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彼女の知らぬ神々の事情

 異世界の神様ーズによる幕間のようなものです。


 大した事ではないのですが、「ユリ(百合)」の名前を「ユリエ(百合江)」に変更しました。

何処とも知れぬ空間。

この世界の神々の集う其処は、かつてないざわめきに包まれていた。


このところ、いささか不穏であったのは事実だ。

その発端は愛と慈悲を司る女神オーファナ・ヴァ・タクェ にあった。

そもそも、この名もなき世界において神々の間に序列というものは無い。それぞれが、おのが好みや特性に応じたものを司り、時に加護を与えている。

 その中で比較的新しい、若く美しい容貌を持つ女神オーファナは人族を愛でた。それ自体は別に悪い事ではない。しかし、些か思慮にかけるところのある彼女はやりすぎた。

 数多ある国々の中でも、かのトゥンケーン王国は女神オーファナの信仰が盛んだった。王都には彼女の為の絢爛豪華な大神殿があり、代々若く美しく血筋の良い少女が聖女として選ばれ、女神へ祈りを捧げる。

 実際の所、愛と慈悲を司る若く美しい女神、というのは信仰を集めるのに容易く、権力者にとって利用しやすかったと言うのが主な理由であった。しかも当の女神が、華々しい祭礼で信仰を示せば単純に喜び、割と簡単に加護を与える質であったので、これはもう利用されない方がおかしい。

 神々の目から見れば瞬く間に、トゥンケーン王国は女神オーファナの愛する国、女神に選ばれた聖なる国と自称し始め、他の国々を下に見始める。

国々の諍いなど本来神々の気に留めるような事では無いのだが、トゥンケーンの者達は女神オーファナを至高神として他の神々をその下位に持ってこようとし始めた。

 一部の人間達が何を言おうと、実際に神々に序列が出来るわけではない。この世界に生きているのは人族だけではないのだ。主立ったところで獣人、魔族、竜、妖精等、そして、鳥獣や魚を愛で司る神々とて居る。

 人族ひとつとっても、その全てがオーファナを信仰しているわけではない。単純な彼女は信仰を示せば喜んで加護を与えるが、示さなければ別段どうもしない。

 つまり、人族を愛でているとは言ってもそれは“自分を信仰している”者の事なのだ。

と言っても、自分を信仰しないからといって悪感情を抱くような事はない。基本的に穏やかな気の良い女神なのである。

 と言うわけで、数多居る種族の、さらに一つの国の人族が何を唱えようと、神々をどうこう出来る訳がないのだ。


 が、当然面白くはない。


 女神オーファナに注意を促したものの、悪気はないのだと庇うばかりで埒があかない。そればかりか、戦神ノー・ウォーキンの守護する国と戦になりそうだからそちらの民を諫めてくれと言い出す始末。

険悪になった発端はトゥンケーンによる女神信仰の押し付けだと言うのに、呆れてものが言えないとは他の神々の言だ。

怒り狂うノー・ウォーキンを宥めたのは森と探求の神であるカウア・グッティだった。

傍観したいのは山々だったが、守護を与えている大森林が二国に接している為戦になればとばっちりで森を荒らされる可能性が高かったのと、この戦が周囲の国々を巻き込んで拡大するのが目に見えていたからである。

戦は悪だ等と言うつもりは無いが、静かな環境で思索に耽る事を好むカウアにしてみれば、すぐ側でやらかされるのは迷惑でしかない。


 まったく厄介なと頭を悩ませていたところ、ある日突然オーファナが姿を見せなくなった。

そればかりか、トゥンケーンが正しく瞬く間に崩壊したのである。

 これにはノー・ウォーキンでさえ戸惑いと心配を隠さなかった。

神々からしてみるとあまりに早く事態が動いたのと、ここの所オーファナが些か敬遠されていたせいで、誰にも詳しい事情がわからなかった。

 唯一判ったのは、トゥンケーンがオーファナの力を借りて異世界から勇者召喚を行おうとしていたという事だけだった。

大多数の神々にとって、勇者召喚など体の良い誘拐、しかも自分達の力不足を大声で宣言するようなものなので顰蹙をかうものでしかない。しかも、誤れば得体の知れない危険を呼び込むかもしれない危険行為だ。

