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一話

 今日は悪友と家にて遊んでる真っ最中。遊びは因みに大富豪。

 水簿らしい畳のアパートの一室に三人。ちと狭い。


「八切りでほいっ。上がり」


「かーっ!また敗けだよ!」


「流石、大富豪なら女子供ひいては初心者にも手加減しない鞍上竜也あんじょうりゅうや


 流石に初心者には手加減するよ。


「そんな目をしても無駄無駄。私は一生忘れないからな!初大富豪で千円とられたこと!!」


「ありゃ早奈英さなえが初心者のくせに突っ掛かってくるから!」


「見てて面白かったぞ」


「お前は私の暴走を止めにはいらんかい!!」


 バシッと早奈英に頭を叩かれるたかし


「お前!馬鹿!メガネずれるだろ!?」


 問題はそこじゃなかろーに。

 俺達の関係は幼馴染み。いや、腐れ縁と言ったほうがあっているかな。幼馴染みっていうのは恥ずかしすぎる。


「そう?私は幼馴染みがしっくりくるけどね」


「確かに。腐れ縁ではこういう風に集まりはしないな」


「人の心を読むんじゃありません」


「何年お前といると思ってる?」


「まぁ、私ら三人の中では一番考えわかりやすいよね」


 散々な言われようです。いつものことだけど。


「その俺に大富豪で勝てないのはどこのどいつら?」


「「うるさい」」


 ベシッと二人から叩かれる。ん?大富豪。あ、そうだ大事なこと忘れてた。


「あーハイハイ賞金ね。賞金」


「今度は先読みするな」


「だからお前は顔に出過ぎなんだよ」


 二人から同時に百円硬貨をぽいッと投げられる。もっと物は大事にしなさい。


「どうする?もう一戦しとく?」


 二人は何やらゴニョゴニョ話しているのでカードをきりながら聞く。普通は敗者がするもんだろうに。さっきの大富豪、平民は崇で貧民が早奈英。


「受けてたつ」


「にっししし。負けないよ!」


「お前ら悪巧みするなよ」


 ギクッと効果音がついてもおかしくない反応をする二人。基本的に悪巧みをするとき、崇はメガネをクイッと上げて早奈英はにっしししと笑う。


「すすすするわけないよねー?崇」


 そして早奈英はバレた時の反応がわかりやすい。


「やはり早奈英とは悪巧みするもんじゃないな」


「わかりやすいからね」


 思わず苦笑いを浮かべる。崇はというと呆れ顔で溜め息をついている。


「おまいら私を馬鹿にしおってからにー!!よかろう!!実力で打ち負かしてやる!!」


「おし!かかってこい!早奈英!」


「ここに思わぬ伏兵がいることを忘れるなよ?」


 そして戦いは幕を開けた。



「負けた……」


「早奈英に同じく」


 結果はさっきと同じ。相変わらず早奈英は弱い。


「でも崇にはそろそろ負けそうな気がするよ」


「それがお世辞じゃないことを祈りたいな」


 事実、さっき崇に勝てたのは運も大きかった。


「崇……には?」


 私はー?とスリスリと早奈英がよってくる。ショートカットのハネた髪でツンツンと頬をつついてくる。早奈英曰く、早奈英突き。


「負ける気がしないよ」


 ここは厳しくいかないと。


「うるせー!!」


 横腹にグーパンが入ってくる。だがいつも手加減してくれるのでさほど痛くない。


「夫婦漫才お疲れ~」


「夫婦ちゃう!」


「夫婦違うから!」


 この二人といるのは気持ちがいい。変に気を使わなくていいし、何より楽しい。ただ、高校に入って早半年。この二人は急激に美男美女へと変身した。

 崇はインテリイケメン男子として学校で確固たる地位を築き始め、早奈英はネックであった背が伸びてモデルのような体型になり男子からは当然モテ、さらに女子からは姉さんとして慕われるようにもなった。

