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「これ、どう見てもストーカーだよね」
「しかも、困ったことに僕宛て。……ある意味修に行かなくて良かったか」
竹本に略奪されて、手紙の中身を読まれた僕は教室にて彼女の尋問に遭っていた。僕の目の前の席に座って偉そうに腕を組んで、ゆっくり目を閉じる。
さすが演劇部のエース。顔立ちもしっかりしてるからとても様になってる。
「どうして?」
「修のハーレム達が黙ってないよ、こんなの。と言うか、これすら修にバレたらまずい」
僕がストーカー(?)に目をつけられてるなんて話したら一大事だ。修はあれで本当に僕に良くしてくれるし優奈も友達想いではある。つまり、大事になる。するとどうだろう、修のハーレムともそれなりに交流があるから彼女らも関わってきてもう大変。
「……なるほど、あくまで秘密裏に収めたいのね」
僕の表情から面倒ごとになるのを察したらしい竹本が心の内を代弁してくれた。
そう。これは修達にはバレないように処理したい。どうしようもなかったら助けを求めるけど。
「あとは岩田に話すだけかな。で、基本的にはスルーの方向で行く」
「じゃあお昼休みも行かないの?」
「もちろん。そもそも僕は焼きそばパンよりコロッケパン派だよ」
「え、そこなの?」
まぁ、どっちもパンの中なら凄い好きだけどね。
岩田はまだ来てないようなので後で話すことにしよう。
幼なじみ二人には黙ってる後ろめたさがあるけど、伝えて大事になってしまった時の心的疲労を考えると仕方がない。
「名前も顔もわからないんだ、最悪時間が解決してくれるんじゃないかな」
「……それは、上手くいかない気がするよ」
「竹本?」
「だって、この手紙の書き主の人、本当に小柳くんのこと見てると思う。私もちょっと参考になっちゃうくらい。これ、やり方はこんなだけど本気で小柳くんが好きなんだよ」
僕が好き、ねぇ。まぁ、ストーカーは好意が行き過ぎてなる人が多いそうだし、間違いではないかもしれないけど……
「……はぁ、参ったなぁ」
それは、やはり僕にとって面倒以外の何物でもなかった。
「あはは……まぁ、私もなるべく手伝うから、元気出しなよ」
「とか言って楽しむ気じゃないだろうね?」
「ないない! 演技派女優はね、常にそう居続ける為にも人の嫌がることを喜ばないようにしてるんだからね?」
「じゃあ竹本本人としてならどうなの?」
「どうなるのかすっごく楽しみ!」
「……いい性格してるよ、本当に」
にへらと破顔して見せる。誰とでも仲良くして、結構な告白をもされてるらしいこの演技派はその実かなりの自信家で、どこにでも溶け込める自分の演技力が好きでしょうがないそうだ。その本性はこんな感じで、自信家なとこを除けば極めて一般的な女子である。と思う。人の不幸を楽しむのはどうかと思うけど。
役にいつでも合わせられるようにと襟足よりちょっと下まで伸びた程度の黒髪に日焼けなんかしないように気を使ってるらしい白い肌、薄化粧でも充分に整ってる容姿と自信家足り得る見た目をしてるからタチが悪い。
「えへへ。でもさ、あんな可愛い幼なじみがいたり、こんな手紙を貰ったり、私がいるのに全然反応無しって小柳くん本当に大丈夫なの?」
「何がどう大丈夫なのか知らないけど、僕はお見合い結婚で恋愛なんていう面倒な過程をすっ飛ばして終わらせる予定だからいいんだよ。この手紙は面倒なだけだし、竹本は友人。優奈に関しては幼なじみだしそもそも修にお熱なんだよ? 他の人が好きな人間に想いを寄せたところで空しいだけだろうに」
……思わず実感を込めて言ってしまった。まぁ、まだ多少思うところがあっても仕方がないか。とは言え、今は煩わしいだけだけど。
「うわー、ほんっと枯れてるね。いいの? 彼女とかそういうステータス欲しくないの?」
「いらないよ。今ある肩書きで充分だよ」
「岩田くん言うやつだよね。なんだっけ……"ハーレムラブコメの主人公の友達ポジ"だっけ? 長いから逆に覚えちゃった」
「それ。その肩書きで結構満足して楽しめてるからステータスとかはいらないかなって」
「筒井くん周辺の修羅場を一人傍観して楽しんでるとか、結構酷いよね、小柳くん」
「悩みの種でもあるんだからいいんだよ。近藤先輩なんて半分恐喝しながら情報提供を要求してくるんだよ? 怖いったらありゃしない」
「あの孤高の不良少女の近藤先輩がねぇ。本当にベタ惚れなんだ」
ベタ惚れもいいところ。修のハーレムヒロイン達はもう修以外の男子には興味ないだろうね。
僕も修絡みで交流があるだけで、それ以上はないだろうし。むしろ優奈以外からは最大の障害に思われてるみたい。
「それでも筒井くんとは仲良しなんだね」
「当たり前だよ。修は僕の無二の親友だからね。
ああ、竹本も修に興味があるなら言ってね。友達だから多少詳しく教えてあげるよ」
「あ、あはは……私は筒井くんはいいかな。て言うか、筒井くんてそういうモテるじゃないよね?」
「あ、バレた?」
「そういうのはバスケ部の蔵本くんのポジションで、筒井くんはもっと主人公な感じでしょ?