法と銀輪の女神ロー・フォーゼンがそれを聞いて激怒していたが、それよりも、オーファナの失踪が問題だった。

 消滅したわけではない。若輩ではあっても、世界を構成する神々の一柱が消滅した等という事になれば他の神々に判らないはずがない。

だが今、オーファナが世界に及ぼしている力が殆ど感じられない。

判りやすいのがオーファナの巫女達で、彼女らはごく初歩の癒しの法力すら使えなくなっていた。

 正に前代未聞の事態であった。


 考えられるのは、勇者召喚しかない。

 オーファナが、危険を踏まえて召喚の際に慎重に対象を絞ったとか、対策を講じていた可能性は、かつて彼女と親しかった者ですら否定した。


 何かとんでもないものを呼び出したのではないのか?


 だが、それにしてはそれらしい膨大な魔力も法力も感じられない。

その身体能力のみを力とするオーガや巨人族に類するものかとも考えたが、そんな目立つものならばもう少し情報が入っても良い筈だ。

それに、国のほうはまだしも、物理的な力だけで女神をどうにかできるとは考えられない。


 結局、何が何だか判らない事だけが判った、という次第だ。


 一難去っ……たかどうかも判らないうちにまた一難。

「判らない」事は時にそれだけで混乱と恐怖を呼ぶ。


“放っておく訳にもいかぬ――――頭の痛い事だ”


 このところ、すっかりため息をつくのが癖になった気がするカウアは、守護する大森林奥深くに住まう長生族の巫女に信託を下す事にした。彼を信仰する巫女達のなかで、今一番受信能力の高い巫女だった。いささか辺鄙な場所であるので多少時間はかかるだろうが、それでも彼の神託を正確に受け取れる中では一番かのトゥンケーン聖国に近い。


“まずは、調べてみぬ事にはどうにもならん”


 常ならば、知らぬ事を調べるのは心躍る事だというのに、気が重い。

しかし、やらないわけにもいかない。

深々と、またひとつため息をついて、カウアは神力を紙縒のようにして目指す巫女の元に届けるのだった。






 「さあ、ユリエ。今日はイェールの花にしましょうね。」

 

 リリは、朝ロビンが森で摘んできてくれた黄色い一重咲きの花を小さな花冠にして、そっと頭に乗せた。

可憐な黄金色(こがねいろ)の花は艶やかな黒髪によく映えて、鮮やかな色彩が美しい。


秋に差し掛かるこの時期になると、森は春や夏とはまた違った趣の花々に彩られる。

しっとりとした紫のキーヨウ、薄紅色の小さな花房をつけるハーヴィ等、派手さはないが落ち着いた風情で見る者を穏やかな心持ちにする。

それがまた、不思議な異国風の雰囲気を持つユリエにとても似合う、とリリは思っている。

裕福というわけではないので、人形用の服や道具をそうそうねだることはできないが、森や野原の花や木の実で飾る事くらいはできた。

生花は持って一日だが、その分日ごとに取り変えて楽しめる。


 少しの髪の乱れを整えると、リリは一歩離れて出来映えを確かめる。袖が長い細かい模様のある赤い服に、黄金色のイェールの花冠を頂いた様子は――――


「素敵、まるでお姫様みたい。」


 遙か遠い異国からやって来たお姫様。

リリはその思いつきがとても気に入った。

誰も知らないような遠くの国から、悪者に浚われてきたお姫様。確か小妖精ピクシーのお姫様がカエルに浚われて、お嫁さんにされるところを逃げ出した話があった気がする。けれど、その後お姫様を拾った野ネズミは、お金目当てにヒゲモジャの邪妖精グレムリンなんかにやろうとするのだ。


「大丈夫。悪者になんか、渡しませんからね。」


思わずそう言うと、流石に表情ばかりは動かない筈のユリエが心なしかにっこり笑った気がする。

抱っこすると、やっぱり嬉しそうだ。


「ずっと、一緒にいましょうね。」


勿論、と声がしたような気がして、リリはとても嬉しくなった。






 お姫様だなんて、なんて可愛い事をいうのかしら。


 本当にリリは良い子。


 大丈夫よ、私もあなたを守ってあげる。



 だから



 ずっと、ず――――っと



 一 緒 に い ま し ょ う ね ?


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