォームだけがいつでも記入出来るようにパソコン画面に浮かんでいる。

 虚しい。心からそう思った。買い物をしようにも欲しいものは一通り家にあるし、わざわざ街に出てウインドウショッピングを楽しむほどの陽気な気分にもなれなかった。

 そして出る気力も無いから髪はセットしていないし、メイクもしていない。服装も家用のジャージのままだ。

 あと三週間、何をしよう。

 


 気づけば有給生活も半分が終わっていた。

 私は当初の百万円も生活費以外は大して消費することもなく過ぎていた。

 日ごとに募る虚しさを埋めようと気晴らしに服を買ったり、旅行をしたりもしたが、元々インドア派なためか不慣れな土地や店を歩き回るというストレスが強く、あまり楽しいと思える結果にはならなかった。

 こんな時、夢や趣味のある人なら違うのだろうか?

 ここぞとばかりに自分にとって楽しいことや面白いと感じることに時間とお金を全てつぎ込んでしまうのだろうか?

 今の私には理解できない。

 だが、そういう人間になりたいと願った。

 お金で時間でもなく今、この瞬間に生きているという実感が欲しい。

 もしかして、願い事というのはこういうことのために使うのだろうか?

 自分がひどく不純な人間のように感じた。



 無限に続くのではないかと思われた一ヶ月に渡る有給生活も残りは三日となった。過ぎてみると早いものである。

 ゆっくり休めたおかげか以前と違って体調はとても良い。やはり働きすぎだったのだ。その一方で、自分という人間の生活にいかに仕事というものが多くの比重を占めていて、またそれが必要なものであるかを実感した。

 もちろん、仕事は好きではない。嫌な思いや理不尽な経験を沢山する。ではなぜ人は働くのか?

 お金が欲しいというのはもちろんある。だが、お金だけではなく、社会と関わることで自分自身に強い刺激を与え続けることが出来るから仕事と言うものが必要だと思うのだ。

 以前の私なら『綺麗事』と笑い飛ばしていただろう。しかし、一度社会から隔離されたことで私はその綺麗事を受け入れることが出来た。

 自分の人生を変えていくのにキセキなんていらない。必要なのは自分から自分自身を変えていくために一歩を踏み出していくということだ。

 そう思った私はパソコンに表示された入力フォームに入力を始めた。

 入力して送信すると、『送信完了』の文字が表示されて、入力フォーム自体が一瞬で消えた。おそらく、もう二度とこの画面を見ることは無いだろう。

 私はパソコンの電源を落とすと服を着替え、きちんとメイクをして髪を整えた。仕事以外できちんとオシャレをしたのはずいぶんと久しぶりな気がする。窓から外を見る絶好の小春日和だった。さぁ、出かけよう。私はカバンを持って玄関へと向かった。

 

 *

 

 休みが終わる前にどうしてもしておきたいことがあった。

 百万円の処分だ。貯金しておくという手もあったが、自分の力で得たお金ではないし、あったところで今の自分では何の役にも立たない、そう感じていた。

 家の近所にある公園のベンチで腰を下ろす。平日の昼間だが、未就学児童とその親やお年寄りで結構な賑わいを見せていた。

「あの、本当にそれでいいんですか?」

 女性が私に声をかけてきた。最初に出会ったときとは異なりボトムスはワイドパンツにスニーカー、トップスはデニムジャケットにインナーとしてボーダーシャツをあわせた随分とカジュアルでありながらも流行を取り入れたオシャレなスタイルであらわれた。胸元には月を模倣したネックレスがキラリと光る。彼女のモデルのような風貌に母親たちがわずかにざわめいた。美人がオシャレをするとすごいことになるというのを実感した瞬間だった。

