面接とかってだいたい第一印象で決まってる。
右から、知的眼鏡、片眼鏡紳士、細マッチョ、小動物系少年、耳がやたらとがった美人。
ほかにもろもろいるが目立つのはそのへんか。
ふむ、楽園ってかなり身近なところにもあるもんなんだな。
顎に手を当てジンは神妙な顔でうなずいた。
人たちが集まっている場所は傭兵たちの野外訓練所で壁があるが屋根はない。普段は素振りをしている姿などが見られるが本日は新人選考の特設会場になっている。
中央付近にジンを含む志願者の群れ、それを囲うように野次馬をしているものたちは現役傭兵でみなそれなりの身体をしている。
ジンはぐるりとあたりを見回した。いい眺めだが、さすがにこうもじろじろ見られると居心地が悪い。
身長が高いと見るのに苦労しなくていいが、逆にみられやすくもあるのか。
モリーさんに聞いてとりあえず一番大きな町に来てみた。
傭兵は人の増減が激しいらしく二月に一度募集がかかる、ちょうど良かったといえばよかったが不穏である。
え、なにそれ死ぬの?二ヶ月に一回とか人の増減激しすぎだろそれ。
どこのブラック企業だと問いただしたい。残念ながらこちらにはそんな概念すらないだろうが。
ここに集められたのは適正をはかる試験のためだ。試験とはいえ軽く打ち合いをしたり走らせたりして能力を測るもので、不合格者が出た事はない、常に人が足りないのでよほどのことがなければ落とされることはないのだ。そんなこと周知の事実なのでみな当たり前に受け入れている。
ただ一人、ジンを除いては。
ジンがそわそしているとマントを羽織ったおっさんが入ってきた。
なにか始まるらしい。
試験って何するんだろう。もしかして試合とかするのか・・・だめだ受かれる気がしない!
武器なん触る機会無いし、最近握った刃物は薪を割るための斧オンリーなんだが。
皆は武道の心得あるのか。
って事はさっき見た小動物にもその心得があると。
なにそれ萌える!!
落ちても受かってもこの周りのメンバーの打ち合いは見れるならソレはそれでありか。
内心ニヤニヤしながら一番偉そうな人の発言を待って偉そうなおっさんに目を向ける。
ジンが眺めていたおっさんの名前はクラウン、普段から街の中をふらふら歩き回っている昼行灯だが、役職は指揮官。正しく偉い人である。
こんな面接みたいなこと普段は現場担当がするのだが、書類から逃げるにはいい口実だったのでクラウンは嬉々と参加していた。
のだが、今は少し後悔している。
「クラウン指揮官、めっちゃにらまれてますけど!」
ひそりと副官であるコリーが声をかけてくる。赤茶色の髪にそばかすと少年のような印象の青年である。
「なにをしたかはわかりませんけどきっと指揮官が悪いです、さっさと謝ってください。」
部下で有るはずなのにコリーはきっぱりといった。
妙に断定的なのはクラウンの日ごろの行いのせいであると自身で理解していたのでなんともいえず顔をしかめた。
「馬鹿をいうな、あんな大男一度見たら忘れん。初対面だ。」
「初対面の人間にあんな睨まれるなんて、クラウン指揮官の普段どんな生活送ってるんですか!」
コリーの中ではどうあってもクラウンが悪いらしい。
しかし今回ばかりは本当に覚えが無い。
ジンには睨んでいるつもりなんてさらさら無かったが、なにせ距離があるしクラウンたちは太陽を背にして立っている。当然まぶしさから目を細めることになった結果である。
「おーい、そこのでかいのこっちこーい」
クラウンが声を張り上げる。
その場に居た人間が呼ばれた人間を確認しようと振り返った。
ジンはきょろきょろと当たりを見回す。ちらほらと自分ほどではないが大きい人がいるのが見てとれた。
まさか自分ではないだろうと首をかしげる。
「お前だお前!そこで首傾げてるそこのお前!」
理解していないのがわかったのかクラウンはジンを指差しながらぶんぶんと腕を降る。
落ち着きの無い中年である。
周りに集まっていた人が道を開けてくれるため、クラウンまでの直通ルートが出来てしまった。
よくわからないままジンは向かっていく。前に聞いたモーセってこんなかんじかと思ったがジンはその映画を見たことが無かったのでいまいちぴんとこなかった。
「何か御用ですか。」
女口調が出ないよう、ドラマで見た俳優の口調を思い出しながら話す。
少々さめた口調であるが、マッチョな大男が「なんですか~」とか言うよりはましだと思っている。
クラウンに近づくジンは無表情である。
美中年!だるそうな美中年がおる!っていうか意外とマッチョっぽい!
