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僕は脇役がいいっ!  作者: 至木三芭
第一話"脇役の受難"
7/8

6

さぁラスト。エピローグが残ってるので厳密には違いますが、これでひとまずの終わりです。

とは言えまだ書き溜めしてあるのでそこまではなるべく投稿していきたいところです。

では、始まります。

「いきなり名前で呼ばれるとなかなかびっくりするね」



「いいじゃない。私はずっと名前で呼びたかったの。心の内ではそう呼んでたし、機会も狙ってた。

それなのに奏多くんってばガード固すぎ。全然そういうチャンス来ないんだもん」



「当たり前だよ。そもそも、僕がどういう人生設計をしてるか知ってて、よくこんなことできたね」



思ったより普通の会話ができてる気がするけど、自然と刺々しくなってしまう。

けれど竹本は気にした様子も見せずに笑顔を続けていた。彼女が今演技をしているのはわかる。わかるけれど、その本心が何を考えているのかが一切わからない。それが、僕にとっては恐怖でもあった。



「奏多くんは私達が最初に会ったときのこと、覚えてる?」



「覚えてるよ」



一年の時、僕と優奈は同じクラスで修だけが違ったんだけど、その優奈を介して相談を受けたのが竹本との初遭遇だ。

小さい頃から優奈の応援をしてることになってる僕は、優奈的にはこの手の相談をするのに適役だと思ったんだろう。内容も結構衝撃的だったからよく覚えてる。

竹本は二人の男子から告白されて、やんわりと断ったのは良いもののどちらも引き下がらずぐいぐい来られて困っている。というものだった。



「まだ一年の半分くらいなのにずいぶんなモテ女がいるなんて思ったもんだよ」



「その比にならないレベルのモテ男が奏多くんの友達にいるんだけど、明言した方がいい?」



「……そう言えばそうだった」



やっぱり竹本は楽しそうに笑って、僕の反応を様子見しているようだった。

当時まだ思春期の抜けきらない僕は観察なんて称してそれとなく竹本を見ていたけど、あまりの友達の数、そして話す人によって外面を付け替える演技派っぷりにびっくりした。僕や優奈と話すときもおそらくその人となりに適した配役を選んで演じているのだろうと察せるくらいには。



「あの時ね、本当に調子に乗ってたの。昔からいい子いい子って言われてて、いい子って言われるにはどうすればいいかなんて考えてたらこんなになっちゃって、でも周りはそんな私をやっぱりいい子だとか言ってくれて。見た目にもそこそこ自信あるし、高校に入っていい子をやってたら結構告白されちゃってね、天狗になってたよ。みんなバカだなって。私は話しやすいいい子を演じてるだけなのに勝手に勘違いして告白してくる。うん、相当にひねくれてた」



「僕もそう思うよ」



「……辛口だなぁ」



ほとんど彼女の言う通り。おそらく無意識に勘違いさせるように演じてたのではないかとも思うけど、とにかく演技派だった。

相談されたことはもう仕方がないので好きな人が他にいると強気の断りを入れることでなんとか終わらせて、本来なら僕と竹本の付き合いも終わるはずだった。



「本当にびっくりしたんだよ。私のこと、ああやって見抜いて。親にだってバレてないのに」



解決の感謝をその演技で言われた際に思わず言ってしまったのだ。疲れないのかと。

そこはやっぱり思春期の抜けきらないお年頃。誤魔化そうとする竹本を論破するのが楽しくて自分の人生設計まで話してしまうバカっぷり。

何を思ったのか、その後彼女に友達になろうと演技でもなんでもなく言われて僕らの友達付き合いが始まった。



「私ね、人の観察が得意なの。ほら、普段の生活での演技って台本なんてないから人の表情とかそういうのを読み取らないとでしょ? だから、私にあんなことを言う奏多くんに興味が出て観察してたの」



