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α-アルファ-  作者: Marimo
1/3

-K-

>>> これは、世界の余分でしかない。




『自動修正ガ完了シマシタ。再起動ヲシマス。』

長い沈黙のあと、黄色い砂が埋め尽くす地面から人の右手が勢いよく出てきた。続いて起こされた上半身は長い黒髪と所々焦げた肌を持った女性。

『大気ガ汚染サレテイマス。周囲ニ生物反応ハアリマセン。』

その機械の音は女性の口から発せられていた。最初に差し出した右手を握ったり緩めたりを繰り返し動作に問題ないことを確認すると立ち上がってあたりを見回す。

空が割れて、宇宙が落ちてきたような真っ暗な頭上は、目視できるほど近くに他の惑星や星がある。

地面は黄色い砂がすべて埋め、建物や草木、道などかつてここにあった暮らしの名残を微塵も残していない。

『通常モードニ移行シマス』

機械の声が告げたあと、それまで真っ黒だった瞳に明かりが灯ったかのように光が入る。



***



 とても長い間、私は壊れていた。

崩壊したこの世界は、元々私がいた世界なのだろうか。……それならば、私はなぜ残っているのだろう。

「………」

再起動は、前の任務が遂行された証である。それならば、次の任務をインプットしなくてはならない。私たちアンドロイドは、そうプログラムされている。私たち……まわりには誰も何もない。それでも帰還機能に任せて歩きだす。


私は「K」と呼ばれていた。

他のアンドロイドと違って、ある女性を元に作られ、その女性のイニシャルだと教えられた。皮膚や目の色、顔立ちや体などの六割はその女性のものを使っていて、そこに私という頭脳プログラムを入れ込み作られた。

思考は私のプログラムを使われているせいか、その女性としての記録はない。この場合は、記憶というのだろうか。







「……?」

前方に見えてきたグレーの建物に違和を感じる。

手前に敷地の区切りを示す柵が設けられ、その奥に壊れた建物の群が見える。

柵に付けられたパネルには「プロメテウス」と書かれ、帰還機能が指し示すそこであった。崩れそうなままなんとか保っている建物へ近づくと、正面にはシャッターが下りた大型車輌の搬出口があり、以前そこから出撃された対空戦車に乗ったことがある。

そしてその横に設置された人の大きさの出入口には認証パネルがあり、瞳を合わせるとシステムは起動する。


記録にあるプロメテウス研究所は先進技術を詰め込んだものであり、地上20階と地下に5階の建物である。

建物内に、私たちアンドロイドが何千体とあり、科学者も何百人といたと思う。

そしてそれらが収容広さをがあるはずなのに……門から車両口に至るまでの通路までが一切がなくなり。3階より上の階は科学者の居住区や私たちアンドロイドの研究施設もあったが、それらが全て跡形もなく消えている。

今はむき出しになった地上2階となんとか建物として残っている1階、そして地下に広がる部分だけのように見える。

何が起きて、どうしてこうなったのかは分からないが、これは”異常”である。



認証後に開いた扉は私が入るとすぐに閉まり、入ってきた扉とすぐ目の前の扉に隔離された小さな空間になる。

霧の消毒剤と、破損がないかのスキャンがされ、問題がなければその機械が用意した服へと着替える。

用意された服は研究所内でアンドロイドたちが着ている共通のものである。そしてそれらを終えたて、中に進むと誰もいないことに気づいた。

1階のエントランスロビーは、惑星移動をしてきた人たちを迎えるために広く開放的な空間になっている。

そこから方々に扉を隔てて廊下が繋がり、食堂や医務室などもある。そしてここは常にたくさんのアンドロイドが居た。もちろん科学者も居て、賑わいを見せていた。

アンドロイドにも種類があり、私のような戦闘対応用のほかにも施設の清掃から研究のサポートなどを行うものが、日々ところせましと廊下や部屋を行き来していた……それなのに、今は人も起動しているアンドロイドどころか、その残骸すらない。


エントランスの右手奥には扉を隔てて階段があり、その先は”管制室”と書かれた部屋になっている。

1階の途中から2階までの少し天井の高い管制室は、私たちが任務を受ける場所で、戻ってきたときには階段を上り必ずここでメモリの確認をしてもらう。

しかし、そこにも誰もいなかった。普段は点いているモニターもすべてが消えており、室内は非常灯の薄茶色い灯りしかない。

メンテナンスをしている研究者も、指示をくれるマスターさえ姿が見えない。ここまで来ると、私は緊急用のプログラムを起動する。

まずは生物スキャンを行い、生きている人間を探すようになっている…もちろんその通りに実行したが、反応があったのは地下5階の廃棄施設の奥だった。

エントランスへと戻り、資材搬入エレベーターに乗って地下へ降りると、そこは高い天井の廃棄施設であり可燃処理室からプレス機まであらゆる廃棄物を処理する場所になっている。

科学物質の漏洩のために、この地下深くに作られたと聞いたことがある。

反応の先は、「冷凍処理」と書かれた部屋にあった。


冷凍処理室は、安全面のために出入りごとに一人一人がスキャンされる。閉じ込められれば中から声が聞こえることはないが入った者の退出を確認しない限り冷凍の機能が作動されない。

網膜スキャンを終えて中に入ると、少しひんやりとした空気が体を撫でる。

棚や凍結中の薬品が並ぶ先にそれはあった。



その箱は、人用の棺の形をしている。凍りついた蓋は顔の位置にあるガラスが白くなっている。

「……」

ガラスを擦ると少しだけ中身が見えてくる。

それは男性だった。

銀色の短い髪と、寄せられた眉の皺、やけに白いその肌、私は覚えている気がした。

しばらく頭の中のメモリを確認するが彼の名前や目を開けた顔が出てこない。プログラムが壊れているのだろうかと逡巡するが、生命反応を示す彼を移動させることが第一だった。

棺は網膜認証がつけられている。科学者によっては、この特製の棺で家族以外に触れないように弔うことがあると聞いた。それでも、冷凍処理を望む科学者は少ないと思う。

ダメならば壊してでも開けようと、網膜認証に目をあわせる。

一瞬のフラッシュのあと、棺はゆっくりと白い霧を排出して開いたのだった。



そして彼の全身が見える。

まるで仕事の最中でここにいるように、着たままの白衣と黒いシャツ、グレーのズボン、胸元の名札には

「……ジャスロ」

名前を見つけた瞬間、私の中でフラッシュを起こる。


彼が笑いかける映像、本を読む姿、栗色の髪の女性と談笑する姿、こちらに呼びかける優しい声。

すぐに理解した、これは私の元となった女性の記憶だと。

理解した途端に、涙が溢れてくる。

女性は最後の瞬間まで、泣いて彼を呼んでいた。それでも手はおろか声すら届かない、そして黒い顔が近づいてくる、暗転。

映像が暗転から目の前に切り替わる、認識より早く体は動き、まだ目覚めない彼へと抱きついていた。


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