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中盤どころか結構駆け足になってしまう……
オリジナルのストーリーって難しいですね。ではでは、始まります
「失礼します」
「偉い偉い。ちゃんと来たのね」
「後で家に来られても困りますんで」
「よくわかってるじゃない。で、どういうことなの?」
放課後、呼び出しの通り生徒会室を訪れた僕は尋問されるがままに最近起きたことを話していた。
捨てる予定だった今日の手紙も渡して、事細かに。
小さい頃からの絶対政権は今でも身体に染み付いてるようで、逆らえないこの身が悲しい。
「なるほど。ずいぶん好かれてるわね」
「それは……そうかもしれませんけど」
「迷惑極まりないって顔ね。まぁ、私もここまでされたらちょっと引いちゃうかもしれないけど」
杏奈さんでも引くこととかあるんだ。なんでもかんでも真っ向から捻り潰すイメージがあったからちょっと意外だった。
「……ふむ、ねぇ奏多。奏多はこれに違和感とか覚えたりしない?」
「違和感……ですか?」
「敬語はやめて。奏多と話すために今日の生徒会はもう終わらせたんだから、いつも通りに話しなさい」
「……ん。どうだろう、とにかく僕に詳しくなってきてるってことと、恐らく、僕とは違うクラスなんじゃないかと思う」
「どうして?」
「これでもクラスメイトとは一通り話してたりするし、積極的……ではあるから、それで僕を知らない人となれば他のクラスかなって」
「なるほどね。――二十点」
杏奈さんの採点はとても厳しかった。即席じゃなくてそれなりに考えた答えなのに、なんでだろう。
「納得行かないって顔に出てるわよ。奏多は相変わらずポーカーフェイスが苦手ね。
奏多、女の子って言うのはね、好きになった人のことはなんでも知りたくなるのよ。同じクラスだろうが十全知ってるわけでもないでしょう? 表面上わかる奏多じゃなくて、中身も全部。
小柳奏多っていう人の全てが知りたいのよ、この子は」
「そう……なの?」
わからない。そんなものまで知ってどうなるんだ。いいじゃないか、表面の利害の一致のみで。入れ込み過ぎたってロクなことにならないよ。
「わからないって顔ね。そうでしょうね、お見合い結婚する! なんて人生設計してる奏多には理解できないかもしれない。けど、恋するってそういうものなのよ。好きな人の全部が欲しくなるの。
理屈じゃないってのは、奏多だってわかるんじゃないの? 優奈の時や、あの子の時で」
「……」
痛い所を突いてくる。そう言われてしまうと否定のしようがない。そうだ、間違いなく僕にもそういう時はあった。あったからこそこうなってるんだから。
「納得してもらえたかな? 奏多は少数派なのよ。
そうね……この犯人は比較的奏多に近くて、無知ではない程度に奏多を知ってる。奏多、自分のことをよく思い出して、自分の周りをよく見てみなさい。
そこに綻びと違和感があるはずだから」
「杏奈さんは、犯人がわかったの?」
「名前とかはわからないけど、大まかにはね。少し奏多は好意に触れるべきだから自分で頑張ってみなさい。で、どうしようもなくなったら私の所に来るように。助けてあげるし――
――奏多を困らせる障害はちゃんと無くしてあげるから」
最後の言葉はちょっとゾッとした。この人ならやりかねない。容赦と言うものを知らないし、社交的なのは取り繕った所だけでその実凄く身内の線引きが狭いし、気にくわないとすぐ敵と判断した上で排除にかかるような人だから……
「……ふふ。さて、この話はおしまい。奏多、楽しい話をしましょ」
「楽しい話?」
「そ。夕飯食べながらでも、ね。あ、奏多のご両親にはちゃんと了解取っといたから大丈夫よ」
「え、え?」
もしかして、さっきまでの話ってただの前振りで、本題がこっちだったりするんじゃ……
「進級して全然会えてなかったから、近況報告よ。知りたいこともたくさんあるし」
「――あぁ」
納得した。誰のことが聞きたいのかも、把握した。しましたとも、えぇ。
「それなら本人を直接誘って聞けば良かったんじゃないの?」
「そう。だから直接本人を誘ったんじゃない」
僕は本人じゃ……あぁ、情報提供主本人てことか。なんだ、杏奈さんも案外奥手だなぁ。
「まぁ、僕に答えられる範囲でなら」
「――ふふ、ありがとう」
……なんだその意味深な笑い方は。なんか妙に怖くなってきたぞ……
「さぁ、楽しい楽しい夕飯の時間ね。ほら、善は急げよ奏多」
「うわっ、わかったから引っ張らないでよ!」
