厄介なお兄さん
インターフォンがなった。時計はもう10時をまわっている。こんな夜遅くに誰だ?明日は休日なので、お姉ちゃんは女友達と日帰りで温泉に行くので準備に忙しく、鏡夜は部屋にこもってギターの練習。今でられるのは私しかいない。
「面倒だなー」
よっこらせっと重い腰をあげて、玄関に向かう。ピンポンピンポンピンポーンとお客さんは何回もインターフォンを押す。はいはいはい。そんなに鳴らさなくても聞こえてますよ。
玄関を開ける。
「雲雀ー!助けてくれー!」
そう言って、ガバッと抱きついてきたのは日向彰。私の担任兼近所のお兄ちゃんだった。
またですか。最近こういうことがよくある。また、どうせ職員室に家の鍵を忘れて家に帰ったときに気づいたのだろう。
「今日で最後だから、泊めてください!」
瞬時に私から離れて彼は土下座をしてたのんできた。
「しょうがないですね。これが本当に最後ですよ?」
先生がいつも泊まるときに使う部屋に案内する。こんなことももう慣れてしまった。
「先生、お風呂入ります?あっ、ご飯食べましたか?」
「なんかさ…これってお風呂にする?ご飯にする?それとも痛っ!」
最後まで言い終わる前にお腹を強く殴る。先生、それセクハラですよ?
そして、先生のお腹がグ〜っとなった。まだご飯を食べていないのか。じゃあ、先生には先にお風呂に入ってもらってそのうちに今日の残りのシチューを温めておこう。
「先にお風呂に入ってください。あとこれお父さんのやつですが着替えです」
「いつもありがとな!じゃあお風呂借りるよ」
まったく、世話のかかる人だ。
*
ギターの練習が終わったらしい鏡夜がリビングに来た。そして、冷蔵庫からお茶を取り出し、コップにいれて飲む。
「誰かきたのか?」
「んー?日向先生が来たの」
「またあの人鍵を学校に忘れたのか?」
鏡夜は呆れぎみで言った。
鏡夜は日向先生のことを苦手、というより嫌いに近いらしい。お姉ちゃんに鏡夜どうして先生が嫌いなのか聞いたところ、小さい頃からずっと先生に鏡夜はいじられていてそれが中学校入学まで続き、それがちょっとトラウマらしい。
なので、先生がこんなようにうちに泊まる時、鏡夜はずっと部屋にこもっているらしい。
「じゃあ俺、あの人が風呂出る前に部屋戻るから」
「うん。気をつけてね」
嫌な予感がするから。そんな事を思いながら見送るが、部屋に帰るタイミングがダメだったらしい。鏡夜は先生に肩を掴まれ、一緒にリビングまで帰ってきた。
「お風呂から出たらちょうど鏡夜にあってね〜!いやー大きくなったなー!」
鏡夜の頭をぽんぽんと叩いた。
「おっシチューだ!大好物なんだよね!」
先生が椅子に座りいただきますといったら飲み物を出して私も椅子に座った。鏡夜も渋々とした感じで私の隣に座る。
「先生ってさ」
「雲雀、学校の外では彰君って呼んでよー!」
「はいはい。で、彰君」
なあに?と可愛く首を傾げるが、大の大人がそんなことをしてもまったく可愛くない。
「もしかして、わざと学校に鍵とか忘れてきてる?」
「え、え〜!そんなことないよ〜!」
口では否定しているが、目が泳いでいる。これは嘘決定だ。
「なんで?」
「だってさ…」
彰君のいい分は両親が2人とも亡くなってから家に1人でいるのが寂しくて、自分は料理がまともに作れないから美味しいご飯が食べたかったというまあ子供っぽい理由だ。
「じゃあ、別にわざと忘れなくてもうちにこればいいのに」
「え?いいの!?」
彰君の目がキラキラと光る。いや、毎日こられても迷惑だけどね。
「彰君!また鍵忘れたの!?」
「桜花ー!久しぶりだな!」
ヒロインと攻略対象が1人ずつ揃った。では、私と鏡夜は退散しようか。
「じゃあ、私達勉強するからあとは2人で楽しんでね!鏡夜、いくよ」
私は鏡夜の手を繋いで部屋に続く階段をかけあがっていった。
こうやって小さなことをいくつもいくつも積み重ねれば桜花への好感度があがって私のことなんか眼中になくなるはず!完璧な作戦じゃない?
今後の展開が楽しみだ。