3.
詩和
話が終わった俺と院長と呼ばれる女性はギルドを後にした。その際、何も身につけていなかったので簡素な服を着せられたが…何故かワンピースだった。こどもだからこういうものなのか?と疑問に思いながらも受け取って着ることにする。そしてパンツは無かった。その前に本来それで守るべきであるモノも無く、ツルペタだった…いや、少し意識が飛びかけたが、驚き過ぎて逆にすんなり受け入れられた。360度まわったのかな?因みに上の2つの凸も無かった。…異世界超不思議
そんなこんなで外に出ると前世(ということにしている)では見たことのないような綺麗な橙色に染まった空に沈みかけの大きな太陽という夕景に感動して暫し足を止めてしまった。しかし、俺は右手に繋がれた院長の温かい手の感覚を感じてハッと気づいた。見上げると院長は優しげな笑みを浮かべていた。夕陽に映える綺麗な女性だ、とまた惚けていると「帰ろっか」と言う。それに応えようとするが声が出ないことを思い出して首を上下に振ってうなずくと、沈みかかっている夕陽に向かって歩き出す。院長が何かの曲を鼻唄で唄いながら歩く。俺が5歳くらいの身長に対し院長が平均的な成人女性の身長なので小さくだが、繋がれた手が鼻唄に合わせて振られる。
こんな温かい気持ちになったことはこれまで無かっただろう。そう思いながら歩く。新しい家へと向かって
ギルドを出てからしばらく、院長の鼻唄が2曲目の終盤くらいの時に、教会のような建物の前で院長の足が止まった。
「今日からここがあなたの家だよ。いまさらだけど、私がこの院で院長をしているモナルダで、モナルダ孤児院と言われているここでは私がお母さんであなたの他にも30人くらいの子たちが暮らしているの。あなたも声が出るようになったら、みんなが呼んでくれるようにお母さんって呼んでねっ。さあ、入りましょうか…帰って来たらただいまって言うんだよ。じゃあ…ただいまっ‼︎」
おかえりーっ‼︎と、子どもたちの大きな声が聞こえてくる。懐かしいな…高校に入学して1人部屋に引っ越す前までお世話になっていた孤児院を思い出す。ここから俺の新たな人生が始まろうとしていた
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モナルダ
子供達の元気な声とともに多くの足音が近づいて来るのが聞こえる。その音に反応して私の後ろに隠れてスカートを握り締める子に大丈夫だよと、言葉をかける。さて、今日の夕食は何にしようかな…
その後、私達を出迎えに来た子たちにもう一度ただいまと言って、年長組の子達が今日も宿屋などから残ったごはんを分けて貰って来たらしいのでそれを並べて夕食にする旨を伝える。それを聞いた子たちはほかの子を呼びに行ったり、食器の準備をしにキッチンへ行ったりする。そして、みんな揃って準備ができたところで挨拶…の前にみんなに紹介する
「はい。じゃあここでお母さんから発表があります。今、私の隣に居るこの子は今日から私達の家族です。みんな仲良くしましょう。この子は喋ることができないけど、みんな仲良くしましょう」
「「「「はーい」」」」
「その子の名前はー?」
そういえば、名前を聞いていなかったことを思い出して見てみると首を振っていた…名前を知らないってことかな?
