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体調不良になりました。
皆さんも季節の移り変わりは風邪をひきやすいので気を付けてくださいね。
ではでは、始まります。
「キミさ、それで疲れないの? と言うか、それ面白い?」
――初めてだった。あんなことを言われたのは。今までずっと当たり前のようにやってきたことを、いとも簡単に看破された。
あり得ないと思った。みんな"誰とでも仲良くできる私"に騙されて、勘違いした男子なんかは告白してきたりもして。バカじゃないのかなんて思いながら笑顔で後腐れないように断って、面倒は上手く回避してきた。つもりだった。今回はたまたましつこい男が二人いて、ちょっと面倒なことになっちゃったから、次から男子への当たりは少なめに、勘違いすらさせないようにしようと思う。
「付き合う気もなくて、インスタントに友達を掛け持ちして、凄いね。さすがって言うか」
「何の、こと?」
「今更取り繕っても無理だよ。キミが心の底から付き合う気がないのは明白だしね。もし本心からたくさん友達作りたいならしかるべきポジションに就くだろうし、友人のタイプも偏ると思うし。まぁ、個人の見方だから違うかもだけど」
そのことを仲良くしてる女の子に相談したら、紹介してくれたのが奏多くん。その女の子が大好きな男の子の親友で、いろいろ話とか聞いてくれるって言うので半ば強引に相談させてもらった。
幼なじみって言うのは普通の友達にはないものを共有してるみたいで、ちょっと羨ましかった。
「楽しんでるみたいだからあんまり深くは言わないけどさ、やりすぎた結果がこれだから気をつけた方がいいと思うよ。
と言うか凄すぎ、僕なんてそういうの一切関わらずにお見合い結婚する気満々なのに……あ、今のオフレコで。優奈とか修に聞かれるといらん世話焼かれそうだから」
……何を言ってるんだろう。と思った。お見合いだとか、まだ高校一年生なのに。
「何言ってるんだって思うでしょ。いいんだよ、僕にとって恋愛ってのは面倒ごとだから、僕は社会にでて適当なタイミングでお見合い結婚する人生設計を立ててるんだ。悪いことじゃないでしょ、別に」
「どうしてそんなことを?」
「いろいろあるんだよ」
そういって、奏多くんは寂しそうに笑った。多分、本人すら気づいてないレベルで。
私は私を演じていく上で、その場その場に合ったキャラクターを変えなきゃだからそういう変化には敏感だ。その微妙な変化に、私はとても興味を惹かれた。
「ねぇ、友達になってよ」
気遣いとか、演技とか抜きにして初めての言葉だった。わざとらしい猫なで声でもなく、声のトーンも低くて、隠し事は一切無しの言葉。
全部終わって、私は彼の友人になった。同時に私の奏多くんへの"観察"が始まった。
「……なるほど」
てっきり、彼は頑なに恋愛を拒むタイプの人なのかと思ってたら、恋愛ごとが彼を避けるタイプだった。
奏多くんの親友の男の子がそういうのを毎回得ていて、言い替えれば"脇役"だ。
「いいんだよ。ずっとこうだったんだから」
そのことを聞いた時の返事はこうだった。また、寂しそうに笑って言ってた。
あの男の子が他の女の子の恋愛対象になる度に、幼なじみの女の子と仲良くする度に、諦めたような、寂しいような笑顔を浮かべる。取り繕いが上手だから、自分すら騙してる笑顔を。
「なんで……なんでなの」
本当の私をあっさり見抜いたのに、なんでそこまで自分には目を背けるのか、あんなに人のことを見てるのに、なんで誰も本当の奏多くんを見つけてあげないのか。
まるで、普段の私を見せられてるようですらあった。
「同じなんだね、奏多くんも私と」
実は少女漫画のような恋に憧れてたからかもしれない。私を見つけてくれた彼が、自分すら気づかぬまま私のような状況にいることが運命に思えた。
――深い興味が、そのまま丸ごと恋心へ変化するのに時間はかからなかった。
彼に恋する私の世界は一変した。ちょっとした会話でも一喜一憂して、演技とかしてる余裕なんてなかった。こんなにも心を揺さぶられるものだと思わなかった。
だからこそ、奏多くんが私の恋心を気づかないどころか、相変わらずお見合い結婚だなんてバカなことを言うのが悲しかった。察して欲しいなんて言わないけれど、心の奥で増幅し続けた想いは彼へのアプローチの段階を飛び越えて、自分でも抑えられない暴走というカタチで表へ出たのであった。
―――――
「で、誰なの?」
放課後。またもロッテリアに集まった僕らはお互いの注文を済ませ二人席に向かい合っていた。
興味津々と言った竹本に対して、僕はごくりと一度唾を飲み込んだ。
「答えを言う前に、まだ不完全な部分を整えておこうと思う。竹本、僕が焼きそばパンよりコロッケパン派だ。なんて言ったでしょ」
「え? うん」
それがどうしたの? と言わんばかりの表情で首を傾げる竹本。これから僕の言うことを予期した上でこうなのか、何も知らないままなのか、そのどちらかを察することはできない。
僕は人の心の機微には敏感な自信があるけど表情から全てを察するのは不可能だ。
「あれさ、この学校でそのことを知ってるのって修と杏奈さんと、
――竹本だけなんだよね」
「……そうなんだ」
「昨日の手紙にさ、やっぱり焼きそばパンがって言葉が入っててね、僕は焼きそばパンしか買わないし、他のパンが好きなんてこと、その三人以外に言ったことないんだ。で、この犯人も最初はそのことを知らなかった。つまり、後発的に知ったことなんだよ」
竹本の表情は依然として変わらない。何も表情に出ないその精神力に恐れ入ると同時に、それは僕の推察がほぼ正解であることを示していた。
「もうまだるっこしいことはやめよう。
――なんであんなことをしたの。竹本」
数少ない事実を知っていて、適度に僕に近い。
それに、演技をしない彼女と話してるのは捉えようによっては竹本を見つけたことになる。あまり、思いたくなかったけど。
「……やっぱり私を見つけてくれるんだね。"奏多"くん」
笑顔で、竹本はそう言った。普段名字で読んでくる人に突然名前で呼ばれると何とも言えない感じになる。
そう思えるだけ、自分が落ち着いていることにホッとした。
次回で一話目はひとまずの終わりとなります。
とまぁこんな感じで、奏多へのヒロインへ修というフィルターを通して残った人になりますのでやたら重いのが多いです。
ほどよい重さでゆるりと行けたらと思います。ではでは、また次回にて