チュートリアル
広い広い草原。そこにはたくさんの花が咲き、遠くには大きな山が見え、とても気持ちいい。
「こいつらさえいなければな…」
俺の周りにはいつの間にかネバネバしてて、まるでスライムのような生き物に囲まれていた。
「お前、戦えるか?」
「いや、戦えるか?って。無理ですよ。子供の頃に振り回していたような戦い方じゃダメでしょ…」
「よし、戦えるな。」
人の話を聞け。この世界の住人はまさかみんなこんな感じじゃないだろうな。
「まあ、チュートリアルとしてはこんなモンスターがお似合いだな…」
そう言って剣を構える。この歳で恥ずかしい。完全に中二病だ。
「さあ!戦え!士郎!」
「うおおおおおお!!!」
とりあえず思い切り振ってみた。
ズドドドドド…
「は?」
地面が真っ二つに割れた。ただのプラスチックの剣を一振りしただけで。周りのモンスター達は怖がり逃げてゆく。
「さすが勇者だな。」
「いやだから人違いだって…というかなんでこんなに強えんだ。完全にチートじゃねえか。初期装備でこれかよ。」
「最強の剣。だからな。」
「最強の剣だけどな。」
とりあえず危機は乗り越えられた。この剣。プラスチックのくせに本当にチート能力を持っている。まさか本当に俺は勇者なのだろうか。
「とりあえず、住むところを探さねばっ!」
「おい待てソフィ。住むところって。勇者だから特別待遇的な感じで豪華なホテルとかに泊まれたりしないのか。」
「ホテルとはなんなのか分からんが、勇者としてそれなりの実績を持って王の元へ行かないと認められないよ?」
「それまではもしかして自分で働いて自分で食っていかなきゃいけないのか?」
「そりゃそうでしょうよ。」
あまりにも理不尽すぎる。いきなりこの世界に連れ出されていきなり戦わされて、高校生というのに働いて稼いで自分で食えって。理不尽すぎるぞこの世界。
「とりあえず宿を探しましょう。宿代は明日からちゃんとお仕事を見つけて稼いでいきましょうっ!」
「….…」
「どうしたの?急に黙り込んじゃって」
「いや。もう泣かなくなってきた。」
本当に帰りたい。助けて、お母さん。
とりあえずその晩、適当な宿を見つけ、そこで生活をしてゆくことになった。
「明日から働かなきゃいけないのか…」
働く。大人になったらそれが当たり前になって行くのだが、今はまだ学生。思い切り遊びたいのが普通だろう。いきなり連れ出されて無理やり働かされる。これじゃまるで奴隷だ。そんなことを思いながら湯船に浸かっていた。
「働く、とは言っても店の皿洗いだ。楽な方だとは思うよ。」
「皿洗いか…それなら気楽…」
ちょっと待った。俺は今誰と話している。いや、聞き覚えのある声だから誰と話しているかはわかるがここは風呂だ。ソフィがいるわけ…
「ここにいるぞ。」
「ち、ちょっと待て!」
目の前に裸の少女が立っていた。健全な男子高校生にそのような姿はあまり見せて欲しくない。
「なんだ。どうした?士郎」
「いや隠せよ!どうして男の前で裸になってそんな平然としていられるんだよ!」
「別にいいでしょ…そのくらい」
「よくねえよ!どうなってるんだこの世界!」
「なんだ?そんなに珍しいのか?女の裸が、そんなに気になるなら…」
「ああ!もういい!俺は出る!」
そう言って俺は風呂場から逃げるように出た。本当にこの世界の住人は頭がおかしいのだろうか。それに、明日からは仕事をするのだ。今日は早めに寝ることにした。
「起きろ!士郎」
「ん…」
外が明るい。風が暖かく、穏やかな日差しが部屋を照らす。
「朝か…」
「さっそく、仕事に行こう、士郎!」
「分かったから。あまり騒がないでくれ。なんで朝からそんなに元気なんだよ」
そうして俺とソフィは仕事場へ向かった。
仕事が終わると必ずモンスター討伐に出かける。
討伐するのはいいのだがこれを毎日繰り返していくうちに、段々と草原が荒れて行くのがわかった。
「これ、ヤバくないのか?実績を得るためとはいえさすがにやりすぎだ。というかもう一週間も経ってるんだし、そろそろいいんじゃないのか?」
「いや、まだだ。まだ実績を作らないと王国からの依頼を受けることができない」
「めんどくさいな…全く」
そんな会話をしている時だった。
ザッ…
「!?」
「誰だ!?」
後ろを振り向くとそこには鎧を見にまとった女が立っていた。
「お前たち、ここで何をしている。」
「なんかモンスター討伐の実績がないと王様に会えないからと…」
「王様にあってどうする。」
「この男。士郎は勇者に選ばれた。その証拠にこの剣を持っている。」
「何?勇者だと?」
ん、待てよ。「この剣が証拠」確かに今そう言った。
「あのさ、ソフィ」
「なんだ?」
「この剣が証拠なら、実績いらないよね。」
「…」
「…」
「確かにそうだな。王国の依頼を受けるためならば実績が必要になるが、勇者として、国王様に会うのなら別だ。」
「だ、そうですよソフィさん。」
「…」
「今まで僕らがやってきたことは無駄だったってことですよね。」
「…」
「つまりは、毎日働かずとも、この剣を持って勇者と証明すれば、住む場所も確保してくれたのでは?」
「…」
「なんか言ってくださいよソフィさん。」
「…う」
「…う?」
「う、うわぁぁん!そんなに責めなくてもいいじゃない!人間誰にだって間違いはあるでしょう?」
やばい。泣かせてしまった。さすがにやりすぎたようだ。
「士郎のバカ!士郎のバカ!」
「えええええ…」
「…はぁ、まあ良い。とりあえず勇者としてお前たちを国王様の元へ案内する。私についてこい。」
そうして俺とソフィはこの女性ともに国王様の城へと向かった。