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はい、書き溜めしてる分にはバンバン行こうと思います。
幸いにも明日はお休みなので満足行くまで書きたいところです。
ではでは、始まります。
――恋愛とは、とても面倒だ。
違うか、恋愛感情とはとても面倒だ。一利あっても百害どころじゃない。普通は違うのかもしれないけど、小柳奏多は筒井修がいる以上、そこは普通足り得ない。
例えば一人の女の子を助けたとする。どちらが意図したわけでもなく、僕ら二人は均等に感謝こそされ、女の子と親しくなるのは修の方。他の女子の妨害があっても、結果的に好かれハーレムが形成される。挙げ句僕へ感謝を述べたまま、頬を赤らめて修のことを聞かれるなんてことも少なくない。
まだ幼い頃、僕は内心修への対抗心がとてもあった。小学生の僕は当たり前だけどこんな考えもなかったし、初恋の相手だっていた。いたけど――
――カナタ! あたしシュウが好きなんだ! 同じ幼なじみなんだから手伝ってくれよ!
当時僕らの影響でか男の子のような言葉でそう告げた彼女によって、僕の初恋は育まれることすらなく撃沈した。物凄い対抗心と共に所々小さく修と張り合ってみたものの、結果は全て負け。同じように優奈を助けたり遊んだりしても、どうしてか修が……修だけがより男女として親しくなる。
友人としてしか親しくなれないことを幼いながらに知った僕は、優奈の恋を応援することを快く受け入れた。
――もっとも、今も未練があるかと言われればノーで、優奈のことはもう幼なじみで友人としてしか見れないけど。
それからも何かあるごとにそういう女子は増えてった。それとなく、仲良くなれる女の子がいないかと自分なりにいろいろ親しくもした。けど、僕の方が評価を得ても全て友情のみで、恋愛感情は修が受けていた。そして中学二年の時のあの事件だ。あれは僕に――
「……やめよ。あんまり黒歴史を自分で振り返るのは精神衛生上よくない。
それもこれも全部あの手紙のせいだ。はぁ……」
余計なことを考えてしまう。思った以上に自分を名指しされるダメージは大きいみたいだ。嬉しさなんて欠片もない。まったく、気分を落ち込ませてくれる。
「とっとと修にシフトするか、このままフェードアウトしてくれることを祈ろう」
そこからいろいろ折り合いをつけた結果、恋愛感情は排他するのが一番いいという結論になった。
恋愛感情なんていう面倒な感情に振り回されていろいろやるくらいなら、社会に出てそれなりのポジションについて、あとはいい年齢で同じくいい年齢の結婚したい人とお見合いをすればいい。さすがに一生一人でいいなんて親に顔向けできないし、お互い利害の一致でそこそこ上手く行くだろう。我ながら素晴らしい人生設計だ。だから――
「学生の恋愛なんていう面倒ごとに、僕を巻き込むのはやめてよね」
ぽつりと呟いて教室のドアを開ける。着いたのは、本鈴が鳴る約二分前だった。
―――――
「終わりー! 小柳、帰りゲーセン寄って行こうぜ」
「ん、いいよ。ってなわけで修、僕今日は岩田と遊んで帰るから」
「おう。じゃあまた明日だな」
「悪いな筒井。奥さん借りてくぞ」
「ははっ! 大事に扱ってくれよな、岩田」
「二人して気色悪いこと言ってるんじゃないよまったく。
……と、修。近藤先輩が来てるよ」
放課後、バカな漫才を繰り広げる二人にため息を吐いてカバンに荷物をしまって立ち上がると視線の先には不良が立っていた。
金髪のポニーテールにほぼキツそうな目付き、ブレザーの下から出てるワイシャツを結んでボタンは結構下まで外したままにもちろんミニスカート。男子の視線を集めまくりそうなこの人はうちの学校の不良筆頭の近藤先輩。空手かなんかやってるそうで腕っぷしも半端ないそうな。
ちなみにこの人、言わずもがな修ハーレムの一人で、僕に一番ドギツい視線を向ける人。そんなこともあってか、優奈とはなんとなく反目しあってるみたい。ほら、優奈が牙剥き出しにして「がるるるるっ!」って唸ってる。
「修、帰りは暇?」
「暇、ですけど……」
「ん、じゃああたしと一緒にCD探すの付き合え。いいな?」
「別に構いせ「修! あたしも行くっ! 行くかんね! 近藤先輩もいいですよねっ!?」
「…………チッ、好きにしろ」
