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re.

心地よい空間。

古民家を思い出させるような雰囲気で。古びたと言うよりはよく手入れされたと言ったほうが正しいのだろう。

磨き上げられ黒光りした棚には色とりどりの綺麗なカップが並べられ。

棚と同じくらい研ぎ澄まされた様なカウンターの上ではカップから香りが立ち込め鼻をくすぐる。

「お世辞を言っても何も出ないよ」

「誰が言うか」

昔はやんちゃをしてきたと豪語する白髪交じりで浅黒い顔をしたマスターの口角が僅かに上がったのを見てため息をついた。

お世辞などを言わなくてもここの珈琲は上手い。

マスターが厳選し自身で焙煎した豆を手間隙掛けて丁寧にドリップするのだから文句の付けようがないのが本当だ。

故に忙しないお客はこの店には来ない。この空間と時間にこの珈琲を味わう為にわざわざ足を運びに来るのだから。

仕事の話なんてチェーン店の茶店ですればよいし、若い奴らはカフェなんて呼ばれている小洒落た店に行けば良いのだ。

「頼君は若いんだから。こんな店で燻ってないで遊んで来なさい」

「めんどくさい」

「めんどくさい言わない。加奈ちゃんが心配して」

「姉ちゃんが? 姉ちゃんこそ」

そこまで口に出してマスターの視線に気付いて口をつぐんだ。

両親は幼いころに他界していて面影すら思い出せず写真を見てこんな感じだったんだとしか思えず。

今まで色々な人の手を借りて姉ちゃんが面倒を見てくれた。

そして今まで浮いた話を一度も聞いたこともないのは自分が居たからだということを嫌というほど知っている。

「いつまでそんな爺くさい恰好をしているつもりなのかな」

「これのどこが爺くさいんだよ。日本の伝統だぞ。俺に言わせればジャパニーズデニムだろうが」

「多少の生地の違いはあるがどちらも藍染でジーンズも作務衣も作業着だけどね。もう少しお洒落とかに気を遣いなさい。少しは前を」

いつまでもre.でいるつもりはないが踏み出していいるようで留まって振り返ってばかりに見えるのかもしれない。

彼女も居ねえのにと口元まで出して飲み込んだ。

この年まで自由気ままに生きてきた俺に彼女が居なかった訳じゃない。

この店だってあいつに教えてもらったのだから。

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