2.
詩和
目が覚めた俺は一定のリズムを全身で感じていた…目が覚める、と言っても視界は真っ暗で目が開いているのかさえも分からない。とりあえず現状を確認しようとした時、不意に静かな衝撃感じた。そして突然現れた、ちいさな一筋の光を感じた。光の先にあるものに向かって手を伸ばす。届かない。しかし諦めない。手を足をつかってソコに届かせる…頭が出た。続いて左手、右手、胴体、足、そうして暗い世界から光の中へと抜け出していった…
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少年
僕がこの世界に生を受けて10年の月日が流れた。父さん、母さん元気ですか?僕は沢山の人と一緒に人生初の馬車に乗っています。布が掛けられていて外の景色は見えないけど、衝撃が小さくて一定だから街道を走っていると思います。この馬車は貴族様が乗るような豪華なものではなく、ものを運ぶ為だけに造られたような無骨な荷車に僕と僕くらいの年の子ども達が集まって乗っています。そしてこの馬車を率いているのがー
「へへ、上々だな…へへへっ」
「ひひ、これで俺たちも…ひひっ」
「……クックック」
気持ち悪さ全開の男3人である。コイツらはいわゆる奴隷商人という奴らだろう。そう、僕は今捕らわれの身であり、そして僕の他にも多くのチビッコたちを乗せてこの馬車は走っている。なぜこんな事になっているかというと、それは数時間前に起きた…
嘘です。はい。
今の今まで寝ていた僕が何故こうなったかなんてわかるはずがない。ていうか僕は親の顔なんて見たことがない。それでもこうして生きていられるのは僕を拾ってくれた孤児院の院長のおかげだろう。そしてここには僕と同じ孤児院の子どもも何人か捕まっているようだった。この荷台に乗って居るのは50人くらいだろう。それぞれが息を潜めるように縮こまり抑えきれない不安感に数人で集まって泣いていた。僕も同じ孤児院の子どもを集めて慰めていった。が、ふと視界の端に奇妙なモノが映った。
外からの光が届かず暗い空間の中、ソレは倒れた樽…から生えた少年だった。
桜色の髪に整った顔立ち、病的なほどに白い肌…樽から出ていた上半身は裸であった。下半身は樽の中だ…とりあえず大丈夫なようだった。何が、とは言わないが…と、観察しているとその少年が目を開いた。黒い目だ。少年は眠そうな半開きの目を擦る
「おはよう。君の名前は?」
「…」
僕が挨拶をすると、ようやくこちらに気が付いたように視線を向けた。何か言っているようだが僕には何も聞こえない。ただ口をパクパクさせているだけのように見えた。少年の目が少し見開かれたが、再び眠そうな目に戻った。どうやら声が出ないらしい。というか…
「そろそろ起き上がったら?」
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詩和
どうやら俺は声が出ないらしい。少し驚いたがそれよりも気になることがあった。どうやら先程までの振動は馬車のものであるらしい。…い、いや別に異世界転生でよくある母親の胎内か?なんて思ってないぜ?本当だぜ?
…とにかく、今起きていることは現実。前世で生きていた世界の過去、もしくは未来。或いは別の世界、いわゆる異世界だと思うが、これは現実であるとする。俺は今からこの世界で生きていくのだ。
話を戻して、今馬車の中で揺られている。目の前の少年が喋っている言葉は分かる…が俺が喋れないので会話ができない。とりあえず起き上がり、周囲の状況を確認することにする。
四角い空間で所々破けたり、隙間があったりしてそこから光が漏れている。そして辺りにはロリショt…少年少女が集まってすすり泣いていた。よし、こんな事しやがった奴はどいつだ?あ"ぁん?こんな幼い子達を泣かせるなんざぁ許せねぇなぁ、おい…な、感じにさせられる光景があった。うん、お兄さん頑張っちゃおーかな?犯人共の血祭りかな?などと派手な異世界デビューを考えていると不意に馬車が停止した。何だ?と、外の様子を見ようとした時、金属と金属が衝突する音と男の小さな悲鳴が聞こえた。
戦闘だ。
その様子を見ようと荷車にかけられている布の隙間から外を覗く。暗いところから明るいところを見たため、視界が白く染まる。堪らず目を瞑る…が、次第に意識が朦朧としてくる。貧血か?そう考えながら俺は意識を手放した……
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冒険者
数刻前、ギルドの2階にある酒場に居た俺たちは息を切らしながら走って受付に向かう女性見下ろしていた。これは大方緊急依頼だろう。なんとなく気になった俺は受付嬢と女性の会話に聞き耳を立てていた。
「…ハァ…ハァ…お願い…しま…す…ハァ…子供達…が…誘拐されました…ハァ ハァ」
「緊急依頼ですね。はい。内容は子どもの誘拐。犯人の特徴などは……」
ふむ、誘拐となれば子どもの奪還か。よく見るとあの女性は街の外れにある孤児院の院長のようだった。あそこには少なくない数の子どもがいたはず…ふと、仲間たちを見ると皆が俺を見ていた。まったく、お人好しだよ…皆聞いていたのだろう、やる気になっている。聞くからには犯人の数などは分からないが、多くの足跡、馬と車輪が通った跡が残っていたようだ。複数犯だろう。さっさとやっちまって打ち上げでもするかねぇ