手首を掴まれて、僕は杏奈さんに連行されて生徒会室を後にしたのだった。
夕飯時、聞かれたのは修のことよりも竹本や岩田のことで、それは少し意外だった。
―――――
「うーむ」
翌日昼休み、僕は購買で顎に手を当てて探偵のように悩んでいた。焼きそばパンが売り切れているのだ。
昨日の放課後も今朝も手紙がなかったおかげでちょっと元気になったのにこの有様である。無念だ。
「コロッケパンがあればなぁ」
焼きそばパンよりコロッケパン派とは言ったものの、この学校にはコロッケパンが置いてない。なので必然的に焼きそばパン一択になるんだけど、焼きそばパンもないときはどうしよう。
「小柳くーん。決まった?」
「いや、どれにしようか悩んでる。なんで焼きそばパンが売り切れてるんだ……」
「あはは、やっぱりそこは焼きそばパンなんだ……まぁ、うちの学校コロッケパンないしね」
「そうなんだよ。仕方ない、サンドイッチにしておこうか……ん?」
「それは小柳くんの自由だよ。って、どうしたの? いきなりそんな渋い顔して」
「いや……」
――やっぱり? そういえば、昨日の手紙にも同じフレーズがあったよね。何がやっぱり焼きそばパンなんだろうか。基本的にパンを食べる時は焼きそばパンしか食べないし、もし僕をどこからか見てるならやっぱりなんて単語が入るのはおかしい。
「岩田を待たせるのも悪いし行こっか、竹本」
「うん。……大丈夫? なんか辛そうだけど」
「大丈夫。意図してないことに動揺してるだけ」
「どんだけ焼きそばパン食べたかったの……」
僕の言葉をパンに関しての言葉としてとってるらしい竹本は呆れたように手を腰に当てて笑っている。
否定する余裕もないし、するのも面倒なのでこのままにしておこう。
――まず、相手は僕のことをそこそこ知ってる。杏奈さんの言った通りだ。焼きそばパンしか選ばない僕を見てなお「やっぱり」と他の選択肢を知っている。これで一気に選択肢が狭まった。
狭まったどころじゃない。大体そんなの数人しかいない。だからこそ、動揺が誤魔化せない。
「……お待たせ」
「おう。ってどしたよ小柳。テンションだだ下がりじゃん」
「小柳くんは焼きそばパンが買えなくて落ち込み気味なんだよねー」
岩田がいるからか、竹本も演技モードだ。あくまで本性を出すのは僕と話す時だけらしい。偶然知ることになってしまった僕だけ……
「あー、なるほどな。仕方ない、俺の弁当のおかず分けてやるから元気だせよ。あ、でもサンドイッチ一つと交換な」
「大丈夫だよ、別にそこまで落ち込んでないし」
「嘘つけって。見るからに沈んでじゃん」
「うんうん」
とてもそうは思いたくないけど、僕にある程度近くって、僕にある程度詳しい。そして、僕が"見つけてしまった"人……それは、つまり――
「二人とも、驚かないで聞いてね。
――犯人、わかっちゃったかもしれない」
「は?」
「……え、それホントなの?」
「根拠は薄いし、外れてるかもしれない。けど、目星はついたよ」
「マジかよ……誰だか聞いても大丈夫か?」
「ダメ。と言うか多分岩田は"知らない"人だから」
「じゃあ私は?」
「竹本は知ってると思う。と言うか、キミの身近な人」
「……そっか。よかった、こういう時交友関係広くって。どうにかしたいなら協力するからね?」
突然すぎる僕の言葉に本気で驚いてるらしい二人。けど、竹本は犯人が自分の身近な人間と聞いてやる気を出しているようで、可愛らしくウインクしている。
「助かるよ。それじゃ、放課後に話聞きたいから時間もらっても大丈夫?」
「もっちろん! あ、じゃあ先輩に休む連絡しておくね」
「小柳、俺はどうすればいい?」
「もう後は詰めるだけだから、岩田は大丈夫だよ。ありがとう」
「あいよ。そうだな、ならあとでロッテ奢れよ」
「なんで地味に高いもの選ぶんだよ。……わかった。次の休みにね」
「おう」
……さて、後はこれが正しければ尻尾を掴むだけだ。まったくもって面倒なことをしてくれたけど、これがもし正解だったら、僕はどうすればいいんだろう。
もともと穏便に済ますつもりだったのに、斬って捨てるなんてできるだろうか……
ずいぶん急いだ感が溢れる今回。オリジナル小説の難しさを痛感しました。
二次創作は書いたことあるのですが一から自分で考えるとこうも上手くいかないものかと。これを書いて行く中で成長できたらいいなと思います。
さて、次回は解答編。早い気もしますがひとまず一話は終わって行こうと思います。
ではでは、お読みいただきありがとうございました。