「……」



さらりと怖いことを言わないで欲しい。ちょっと引いてしまった。



「ふふ、私が怖い? そうだよね。でも私も今凄く怖いよ。すぐにでも逃げたい。でも逃げない。折角のチャンスだから開き直っちゃおうと思う」



とてもそうは思えない声音と表情で、竹本の演技派っぷりを改めて感じる。

今の竹本は本性を知らなかったら僕も思い切り騙されてしまうだろう。



「奏多くんね、自分でも多分気づいてないけど結構複雑な表情してることがあるの。今でもそう。

取り繕いがとても上手だよね。だから自分も気づかない」



「……なにを」



何を、言ってるんだ。僕がポーカーフェイスが苦手なのは認めよう。けど、取り繕いが上手い? 自分も気づかない? それはどういうことなんだ。



「その反応だと本当にわからないんだね。奏多くんは天然の役者さんだ。

でも、私の目は誤魔化せない。私の方が役者の年季が違うから。ホント言えば優奈ちゃんも筒井くんもそこだけは納得いかないの。奏多くんの幼なじみのくせになんで奏多くんを見つけてあげられないのかって。奏多くんも、どうして見つけてもらおうとしないのかって」



竹本の言っていることが理解できない。追い詰めてるのは僕なんじゃないのか?

どうして、僕の方がこんなにも圧迫されるような事態になっているんだ。



「私はたまたま奏多くんが見つけてくれた。私もたまたま奏多くんを知れた。奏多くんは私と同じなんだって。したらね、その後は一直線だった。奏多くんに見つかった私が奏多くんに気づけたことが運命みたいだった」



竹本から表情が消えた。それから、ちょっとだけ控えめに笑って、飲み物を一度口に含んで。

多分本当に素の表情なんじゃないかと思う。僕は蛇に睨まれた蛙よろしく、身動きが取れなかった。



「今まで演技が楽しくて知らなかったけど、人を好きになるって世界が変わるの。好きな人がお見合い結婚するだなんて言ってると心が痛くなるくらい。

そんな奏多くんが嫌で、自分が抑えきれなかった」



「その結果が、あれ?」



「そう。気持ち悪いよね、わかってる。みんなと仲良くできる私が実はストーカー気質で、自分がやったにも関わらずそれを使って近づこうとする。結局バレちゃったけど」



僕に友達になろうと言ってきた時の、普段の演技も相まってかちょっと無機質っぽい低めの声音で竹本は独白を続ける。



「そう。私は奏多くんが好きです。怒られるかもしれないけど筒井くんや優奈ちゃんより奏多くんを理解できる自信もあるし、私は奏多くんしか見てない。でもね、断られるのはわかってるから敢えてこう言うの。

――奏多くん、私と友達のままでいて」



「……え?」



「本音を言えば奏多くんを私の人にしたい。けど、私は奏多くんのことを全然知らない。あんだけ好き放題言ったけど、なんで奏多くんがお見合い結婚したいのかすら言わないのに、こんな図々しいお願いできるわけないじゃない」



「竹本は、比較的親しい部類の方なんだけど……」



「親しいだけじゃ嫌。私は奏多くんを見つけてない。気づけただけ。そんなのじゃ私に奏多くんの隣にいていい理由にならないし、私も納得できない。

でも、このまま話もできなくなっちゃうのは絶対に嫌。だから私と友達のままでいて」



「……」



竹本がもう僕のキャパシティを超えることを言っている。

何がなんだかわからない。どういうことなんだ、これは。



「本気だよ。生まれて初めて演技じゃなくて、心からぶつかるの。奏多くんのことをもっとたくさん知って、全部揃ったら告白するの。その時には奏多くんは私を好きになってる。させてみせる」



「今ここで僕がキミに関わろうとするのを辞めて避けるってこともできるんだけど」



「私、インスタントな友達はたくさんいるんだよね。その子に奏多くんが好きって言えば高校生らしい恋愛もできるかな」



「……それ以上は本気で避けるぞ」



「それくらい私も本気。だから私と勝負して。絶対迷惑はかけないし、露骨なこともしない。

奏多くんはいつも通り私に接してくれればいいよ。もし奏多くんの許容範囲を超えたら私の負けでいい。したら恋人になるのは諦めるから」



……おかしいなぁ。僕が追い詰める側のはずだよなぁ……

鬼とか蛇じゃなくてもっと恐ろしいものが出てきちゃったんじゃないだろうか。



「期間は卒業式まで。どう?」



「……参った。人望その他もろもろで勝ち目がない以上、直接下すしかないのか」



「じゃあ、いいの?」



「そう仕向けておいてよく言うよ。あ、でも先に言うけど僕は少なくとも今竹本に友人以上の感情を持ってないし、持つ気もない。むしろこれでマイナススタートだからね。その好意すら信用してない」



