流氷少女
ニッコリ笑った講師の顔が、今は鬼に思えてくる。
俺ー山上達也は、”岬の風景”を画題として描く という課題をだされた。
俺は、”風景画なら得意分野”とお気楽に考えてたが、甘かった。
ここ、北国では、2月は真冬、海は流氷で覆われてる。
夏用東屋のベンチにすわり、とりあえずスケッチ。
水彩で色をつけようとしたら、描いた紙が氷った。
東京育ちの俺には、予想、出来なかった事態だ。
念のため持ってきた、パステル色鉛筆で すばやく色をつけていく。
白の紙に白い風景を描くって、意外と面倒だ。
流氷は、デコボコしていて微妙に色がついて見える。光が乱射反射するからかな。
「ここ、本当は隙間があいて 海面が見える所」
女の子が、指さして言った。小学校4年生くらいか。
白いモコモコの毛皮のようなコートを着てた。
「へぇ~そうなの」
もう一度目をこらしてみたけど、よくわからない。
「おにちゃん、下に降りて、流氷にのれば、割れてるってわかるよ。
一緒に行こう」
女の子は、俺のコートをひっぱった。
今日はひきあげるか・・手も(手袋をしてても)足もかじかんで、感覚がない。
続きは、また、次にしよう・・
俺は、灯台をバックに、その子と自撮りで写真をとった。
岬と灯台と女の子 その組み合わせで、課題の絵が描けそうだ。
灯台をバックに二人で自撮りで写真を撮った。
それにしても、この子の親は、いないようだし、近所の農家の子?
女の子は、名前を聞いても、不思議な顔をするだけで何も言わない
海辺は大きな氷の塊で、ビッシリ埋まっている。
結局、その子と一緒に来てしまった。
岬より風がない分、幾分ましか。俺は流氷のスケッチを始めた。
画題は”岬”だけど、流氷も描いてストックしておく。
「おにいちゃん。こっちこっち。」
女の子は、流氷の上を、ヒョイヒョイ走っていった。
俺も、その後を追った。父娘にはみえないし、年の離れた兄妹にみえるかな。
子どもと遊ぶのは、純粋に楽しくて好きだけど、今のご時世、
変に誤解されても困るかなって思いながら。
流氷の塊を 上り下りしながら進むのは、初体験だけど大変だった。
女の子を追ったけど、ゆっくりしか進めない。途中、氷の間から海水面がみえる。
女の子が、遅い俺の所に戻ってきた。
「もう、おにいちゃん。遅い」
いや、この子がはやすぎる。慣れてるのかな?こういう遊び。
後ろを振り返ると、結構な距離、歩いてきたんだけどな。
フイに、足元がぐらついた、流氷が割れ、転げ落ちそうになった。
俺は慌ててしがみついたが、片足が少しだけ、冷たい海水につかった。
なんとか、足は引き上げたけど。
もう、足は冷たいというより、痛いくらいだ。
「これは、危ないな、もう帰ろう。俺は足が濡れて氷りそうだよ」
女の子は、つぶらな黒目がちな瞳で、ニッコリ笑う。
「なんだ、一緒にこないんだ。これから、旅するのに」
そういうと、クルっとふりかえり、一目散にかけていき、見えなくなった。
まずい。あの子に何かあったら、大変だ。
俺は、ヨタヨタながらも必死で浜辺にたどりつき、
海辺にたつホテルに、救助を求めた。
「すみません、あの、女の子、ずっと向こうで、流氷の上は、結構危ないし」
息をきらし、言ってる事もチグハグだ。
ホテルの人は、俺が濡れてるのを心配して、タオルを持ってきてくれた。
「ああ、あんた、流氷の上を歩いてたね、今日は暖かいから、危ないなって
注意しようかと思ったけど、帰ってきたんだ」
いたってノンビリでとした口調
「すぐ警察に連絡を、女の子が一人で流氷の上を歩いて行ってしまって」
少し体が暖かくなったのか、なんとか落ち着いて話せた。
でも、ホテルの人は、こう言った。
「いや、流氷の上を歩いてたのは、間違えなくあんた一人だったよ。
今日は、暖かいんだ。こういう日に 海に落ちる事故があるからね。
ちょっと注意して見てたんだ」
俺はあわてて、スマホの画像を見たが、そこに映ってるのは岬の風景の
におさまってる俺だけだった。
あの子、旅をするって言ってた。
もし、俺はついていったら、どうなったのだろう。
休み明け、俺は2枚、課題を提出した。
一つは岬の風景。一つは流氷の海で少女が乗って、こちらを振り返ってる絵だ。
担当の講師は、少女の絵を見て、うなっていた。
「この子、まだ旅をしてるんだな」
俺は詳しく聞こうとしたけど、なんとなく寒気がして辞めた。