 色白で整ったきれいな顔立ちは人形を彷彿とさせる。この世のものでない美貌についつい目を奪われる。

「うん、いいんだよ。これで」

 私はカバンを彼女に手渡した。中身は百万円入っている。結局この期間中の費用は全部自分で支払った。

「貯金しておくっていうのもアリなんですよ」

 彼女は微笑む。たぶん、勘違いしているのかも知れない。

「いや、いいよ。今の私じゃ、そのお金はふさわしくないんだ。よくわからないかもしれないし、私でもよくわからないんだけど」

「わかりました」

 彼女はカバンを受け取る。するとまるで初めから無かったかのようにカバンが消えた。

「隣、いいですか?」

「どうぞ」

 彼女は私の横に座った。肩が触れ合う距離。一瞬だけ風に流れてさらりとした髪が私の肩に触れる。

「これからどうするんです?」

「さぁ? また仕事に戻って、毎日ボロボロになって、休みの日はぐーたらするかな。それで余裕があれば……」

「余裕があれば?」

「自分のしたいことを探してみたいと思うよ。誰からバカにされてもいい。自分が心からやりたくて時間も、情熱も、すべて注ぎ込んでも後悔が無いと思えるものをね」

「見つかるアテはあるんですか?」

「無いよ、だから色々気になったら片っ端からやってみるつもり」

「だったら」

 お金いるんじゃないですか、そう続けそうな彼女の唇を指で制す。

「それは自分が稼いだお金でやりたいんだ。エゴイズムだと思うよ、けれど自分が働いたと実感出来るお金で無いと私は意味が無いと思うんだ」

 ひらり、と。二人のあいだにさくらの花が舞い落ちる。

 彼女は納得したように頷いて、穏やかに微笑んだ。

「わかりました。次に会うときにどんな人生だったか教えて下さいね」

 そういえば魂を捧げる契約をしていたことを思い出した。魂の代償が一ヶ月の有給休暇って絶対見合ってない。自分でもおかしな契約をしてしまったと思う。

「そうだね、いい報告が出来るように頑張るよ」

 私はそう言って彼女の首の後ろに左腕を回すと、左手で彼女の右耳を塞ぐようにして身体を引き寄せ、キスをした。

 二秒にも満たない軽いキス。これには彼女も驚いたようで顔を真っ赤に染めている。

「あの、あなたってその、そういう人だったんですか」

 怒り、恥じらい、驚愕、そして喜び。それぞれが同率くらいでブレンドされた表情で彼女は私を睨む。そんな顔も出来るんだ、驚いた。

「そうかも知れない。自分でも自分のことをよくわからないんだけど、うん、そうだね理由をあげるとすればあなたがあまりにもキレイだったから、ついキスしたくなっちゃった」

 私はありのままの気持ちを伝える。衝動が抑えきれなかった。彼女をひと目見たときから感じていた『美しい』という衝動がどうしても。それが暴発した。自分でも自分の行動に驚いている。

「何でも出来るお願いなのに最後に『キミに会いたい』なんてお願いをするから一体何をするのかと思えば……本当にあなたは変な人ですね」

「それはお互い様。いきなり人の家に来るほうが変だよ」

 そういえば、私はあることに今更ながらに気がついた。名前を名乗っていない、そして名前を聞いていない。本来、初対面ならば最初に行うべきであるはずの行為をここまで本当に最後の瞬間まで先延ばしにしていた。

「ねぇ、最後に教えてよ。キミはなんて名前なの?」

「先にそちらから名乗るのが礼儀ではありませんか?」

 私は苦笑する。確かに。そのとおりだ。私は自分の名前を告げる。面白みも無ければ特徴もない、ごくごく一般的な名前だ。

 彼女は私の名前を聞いて一瞬だけ納得した顔を見せてから口を開いた。

「私は……」

 二人の間に今年最初の春一番が流れた。


まずはここまでお読み頂きありがとうございました。


あらすじにも『雑に』とあるように執筆前に思いついたテーマである『何でも願いを叶えてもらえるならどうする?』という問いかけに対して、深夜テンションの勢いだけで何も考えず筆を走らせていたら、自分でもよくわからないところに着地してしまった感じの作品が本作となります。

特にラストシーンはなぜああなったのか自分でもわかりません。


あと、ジャンル分けですが、今回のように『現代的な舞台でマジックリアリズム的な要素があり、恋愛要素がわずかにある作品』はローファンタジーなのか、それとも恋愛小説になるのか真面目にわかりません。

どちらなんですか? ご存じの方がいらっしゃったら教えていただけると幸いです。


ご意見、ご指摘、誤字脱字等ございましたら、是非一言よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  抽象的ですが、文章がとても読みやすいリズムです。一文一文が、無理に長くないし、段落もちゃんと長くて。「本当の私は偽りの私」と「バレンタインデーに何を贈りますか?」も読ませていただきました…
[一言] アリシア冷血宰相の新作(_・ω・)_バァン (_・ω・)_バァン(_・ω・)_バァン(_・ω・)_バァン そうね。 ぼっちさんが言うように、ちょっと暴走してしまった感がありますが、リハビ…
[一言] こんばんは。ぼっちです。 読みました。 アリシアさん、お邪魔します。 オチまで読んで、途中から暴走したなって読みました。 ドラマを挟むのが上手くいかなかったって読めました。 仕方ないから最後…
2017/04/08 17:57 退会済み
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