ここまで盛大かつとんでもない暴露をされたけど、それでも好意は抱けない。いや、ストーカー告白に好意を抱けるわけないかもだけど。

そもそも信用してないせいか、怖いとは思うけどダメージも少ない。卒業式までと長く設定してはいるけどどこまで持つか。勝手に愛想尽かしてやめるだろう。

基本的に僕に有利なんだ。受けてもいい。その上で竹本には悪いけれど現実を知ってもらう。



「いいよ、それでも。あ、でも多少は積極的にさせてね。その、買い物とか誘ったり」



「どうぞ。僕の都合が優先されない時は今まで通りだよ」



「なら良かった。ふふ、でも実は毎回ドキドキしながら一緒に買い物してたって言えばちょっとはポイント上がる?」



「……いや」



「あ、今目線が外れたよ。これはポジティブに取っていいのかな?」



「だまらっしゃい」



そんなとこまで見てるならといっそ顔を丸々違う方に向けて飲みかけのドリンクを一気に飲み干す。

さっきまでの圧迫がなくなってて、落ち着いてきたのだけはわかった。



「はぁ、良かった。もうダメかと思った」



「あんだけ僕を追い詰めておいて何がダメかと思っただよ。まったく」



「今だって必死で誤魔化してるんだよ? 奏多くんが気づいてないってことは演技力が上がったのかな」



「僕は別に完璧人間じゃないからね。わからないものはわからないし、できないものも知らないものもたくさんある。そういう意味では竹本の方が……竹本?」



ドリンクをテーブルに置いてひとまず落ち着いたから竹本へ視線を戻して、僕はそこで固まった。



「え、どうしたの? ……あれ?」



目の前で女の子が泣いている。その手の事態に遭遇した経験が少ない僕はそれだけで金縛りに遭ってしまう。そういうのは修の役目で、僕が受けるポジションではないはずで。

竹本も、自分がポロポロと涙を溢していることに動揺を隠せないようだった。



「わ、私……違うの、これ……嬉しくてホッとしたら……我慢できなくて……っ」



「竹本……」



「ご、ごめんね。わたし、先に帰るからっ!

また明日! 大好きです!」



言葉を挟む間もなく、間髪入れる間もなく。微妙に残っているポテトと飲み干してはいないであろうドリンクを置いて早足で竹本は去って行った。

……ひとまず終わり、かな。



「……はぁぁぁ……」



大きく、大きくため息を吐いて背もたれに寄りかかる。結果は惨敗。

余計な面倒を増やしてしまっただけだった。何度も言うけどそういうのは修の役目だ。でも、だけど――



「……ははっ」



僕はいたって普通の人間だ。もちろん人生設計は変わらないし、竹本の好意は信用してない。あの涙だって演技かもしれない。彼女は演技派だから。けど、

――それでもあそこまでの好意と涙をぶつけられて、嬉しくないと自分を言い聞かせることはできなかった。



「だとしても話は別だけど。悪いね竹本、勝つのは僕だ。よっぽどのことがない限り、この嬉しい以上の感情は抱けないぞ、僕は」



全て円満に解決できないのは世の常で、起きてしまった面倒は落ち着くまでどうにかするしかない。

なら、なるべく楽をできるように否定できないのは無理にしないで流されておくことにしよう。

一人残った店内で、僕はそう決心して立ち上がったのだった。

ちょっと長くなりました。あとはエピローグで一話は終わりとなります。

結構駆け足で来てしまったのと、でもどうすればいいのかという葛藤でちょっと悩みがちではありましたが、これをこのまま次のお話に活かせたらと思います。

小説執筆はとても楽しくて、もし読み続けてやろうという人がいましたら、これからもお付き合いよろしくお願いします。

では、ありがとうございました。

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