はい、修羅場形成。わりと去年からの名物と化しているのでクラスのみんなもこれが噂の……くらいの反応しかない。モテる男は大変だね、うんうん。
「行こっか、岩田」
「おー。しっかし、躊躇いなく見捨てんのな。筒井ちょっと悲しそうな顔でこっち見てるぞ」
「僕は何も見えません。いいんだよ、モテる男はそういうことで悩むのも特権なんだから」
……決して巻き込まれたくないからじゃない。断じて違うということだけ内心で言い訳しておく。
「じゃ、お疲れ様」
無慈悲な別れを告げて、僕は教室を後にしたのだった。
―――
「……これは初めてのパターンだな」
「おーい、どうしたんだよカナターン……ってそれ、件のラブレターか?」
「カナタン言うな。うん、しかもまさか放課後にも来るとは思わなかった」
「なるほどな。うし、じゃあゲーセンやめてロッテ行くぞ。作戦会議だ」
「ありがと、岩田。シェイク代出すよ」
「お、マジ? こっちこそサンキュー」
予想以上にやる気を見せる相手に、僕の精神力は確実に削がれていた。
――
「奏多くんへ。
お昼休みは残念でした。でも、まだ準備しきれてなかったから私もちょっとホッとしてます。
でも、これで私がどれくらい本気かわかってくれたでしょうか。
けどごめんなさい、恥ずかしくて名前も書けない私を許してください。好きな気持ちがどんどん膨らんで、恥ずかしさも同じくらい膨らんで、こんな手段に出る私を許してください。
奏多くんは直球過ぎるのが苦手みたいだから、もっと搦め手で、奏多くんのことを知って行こうと思います。普段お昼一人の時は学食にいるのかな?
みんな筒井くんばかりで誰も貴方の優しさに気づかない。でも、貴方だけを見てた私が、私だけが貴方のことを知ってるの。わかってあげれるの。だから、もし私の準備より先に私を見つけたら声をかけてね。待ってます。
貴方のことが大好きな私より」
「……ちょっとこれ、ガチなやつ過ぎないか?」
ロッテリアの一角で、岩田の引きつった声が向かい側から聞こえた。僕と言えば、言葉を発せないでいた。ドン引きである。
「病んでるのは二次元だけで勘弁だろ……お前この子に何をやったんだよ」
「僕が知りたいくらいだよ。こういうのは修の役目で僕じゃない。いや、今回ばかりは僕で良かったか……?」
「落ち着け小柳! 良くないから、ぜんっぜん良くないからな? こういうのって最終的に拉致監禁エンドがハッピーエンドなレベルの分岐に陥ることが多くてな、だから――」
「岩田こそ落ちついてよ。だって修にこんな手紙が来てたらハーレムが黙ってないだろうに。
僕のところに来てても全然良くないのはわかってる。さっきから妙に寒気もするし」
「か、風邪には気を付けろよ」
「いっそ一週間くらい寝込みたい気分だよ」
何が一番嫌かって、最後の部分だよ。僕のことを理解してるのならこの手紙を送るのは数年遅かったね。わかってくれるのならこんなもの送らないで勝手に想いを秘めていて欲しかった。中学時代なら喜んだかもしれないけど、今の僕には煩わしいだけだ。
「とにかくあれだな。筒井なんかと食べない時は俺も学食ついていくわ。何かあってからじゃ遅いし」
「ありがたいけどそこまでしなくても――」
「お前はわかってない! ヤンデレはな、マジで怖いんだぞ! ほんっとうに、二次元なら結構な需要誇るくらい一途で病んでるんだからな! かくいう俺もヤンデレは大好物だ。だからこそわかる。これはマジでやばい。貴方をわかってあげれるなんてテンプレ書いてる辺りかなりヤンデレが進行してる。だから俺がカバーするからな。ヤンデレ物は二次元だけでいいんだってことをこいつに教えてやる」
「あ、ありがとう……」
なんかとんでもなくやる気なので、ここはその優しさに甘えておくことにしよう。
しかし、参ったな……これ、どうやったら上手く終わらせることができるんだろう。笑い事じゃ済まなくなってきた気がする。
私だけが――とか――してあげれるってヤンデレ系の定型文ですよね。と個人的に思ってます。
本当はもっと修側の話を絡ませたいのですが、少なくともこの話はひたすら奏多メインなのであまり絡んで来ないという……
基本スタンスは奏多がサブキャラとして動く話を主にするのですが、ヒロインがいないんじゃ始まりませんからね(笑)
休みを利用するので結構な頻度で投稿しますが、暇潰しになれば幸いです。
ではでは、また今度に。