その後その依頼を受けて、恐らく街の外に出たであろう犯人達を追った俺たちは怪しげな3人組が率いる荷馬車に近付いた。すると、大当たりを引いたようでいきなり切りかかってきてそのまま戦闘となった。しかし犯人達は誘拐が目的だったので十分な装備などは身につけておらず、ものの数分で決着がついた。荷車には50人くらいの子どもがいる…が、視界に妙なものが映る。樽…から生えた少女?樽から出そうと思ったが上半身が裸なので持ち合わせがない今はそのまま樽の中に戻ってもらうとする。
こうして俺たちは子ども50人+1人?の救助依頼を達成してギルドへと向かうのであった
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詩和
目が覚めると知らない天井…よりも近くに若い女性の顔が見えた。
「…おはよう。」
「……(コクッ)」
「…喋れないのか?…ふむ、そうか」
その後もいくつかの質問をぎこちない首の動きで答えて会話(?)していたが途中で初老の女性が部屋に入ってきた事で中断された
「おや、起きたのかい」
「はい。話は通じますが喋ることが出来ないようです。いくつかの質問に首の動きで答えてもらいました」
「…あんたそんな小さい子に起きてすぐ何をさせてんのさ」
…確かに。俺自身も気づかなかったがこんな幼い子どもが起きてすぐに質問の嵐というのは少々きついものがあるだろう。
「おお、すまない。休んでくれていいぞ。さてメクス医長、この子ですが私の二択で質問した事については答える事ができます。しかし、内容が自身のこととなると不明な様です」
「…先の事件についてはどうだ?」
「気づいたら馬車の中にいた。戦闘の音が聞こえて外を覗くと、急に意識を失い現在に至る。という事だそうです」
「…乗せられる前に何かが起き、それによる衝撃がその子の精神的な苦痛となり記憶の喪失が起こった…か?」
「その可能性も十分に有り得ましょう。しかし、裸で樽に入っていたということは?目立った外傷も見られず、犯人がわざわざ服を脱がせて入れた。と?」
「分からん。が、アレを見て考えるに、また別の可能性が高いと思われる」
「アレ…ですか…確かに−「医長っ持って来ました!」静かにせんか!」
また五月蝿いのが…と、大きな声がした方に視線を向けるとそこには獣耳…少年が居た…うん、分かるよ。世の中ロリだけではないと言うことは。でもさ、獣耳デビューくらいは少女が良かったですよ…と、内心天を仰いでいると少年が持って来たものについての話になった
「まったく、あんた達はここをどこだと思っているのかね?」
「「…すみません」」
「で、持って来てくれたんだろ?ほら、出して」
「どうぞです。で、コレは誰に使うのですか?」
「あそこの子だよ。自分で喋れないのからちょっと覗かれてもらうのだよ」
「ああ、あの子…です…か」
「今から君の事を見させてもらう。大丈夫さ。個人情報が少し漏れるだけさ」
こっちを見て固まっている少年を余所目に医長と呼ばれる女性が手のひらサイズの水晶を見せながら少々恐ろしい事を言う。いや、ちょ、プライバシーは?なんて思ったが俺自身もいまいち分かっていないのでむしろ良かったのではないか?と、納得させていると手を取られて水晶の上に乗せられる。そして女性が小さく呟くと水晶が淡く光り出し、中に文字が浮かび上がった…
ドイツ語?
何故か分からないがドイツ語で書かれた光の文字を疑問に思いながらも解読していく。え?読めるかって?読めますよ?勉強したからね…まあいろいろ必要だったのだよ。
それはともかく内容はこんな感じだった
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名前 性別 –
種族 奇人族 年齢 0
状態
称号 迷い子
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ほう…ゲームである簡易ステータス的なものなのか…なに?どゆこと?意味わからん…うわー医長さんもちょっとポカンとしてるよ。
なんだよ“ 性別 − ” って⁉︎男か女かじゃないの⁉︎年齢もだよ⁉︎“ 0歳 ”って何だよ⁉︎一番分からんのが種族だよ⁉︎奇人⁉︎奇怪?奇妙?奇ってなんだよ⁉︎
だめだ。分かんない。分かんないから流しまーす。分かんないことは分かんないので考えません。以上。
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メクス(女医長)
ウチで下働きをしている獣人族のタオが持って来た鑑定晶で子どもを調べてみるとそこには我が目を疑う結果があった。
奇人族とはごく稀に産まれてくる、世界に同族が存在しないと云われている固有の種族の総称である。そして、性別が非表示な事とアレ…本来上下に存在するはずの凹凸が全く無くツルペタだったのはその種族の特性に因るものだろう。
しかし、年齢0というのは…産まれて1年も経っていないということであり親についても不明。そんな子どもが生きていくのは困難と思われる。
どうするか?と、悩んでいるところにある女性が思い浮かんだ。何人もの孤児の面倒をみているあの人ならばこの子1人を受け入れてくれるはずである。そう思った私は惚けているタオに院長を呼んできてもらい、院長と子どもに話をする。了解を得たところで検査も終わっており、特に用事も無いので早速院に連れて帰ることとなった。