さっき赤毛君と話してたの~~!
とか思っていても無表情。妄想がもれないように培ってきた腐女子力は伊達じゃないのだ。
無表情でちかづいてきたジンにクラウンは、ぞわっと得体の知れない鳥肌を立てた。
ジンの顔のつくりはそこそこ整っている、かなり厳ついが美形と呼んでも差し支えないレベルである。
ソレが無表情だと妙な迫力がある。しかしそんなことで鳥肌が立つほどクラウンはやわな精神をしていない、ということは。
これ俺マジでなにかした?見すぎだとは思ったが、逆光のせいで目つき悪くなってるだけかと思っていたのに本気で喧嘩売られてたのか。
クラウンは現場が長いだけあって、とても精確な見立てをしていたがまさか大変不健全な妄想をされてるとは思わず鳥肌の意味を取り違えた。
新人の力量を測るための模擬試合でもしようと思っていたところに見栄えのいい大男が居たから呼びつけたのだが、呼ばれてこの落ち着きっぷりということはよほど自信が有るのかも知れない。
もしくは俺と戦りたかったか。後者なら非常にめんどくさい。
クラウンは結構有名な武人なのだ、そのため強いやつと戦いたいという変わり者によく喧嘩を売られる。
ふむ、と息をついてクラウンはポンとジンの肩に手を置いた。
「これから模擬試合してもらうから、コリーと。」
「はあ!?」
声を上げたのはコリーだ。自分で呼びつけておいて部下にマル投げするなんて思いつきで行動するにもほどが有る。
当たり前だがコリー表情は不満たらたらである。まあそんな理不尽な指揮官と不憫な副官とのやり取りはもはや日常茶飯事なので周りで新人の野次馬決め込んでいた傭兵が野次を飛ばす。
「おー、がんばれよコリー!」
「負けるな新人!」
「呼んどいて自分は逃げるとか、指揮官の鬼ー」
「がんばれよ~」
「指揮官の理不尽なんかにまけるなー」
「指揮官かっこいー」
「ナイス理不尽!」
クラウンはそれに手を上げて応えているし、その様子から見ていた志願者たちも観戦するムードになっている。
剣も握ったことの無い人間に試合とか無茶振り以外のなにものでもない。
ジンは周りの空気に圧倒されて一人取り残されていた。
しかし、そんなジンにコリーが諦めろとでも言うように首を横に振って木刀を手渡してくる。
「ってわけでコリー対・・・」
「ジンです。」
ジンは反射的に応えたが、言ってすぐ後悔した。
素直に名乗るとかやるき満々にみえやしないかと思ったからだ。しかしジンにやるきがあろうが無かろうがクラウンはかまわず進めていく。
非常に困った。木刀なんて持ち方すらよくわからない。
ジンはちらりと対するコリーを盗み見るがコリーはやるきになっているようで既に構えていた。
ジンが構えなくとも、自らセコンドまで勤めるサービス精神旺盛な指揮官は気にしないようである。
「コリー対ジン!試合開始ー」
そんなかんじにジンにとってはデメリットにしかならない戦いが始められた。