何かしら理由があって……そこから的な」
「うん。ついでに言えば僕も結構巻き込まれてたりする。最近はハーレム達がやってくれるからちょっと逃げ気味でもある」
修が少し寂しいとか言ってたけど、そこは僕も人間なので限界がある。あんな桃色と殺気の入り乱れた空間なんていたくもない。
「あはは、苦労人お疲れ様。と、先生来そうだし戻るね。あ、私は小柳くんの手伝いするからちゃんと進展あったら連絡するようにね」
「了解。まぁ、何かあったらよろしく」
「承りましたっ。じゃね」
最後は演技モードで手を振って早歩きで自分の席へ戻っていく。
忙しい人だな、竹本も。
―――――
「はー、ラーメン食べた後のコーヒーは美味しいなぁ」
昼休み。僕は学食で食事を済ませて校庭のベンチに座っていた。屋上? 行くわけがない。今日は焼きそばパンじゃなくてラーメンの気分だし。
「あれ、小柳くん?」
「ん? ああ、霧谷さんか。こんにちは」
「こんにちは」
制服をきっちり着込んで、三つ編みを二つお下げにした眼鏡女子の霧谷さん。この学校、"早垣高校"の僕らの学年の風紀委員で、修のハーレムの一人。
「今日は修の所に行かないの?」
「ええ、今日は委員会があってそっちでご飯食べちゃったから。小柳くんも一人?」
「うん。けどそろそろ修が拗ねるから近々教室で食べないとかな」
「ふふ、本当に仲良しなんだね。二人は」
「付き合いが長いからね。あ、でも馬に蹴られて死ぬ気はないから修には好きにアタックしてどうぞ」
「言われなくても。ちなみに、小柳くんは誰が一番修くんと仲良しだと思う? やっぱり三浦さん?」
「みんな同じくらいかな。優奈は確かに幼なじみな分近いかもしれないけど、幼なじみな分離れてる所があると思うし、何より修がそういうのに全然気づいてないから全員論外」
「うわぁ、辛口だなぁ」
「変に期待させるよりはいいかなって。あまり含んだ言い方とか得意じゃないし、好きじゃないから」
僕は一応、修の友達ポジションと言うことで優奈や霧谷さん達には全員平等に接している。聞かれたことには答えるし、わからないことは答えない。僕自身は何も協力しない。深く関わりたくないし、それより関ったら余計なお世話だ。選ぶのは修であって僕がそれに自分から選択肢を与えるべきでない。
……実のところただただ面倒だからだけど。
「前にも聞いたね、それ。うん、修くんに振り向いてもらうには自分で頑張るしかないんだよね。
……凄く鈍いから骨が折れそうだけど」
「あれに関しては僕もびっくり。せめてずっといる優奈の気持ちくらいは気づいてもいい気がするけど」
「それは、困るかな。あ、そろそろ予鈴が鳴るから私行くね。小柳くんも遅刻しちゃダメよ?」
「そんな不良なんかじゃないよ。またね」
ヒラヒラと手を振って、缶を捨てるべく霧谷さんとは違う方向に歩き出す。
しかし、改めて修がどれだけモテるか、愛されているかわからされるなぁ。
「修が不幸にさえならなければ誰とくっつこうと構わないかな。誰が勝ち取るかはとても興味あるけど」
おっと、予鈴が鳴った。早く教室に戻ろう。遅刻なんてしたら次霧谷さんに会った時に小言を並べられてしまう。
「よっ……と。よし、ナイスシュート」
わりと納得の行く放物線を描いて空き缶はゴミ箱に収まって。満足した僕は小さく笑って教室へ向かうことにしたのだった。
何の山もない回でした。
修くんはあくまで主人公系なだけで本編ではサブキャラなので修ハーレムの方々もチラホラ出る程度です。
ハーレムが最初から確定してるせいかサブキャラとして出す修ハーレムの面々が多くてどう出そうかなかなか悩みます(笑)
とまぁ、こんな感じでゆったり行くと思いますのでこれからもよろしくお願いします。
ではでは、また次回で。