先生と鳳兄妹
私の通っているらしい、朝日奈中学校についた。これまでの情報を整理したいので調子が悪いと嘘をついて保健室で休む。
桜花『お姉ちゃん』から怪しまれないようにさりげなく聞いた情報を整理すると、
・家族構成は父母それに桜花お姉ちゃんと鏡夜という私と双子の弟がいる。
・私と桜花お姉ちゃんは中高一貫校の朝日奈という学校にかよっているが鏡夜は姉妹校の桜丘中高一貫校に通っているらしい。
・両親2人は仕事でいろいろな国に飛び回っていてなかなか帰ってこない。
・私は3年A組の32番らしい。
・私の一番の友達は鳳撫子。とある企業で成功した鳳家のご令嬢だそうだ。
・担任は日向彰(攻略対象)らしい。
登校だけでまあこれだけ情報を集めれれば上出来だ。あとはすごく調子が悪いふりをして早退するだけだ。学校から家までの道はもう覚えたしきっと大丈夫だろう。
ああ早く帰りたい。お姉ちゃんが主人公ということはもしかしたら家に攻略対象を連れてきたときにばったりあってしまって、良かれ悪かれなんらかのフラグがたってしまったらすごく困る。
突然ベッドを仕切ってあるカーテンがガラガラと勢いよくあいて、そこにいたのはお姉ちゃんの攻略対象の日向彰だった。
すこし日向彰について説明しよう。彼は桜花が高校一年生の時は中学三年生の担任だが、彼女が高校二年生になって彼女のクラスの担任となったのだ。そして、彼は早乙女家のご近所さんで小さい頃から桜花と遊んでいる。なのでゲームの中には2人の小さい頃の回想がけっこうあった。長々と説明してしまったが、桜花にとって日向彰は仲の良い近所のお兄ちゃんなのだ。
「雲雀!大丈夫か!?突然倒れたって聞いたんだが…」
「先生、ここは学校です。早乙女と呼んでください。それと私は倒れていませんよ。ただ、調子が悪いだけです」
「相変わらずお前は真面目だな。少しは俺に心配させろよ」
早乙女雲雀は真面目な性格なのか。ここでも一つ情報を手に入れた。はあ…極力この人とはあまり会いたくなかったがこんなにも早く出会ってしまうとは。
「そんなに調子が悪いなら早退するか?送って行ってやるぞ?」
「先生は始業式があるでしょ?私は始業式だけ休んだらちゃんと教室に帰るから。寝たら治るわよ」
こうして私の早退作戦は幕を閉じた。
*
またもや、勢いよくベッド仕切ってあるカーテンが開いた。今度は誰だろう。その人の方を見ると、ストレートの闇の様に暗い黒色の髪に髪と同じ様に暗い黒色の瞳。ドールのように整っている顔立ち。確かお姉ちゃんの話によると鳳撫子さんだった記憶が…。
「雲雀ー!突然倒れたと聞きましたが大丈夫ですか!?」
「撫子さん…大丈夫です。それに突然倒れてないですよ!」
何か対応を間違えただろうか。撫子が不審な目をして私を見てくる。呼び方を間違えたのだろうか?呼び捨て?ちゃん付け?それとも苗字?
「雲雀…いつになったら私のことを名前だけで敬語を使わずに話してくれるのかしら?いつも撫子でいいといってるわよね?」
「う…はい。撫子…」
「敬語も駄目よ」
「わかった」
私達は少し雑談してから教室に戻った。
私達の教室の前が騒がしい。何だろうと思いその人混みの中を進んで行ったらなんとそこには、
「あらお兄様。どうかいたしました?」
「撫子!今日弁当を忘れていっただろう?だから届けに来たんだ」
こっ…こいつは!桜花の攻略対象の鳳桂馬ではないか!?攻略対象の中で1番粘着質で厄介なやつだ。こいつにはヤンデレルートやらバッドエンドやらがあったりして1番面倒だったことを覚えている。でも生徒会では二年生にして副会長をつとめる強者なのだ。この人がいたから皆が騒いでいたのだろう。なんせイケメンで年上の先輩。この人のことを何も知らない私だったら確実に騒いでいた。
そうか…撫子の苗字の鳳と聞いたとき何か嫌な予感がしたんだよな。まさか鳳桂馬の妹だったとは。
「あら。お弁当なんて使用人に届けるようにおっしゃればよかったですのに」
「少しでも君の元気な顔を見たかったからね」
そしてかなりのシスコン。とあるゲーム中のイベントで主人公とお昼ご飯を食べているときに桂馬の携帯に電話がかかってきて、その内容が妹が紙で少し手を切ったということだった。主人公とのお昼を中断してまで妹のところに行くとはシスコン以外のなにものでもないということで、このゲームをプレイしている人にシスコンと言ったら「ああ、桂馬くんね」と通じるのだ。ゲームには出てこなかったけど話していた妹とは撫子のことだったのだろう。
「まあ!お兄様ったら!私もお兄様の元気なお顔を見れてとても嬉しいですわ!」
きゃっきゃと兄妹水入らずで会話。私は教室の中に戻ってもいいのだろうか。決心して教室に帰ろうとしたら鳳さんに呼び止められた。これはマズイ。顔を見られたらきっと桜花の妹だとばれてしまう。それは極力避けたい。
「お兄様ぁ!この子が私の親友の早乙女雲雀よ!」
「そうか…君が…桜花の妹だよね?」
はい。もうばれてしまいました。
持っていたスクールバックで顔を隠しながら振り向いた。撫子と同じ黒いドールみたいな瞳に見つめられる。
「…はい。早乙女桜花の妹…です」
「どうしたの?鞄をかかえて」
「雲雀はきっとお兄様に見つめられて照れているのよ!」
「それは断じて違うから」
スクールバックに埋めていた顔を撫子に向けて、即否定する。
「やっと君の顔がみれた」
まるで王子様のように柔らかく微笑んで私の頭を撫でた。一瞬だけこいつがヤンデレシスコンだということを忘れて大人しく撫でられてしまった。しかし、別に嫌ではなかった。
鳳さんが手帳の白紙の部分にメールアドレスと携帯の番号をスラスラと書いていき、その紙を破って私にくれた。
「よければメールか電話してくれると嬉しいな」
そういって鳳さんは高校生の校舎に戻っていった。すると、隣から「お兄様が初対面の方にあんなにも嬉しそうにメアドや番号を渡すなんて珍しい」と言う声が聞こえてきた。
「…もしかしてお兄様!一目惚れ!?」
「そんなわけないでしょ!」
「お兄様と雲雀が結婚したら私は雲雀と姉妹…!いいですわ!」
撫子お嬢様は暴走してしまったらしい。
この暴走は授業が始まってからも30分は続いた。