1.
大体こんな感じでのんびり進めていきたいです。はい
詩和
「……あっ」
そんな言葉で俺の人生は終わりを迎えた。
道路に子猫が飛び出したところに車が突っ込んでくる‼︎…っというところに走り込んで転がりキャッチをした俺だったが(普段の運動不足のせいだろう)そのまま後頭部を打って身体が言うことをきかなくなった…ダセェーとか思ってもいまさらだと思う。うん。
今に思えば何もない人生だったと思う。毎日決まった時間に起きて学校に行って勉強して、帰ってゲームをして風呂入って寝る。大体はそんな流れであり、偶に遊びに行くぐらいだ。もしこの世に輪廻転生が存在するのならこんなつまらない世界には戻りたくはないな…(というフラグを立てておく)徐々に視界が狭まっていく。心配そうに俺の顔を覗き込む猫達に精一杯微笑んで見せると飛び出しをした子猫が涙を流し始めた…猫って泣くんだなそんな思いを最後に俺の意識は闇へと堕ちた。
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シノハ
ソレは突然におとずれました。
私は普段通り早朝に起きて朝食と昼の弁当を作って鞄の中に入れてゲーム〈MORGENROT WELT〉通称モルウェルを始めます。このゲームは海外発のゲームで、高度なグラフィックでまるでそこに一つの世界があるかのようなリアルさと、様々な面における自由度が売りのPC・携帯端末用のRPGです。その中で私はドワーフ族の錬金術師としてプレイしていました。錬金術師は言ってもいつも錬金のことばかり考えている研究厨などではなく、どちらかというと料理を作るのが趣味なので街を巡って食べ歩きをしたり、料理の材料を求めてお店やフィールドを散策したりしています。
その時も、お昼ご飯用にフィールドで魔物を狩っていました。獲物はオークです。オークとは豚顔の二本脚で立ち、棍棒で攻撃をしてくる魔物です。4体の群れで行動していたオーク達を順調に豚肉へと処理していき、残り1体‼︎という時に急に身体から力が抜ける感覚がしました。この感覚はログアウトする時、もしくは現実の体に異常が起こった時です。このままでは危険だと悟った私は逃げようとしている残りのオークを見逃して山の中にある拠点へ、壊すと強制転移するアイテムを踏み壊しますが、無事拠点へと転移出来たかを確認することなく意識を手放しました…
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縞那
僕の日常はゲームが中心で廻っている…というか基本寝てから起きるまでゲーム内で過ごしている。何故このようなことが出来るのか、それはVRシステムである。VRとはバーチャルリアリティー、仮想現実世界へ意識をダイブさせる技術である。まあ最近ファンタジー小説であるようなものを模して作ったものだ…
そう、作ったのだ。コレの製作者は僕であり今のこの世にVRシステムは未だ確立されていない。にも拘らず、僕は…いや僕たちは実際にコレを使ってゲームをしている。何故かと訊かれても複雑な事情があったから作ったにすぎない。
ともあれ結構便利なものである。実際に身体を動かすの如く操作でき、コントローラー操作やタッチ操作に比べて滑らかで精巧な動きを再現することが出来る。そして〈MORGENROT WELT〉ならではの高度過ぎる細密画により、現実と大差ない…むしろこの世界は地球でもなく、ゲームでもない何処かに存在する現実であると唱える者がいる程だが、そこら辺は僕的にはどちらでもいいと思う(そっちの方が夢があるとは思うが)
こんな感じのこの世界でいつも通り目覚めていつも通り寝ぼけた頭で一階のリビングに下りる。そこには既に他の住人が居て僕の指定席には朝食とは思えないほど豪華かつ、バランスのとれた食事が準備されていた。今は10時、うちの料理長はどうやら昼飯の食料を調達しに出たらしい。ここに居る他の人はというと皆読書中である。内容はそれぞれ小説から薬学書などの専門書まで様々だ。かく言う僕も昼飯までの時間まで読書をすることにする。本棚から本を取り出し…メニューを開く。実はこの本、まだ白紙のままなのである。その為、一度メニューから読みたいものを選びこの本にインストールさせてから読まなくてはならない。…『そんな面倒くさいことをせずにメニューから直接見ればいいだろう』と、思うかもしれないが僕たちにとってその行為は嫌厭されている。