「名前つけてもいい?」
「…(コクッ)」
「お母さーん、あたしルナちゃんがいいー」
「あたしはパルちゃんがいいー」
「…パ、ル、ナ…じゃあパルナでどうかな?」
「…(コクッ)」
「「「「よろしくパルナっ」」」」
「さ、それじゃあ食べましょうか」
私の声をきっかけにみんながごはんを食べ始める。それを見て自分も食べようと視線を落とすと、パルナがまだごはんに手をつけようとせずにみんなが食べているのを眺めていた。
「どうしたの?食べないの?」
「…(フルフル)」
「…うーん…食べられないの?」
「…(コクッ)」
「…スープだけでも飲まない?」
「…(フルフル)」
うーん…食べられないものがあるのかそもそもごはんが食べられないのか分からないけどこれはメクスさんに報告するかな。この子を引き取る際にこの子が奇人族で、種族特徴が外見では不明だったので生活してみて何かの特性が出るような事態があれば教えて欲しいと頼まれたので明日にでも行こうかな?、と食事をしながら考える。
ごはんを食べ終えた子どもたちは自分の食器を洗い場に持って行き、寝る準備をしに部屋に戻っていく。私はみんなの食器を洗って見回りを行う。パルナはそんな私の後をずっとついてくる。トテトテと歩いてくる姿はかなり癒される。他の子達は私が見回りに来るとおやすみの挨拶をして明かりを消す。パルナに気づいた女の子たちは手を振っておやすみと言うけど、喋ることができないので手を振って返す。女の子たちはそんな可愛いらしい姿に悶絶してほんのりと染まった頰に手を当てている。全部の部屋を巡って最後に私の部屋にたどり着く…最初に来とけば歩かせないで寝かさせあげられたなと、反省して一緒にベッドに入る。パルナが目を閉じて少ししてゆっくりとベッドから降りる。さて、もう少し仕事しようかなと机に向かい小さな明かりをつける。
…計算が合わない。暫く数字とにらめっこしていると、スッと白い手が伸びてくる。びっくりしてペンを取り落として親指に刺してしまう。うぅ、地味に痛い。白く細い手。しかし改めて見るとパルナの手だと気がついてホッと胸をなでおろす。び、びっくりさせないで欲しいな。そういうの少し苦手なんだよぉ…と、少し据わった目をその手に向ける。しかしその白い手はある所を指差している。何かあるのか?と見てみると計算違いをしていた…あれ?どうやって気づいたんだろ?不思議に思いながらも訂正していき、計算がぴったり合う。もしかしたら頭が良いのかも?…いや、良すぎだよ⁉︎私でさえ計算機を使うのに…これも種族に関係するのかな?明日の報告する内容が増えたなぁ。まあ、教えてくれたのでありがとうの意をこめて頭を撫でてあげる。さらさらの桜色の髪を撫でるとくすぐったそうに笑う。お人形のように綺麗な白い肌にほんのり頬を染めた微笑みはヤバイすんごい可愛い…と止められなくなるのを自覚しながら撫で続ける。しかしふと気づく…淡い桜色の髪の中で一部だけ漆黒に染まった髪があった。いままで気づかなかっただけかな?いやでも…思考の波にさらわれかけた時、視界を何かが掠める。正体はパルナの背後で荒ぶる程振られている細く長い…尻尾?先っぽの方はハート型で先端が尖っている。それらを凝視して頭の上で手を止めていると、それに気付いたパルナが上目遣いで見てくる。そしてワンピースの裾がめくれ上がっていることに気づき、直そうと手で抑えていると尻尾に気づいたようで動きが止まる。尻尾も止まる。そして小首を傾げる。尻尾は「?」マークをつくる…それからパルナはおもしろい玩具を見つけたかのように、スカートがかなりめくれ上がっていることを物ともせず尻尾を自由自在に操って楽しんでいる…なんだろう…癒される…ふわぁぁ…今日は色々あったから疲れたのかな。もう寝よう…明かりを消した後パルナを誘ってベッドに入る。徐々に意識が薄れていく…左手親指に湿った温かい感覚が伝わるがそれを確認すること無く意識を手放した
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パルナ(詩和)
食事の時には感じなかった匂いや味。しかし今はそれらが強く感じられる…目の前に未だかつて嗅いだことのない絶対的美味な甘い香りを放つ物体を発見した本能は言った。
ソレを飲め。と
確認してみるとモナさん(院長)は眠ったようである。ならばいただこう…親指ぺろぺろ…⁉︎なんと‼︎体の底から力がみなぎってくるではないかっ⁉︎むむっ止められん…ぺろぺろぺろprprp…
【情報解析完了。種族 : 普人種】
【種族情報により、《変身 : 普人種》が解放されました。】
突然脳内に響く機械的な音声。−某電子歌姫を思い出した。それはさて置き、内容は非常に興味深いものであると思われる。情報、とはつまり俺が飲んだ血液に含まれていたもの、或いは血管を伝ってそういう情報が保存されている器官から拝借したものだろう。しかし…《変身 : 普人種》って…モナさんを起こさないようにそっとベッドから抜け出し、ペタッと降り立つ。左手を腰に右手を左下に構え目を瞑る。右手をゆっくり時計回りに動かし肩の高さで留める。刹那、左足を半歩引き左腰に構える。そして両手を強く握り頭上に掲げ目を見開く。バッ、と手を下に広げ…
「…へんっしんっ‼︎」
…何も起こらない、だと⁈