 俺はというと至って普通の男子だ。ただこの二人の成長は親友として嬉しい限りだ。


「うおーい。大丈夫か?」


「なんだか遠い目をしていたぞ竜也」


「あーごめん。考え事」


「良からぬこと考えてたんじゃないんだろうな?」


「良からぬこと?」


「そうそう。自分だけ成長期においてけぼりにされてるとか」


「それはないな」


「それはないよ」


「なんだとー!?」


 早奈英がギャーギャーワーワー暴れだしたところで時計が9時を告げる。


「む?もうこんな時間か」


「早いなー」


「ちょっとトイレ借りるね」


 それぞれが帰る準備を始める。早奈英がトイレに行っている間にお菓子やら飲み物やらを男二人でさっさっと片付ける。ビニール袋に入れて口を結べば完成。


「おーまたー」


「さてアホも来たし帰るか」


「そうだね」


「アホはないし竜也はせめて否定してあげて!!」


 そうこうしている間に男二人は靴を履く。


「早くしないと鍵閉めるよー」


「鍵閉めるってここ竜也の家だし!」


 早奈英もドタバタと靴に履き替える。


「皆忘れもんない?」


「「あったら明日、持ってきてくれ」」


 これだからこの二人はいつも困る。寝巻きにジャンパーを羽織ったあと、パッとだけど忘れ物が無いのを確認して鍵をかける。


「あ、そうだ」


 今日は確か、今から雨だったはずだ。崇は家が俺のアパートの隣だからいいとして、早奈英はここから十分くらいの所にある。ここに来た時は……持ってなかったな。やれやれ仕方ない。


「おーい竜也なにしてんの?」


 二人は道路で俺を待っているところだった。と、その時ちょうど雨が降り始めた。


「げっ!私、傘持ってきてないよ!竜也!」


「はいはい」


「濡れたら面倒だし俺は退散だ。またな」


 フリフリと手を振りながら家へと走る崇。


「「じゃあねー」」


 それを見て俺達も手を振る。さてと、早奈英があまり濡れないようにしないと。


「あ、サンキュー」


 笑顔で傘を受け取ってくれる早奈英。受け取ったのを確認して俺も傘をさす。


「ちっ。二本あったのかよ」


 早奈英が何かをボソッと呟いた見たいだけどよく聞こえない。


「早奈英?」


「ん?あぁいやなんでもないさ。さ、帰ろう」


「そ、そう?わかった。それじゃ帰ろうか」


 何を呟いたか気になるけど遅くならないうちに早奈英を家まで送らないと。


「うん」


 そうやって少し歩くと雨はさらにその勢いを増してきた。さっきまでの雨がザーとしたら、今はボツボツという感じ。


「早奈英、寒くない?」


 早奈英の傘を持つ手がフルフルと少し震えている。


「だいじょ……はっくしゅん!!」


「やっぱり寒いんだ」


 今度は体全体でフルフルと震え始めた。これで風邪でもひかれたら早奈英のお母さんにとても悪い。


「十月だし寒いのは仕方ないよ。ほら」


 着ているジャンパーを早奈英に羽織る。


「暖かい?これしかなくてごめんね」


「う、うん。暖かい。ありがと」


 顔を赤くして俺に微笑む。こういう微笑みは彼氏のためにとっておくんだよって言いたいけど、顔が赤いのが気になる。もしかして……。


「顔赤いけど気だるいとかない?」


 風邪でもひいたんじゃないだろうか?


「気だるくないし、風邪もひいてない。そして家着いた」


 妙に不機嫌な口調で言われる。何か悪いことしたかな?


「ほんとだね。家に帰ったら寒くないように暖かくしてるんだよ?」


「あいあい。それじゃな竜也」


「うん、バイバイ」


 早奈英からジャンパーをもらって、彼女が家に入るのを見たあとに帰路に着く。

 あ、傘返してもらうの忘れてた。ま、いっか。

 雨は予想以上に降っており、水溜まりがいくつも出来てしまっている。それに寒い。ふぅーっと息をはくと白い息が出てきた。


「まだ十月なのに」


 早奈英は大丈夫だろうか?崇も家が近いとはいえ濡れてたのは事実。二人とも風邪をひかないようにしてほしい。

 

「ふ、ふぐっ。ひっぐ」


「?」


 最初は酔っ払った人のしゃっくりかと思ったけど、どうも泣き声を我慢しているようだ。それも女の人。よく見ると街灯の下、傘もささずに紺のジーパンと白のワイシャツだけでうずくまっている。金髪のロングで歳は俺よりも少し上に見える。

 一体どうしたのだろうか。


「あ、あの大丈夫ですか?」


 その女性は俺の声を聞いて顔を上げる。

 すぐに外国人だとわかった。蒼い瞳。綺麗に整った顔つき。そして気品のある顔。しかし、まだあどけなさが残っていた。

 しかし、困った。外国語なんて話せない。


「放っといて下さい」


 そう言って再び顔を埋める。良かった。言葉は通じるみたいだ。










「こんな場所でそんな格好だと風邪ひきますよ?」


「だから!放っといて下さい!!」


 少女は少し大きな声で怒鳴る。竜也は一度、軽く驚いたあと優しく微笑む。


「わかりました。でも、どうかこれだけは受け取って下さい」


 そして、自らのジャンパーを羽織らせ傘を少女が濡れないように置く。


「今日は特別寒いです。どうか風邪をひかないようにして下さい。それじゃお休みなさい」


 竜也はまた優しく微笑み、走って立ち去る。


「あ……」


 バシャバシャという足音が聞こえなくなって少女は、自分の鼓動が早いことに気がつく。


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