俺、勇者に選ばれたらしい。
子供の頃。俺、久富 士郎」はお気に入りの玩具があった。
プラスチック製の剣。誰しもが憧れていた勇者の剣をモデルにした剣。その派手な見た目に惹かれ、俺は誕生日に親からプレゼントしてもらった。毎日その剣を肌身離さず持っていたが、年月が経ち、いつの間にか高校生になっていた俺は、その剣を捨てることにした。当たり前のことだ。むしろこの歳まで大事に持っていたのがおかしい。
「今までありがとうな。けどこの歳で君を持っているのは少し恥ずかしいんだ。だからごめん。言い方は悪いけど捨てることにするよ。」
プラスチックの剣でも子供の頃はずっと一緒だったのだ。多少愛着があった。せめて礼を言って捨てることにした。はたから見れば頭のおかしい奴だろう。
そして俺の部屋からはプラスチックの剣は消えた。
ところがある日。
「あれ…?」
捨てたはずのプラスチックの剣が俺の部屋にあった。
「おかしいな…捨てたはずなんだが」
そう、捨てたはずなのだ。ゴミ袋に入らず真っ二つに折った所まで覚えている。壊れたおもちゃを取っておくなんてことはない。確かに捨てたはずだ。しかし真っ二つに折ったはずなのだがその剣は元どおりになっていた。
ゾクッ…
まさか真っ二つに折ったことを恨み、こうしてまた戻って来たのだろうか。
「な、なに考えてんだ俺。そんなことあるわけないだろ」
声が震えていた。怖かったのだ。ちびるかと思った。昔からお化けなんてものが大嫌いなのだ。
「真っ二つに折ってごめんな。今度はちゃんと綺麗なまま捨てるから。」
そう言って仕方なく俺は強引にもゴミ袋に剣を入れ、ゴミ捨て場へと向かった。
翌日の朝…
「なんでだよ!?」
間違いない。昨日捨てたはずの剣がまたもや机の上に置いてある。その後何度も捨てたり、燃やそうとしたりしたが机の上に必ず戻ってくる。
「はぁ…はぁ…なんでだよ…」
どこをどう見てもただのプラスチックの剣だ。なんの変哲もない、ただの剣。
「捨てんなよぉ〜…」
どこからか声が聞こえる。しかし自分の部屋には俺以外。誰もいない。…捨てんなよ?
「いや、まさかな。」
この剣が喋った?そう思いもう一度剣を見るがやはりなんの変哲もないただのプラスチックの剣だ。
「しろう〜…」
今度は名前を呼ばれた。部屋を改めて見回すが、やはり自分以外は誰もいない。
「……」
なにが起こっているのか分からない。というか怖い。
「この剣が…喋ったのか?」
「んなわけあるかたわけが。」
後ろを振り向くとそこには少女が立っていた。見た目からすると恐らく自分と同じくらいの歳。しかし、服装は日本人のものではなかった。
「ひ、ひいいぃぃい」
「どうした。士郎よ…士郎?」
あまりの恐怖に俺は意識を失ってしまった。幽霊などは大嫌いなのだ。大事なことなので二回言いました。
ーーーー
「…ろう…士郎!」
目を覚ますと先ほどの少女が自分の上にまたがっていた。
「な、なにしてるんだお前っ!?」
「何もしておらぬわ!驚くのか照れるのかどちらかにしてくれ」
「照れてねえよ!?てかお前何者なんだ!?」
「うむ、私はソフィ。お主は選ばれたのだ。「勇者」に」
意味がわからない。急に何を言っているのかこの少女は。頭がおかしいのだろうか。
「その剣がお前が勇者である証拠なのだ。」
「いや、これただのおもちゃなんですが…」
「何を言っておる。見てみろ。このオーラ。間違いなくただの剣ではないぞ。」
「いや、オーラなんて見えないし…」
「…お前ほんとに勇者なのか?」
「いや、選ばれた覚えなんてないです。」
本気で何を言っているのか分からない。選ばれた?勇者に?というか剣が勇者である証拠?これはどう見てもただのプラスチックの剣だ。そんなにすごいものとは思えない。
「とにかく、今からお前にはこっちの世界に来てもらう。」
「は?こっちの世界?」
「今、私たちの世界では魔王が支配しようとしているの。ピンチなの。」
「いや、知りませんし…」
「そこで魔王を倒すために伝説の勇者を探していたの。勇者は伝説の剣を持ち、ここではない、別の世界の人間にいるってこの本に書いてあるわ」
「ちょっと待て。」
そこには伝説の剣の絵があった。
「いや、これ全然似てませんよね?というか何度も言いますがこれただのおも…」
「じゃあ早速行くわよ!善は急げって言うでしょ?」
「は?いやちょっと待て。」
「転移魔法」
「う、うわぁあぁ!?」
少女が魔法を唱えると眩い光が襲う。目を開けるとそこには見覚えのない風景が広がっていた。
「ここは…どこだ?」
「ここはリグネス王国。剣と魔法の国よ」
帰りたい。心底そう思った。これから俺の勇者としての旅が始まる。プラスチックの剣と共に…