僕たちはこの世界で生きているのだ。ゲームをプレイしているのではない。
当たり前のように朝起きて、当たり前のように飯を食べて、当たり前のように趣味に走って、当たり前のように寝る。そんな中に明らかにお門違いなモノが在ればそれはもう別世界なのだ。よって、僕たちは書物を読む際はこの白紙の本(自作)を使っている。
…なんてコレが出来た経緯を脳内で説明しながら本を選び、開いた瞬間。悪寒が背筋を這い上がる様な感覚が起こる。反射的に顔を上げると他の皆も顔を上げ、周りと顔を見合わせている。コレはアレだ…うん、ヤバイやつ。そう悟った瞬間、部屋の隅で光が生まれる。そこで僕は意識が途絶えた…
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…ヤバイです。
はい、とってもヤバイです。何がかって?…私の目の前で人が死にかけているのですよ。
何故こうなったかと訊かれれば私の所為だろう…
久しぶりに外に出て(浮かれすぎたのかもしれない)興奮していた私は道路に飛び出してしまった。そこに迫り来るトラック。あ、これは身体がグチャグチャになっちゃうな…まぁ死なないけど
…だって私 神だからっ‼︎
てきな感じでかる〜く考えていたら大きな影が飛び込んで来たのです。ソレは男の人で私の身体を優しく抱き込んでくれました。そして飛び出た勢いにより私を抱いたまま転がっていますが衝撃はありません。紳士です。その紳士さんにお礼を言いたくて腕から脱け出すとペチャッ、と音がしました。そして鉄のような匂い…そう、私の足下には血だまりが出来ていたのです。既に多くの血が流れ出て致死量を超えています。これは助からないでしょう
…普通なら
ですが、ここに居るのは私です。神様(見習い)です。下界に降りているため多少は制限されていますがそれでもこの人を救うことくらいはできます。未来を司る神としてのそれはそれは大変な修業の合間に与えられた僅かな休みに訪れた天界への死に戻りの危機を救ってくれた恩人さんの未来を変えてあげます。
「我が求むるはこの者の幸ある未来なり《未来転回》…ついでに《加護》を少々っと」
これでこの人の死にゆく未来は変わりました。さて、この人の未来予想図を見てみましょ…ぅ……ぁれ?いや、まさか、そんな。驚いて恩人さんを見ます。するとこちらを向いて微笑んでいました。…何かが瞳の奥から込み上げてきます。そしてソレは私の目から止めどなく溢れ、零れ落ちます。
私は変えてしまったのだこの人の未来を…
死ぬ未来なんて初めから有りもしないのに…
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その日2つの大きなニュースが流れた。
とある地方を襲った雲ひとつない中に降る超局地的豪雨。激しく地を打ちつける雨と優しく降り注ぐ雨、遥か遠くまで架かる虹。その光景は観る者に憂愁の思いを与えたという…
世界的ヒットしたMMORPG〈MORGENROT WELT〉の圧倒的な強さを持つ、とあるパーティーのアバター全員の突然の消失。
何時でもログイン状態となっていることからもはやNPC説が囁かれる程の重ゲーマーsで、パーティー対パーティー、若しくはパーティー対抗のイベントにおいて常に上位に位置しているが、戦闘面だけでなくアイテムや装具などの類まで手広く、しかしそのどれにおいても五本の指に入るほど上位の実力を持っているそのパーティー8名の突然の消失は運営のバグやチートが判明したアカウント処置などの噂が流れたが、彼らの過去の功績、何故か山の中にある拠点の消失により、元々存在した8不思議に新たな一つとして迷宮入りとなった…