2日目 表層循環 - cast seed -
明日は早朝から世界樹に向かうことになる。
だから準備は今日中に済ませなければならないと、主人は張り切って買い物リストを作っていた。そして今やその大半は、テオ少年の手の中にある。金貨の入った皮袋とともに、満面の笑顔でメモを手渡された。要するに、「お使いに行ってきて☆」ということだ。
テオに手渡されたメモは、平易な言葉ばかりで書かれている。
少年がバウマンの屋敷にやってきたのは一月ほど前の話だ。それまで文字を書くところか、読むことにすら苦労していたテオだったが、バウマンの懇切丁寧な授業のおかげで簡単な言葉なら読めるようになったところだったからだ。
朝早くからひたすらに買出しに走っていたテオ少年は、ようやく最後になった買い物の帰り道でつと足を止めた。ショーウィンドウの向こうでは、様々なロッドが展示されている。そしてロッドの間隙を埋めるように、行儀よく整理された色とりどりの石がキラキラと輝いていた。
綺麗だな、目が釘付けになる。
成金主義のブレンダーが多い中、バウマンは実に質実剛健な生活を送っており、屋敷の中はおよそ殺風景だ。主人は宝飾の類は好まないし、食器類ですら長いこと使い込んでいるせいで曇っているものばかり。一度だけ他のブレンダーの屋敷に使いで出掛けたことがあったが、正面のホールには豪華絢爛なランプ……シャンデリアが吊るされており、人がくねくねとポーズをとった彫刻が沢山置かれていた。
その代わりにバウマンの屋敷は、主の発明品や彼の好奇心で据え付けられた物で満ちている。その中でも特に便利なのは伝声管。部屋に閉じこもっている主と、厨房に居ることの多いテオが容易に会話ができるのはいいと思う。
早く屋敷に帰らなければと思いながらも、テオの目はどうしても煌く石に吸い寄せられてしまう。こんなに綺麗なものを目にすることは、滅多にない。
だから、少年に近寄ってくる人の気配に全く気が付かなかった。
「君は確か、バウマン氏のところで働いていた少年だな」
不意に頭上から降ってきた声に、弾かれるように顔を上げた。昨日、バウマンの屋敷を訪れた二人組の冒険者の片割れが、テオを見下ろしている。メイジの女性の方だった。
「あっと……テオって言います」
「私はアッシュだ。君はメイジの武具に興味があるのか」
テオが見つめていたものを一瞥したアッシュは、そんな事を言った。
「メイジ……のぶぐ?」
「そう、ここはメイジ向けの武具やアイテムを扱う専門店だ。ロッドやワンドから、マジックアイテムの類まで、一通りはここで揃う」
つまり、アッシュと名乗ったメイジは、おそらく明日以降の遠出……冒険者の間ではクエストとか依頼などと言うらしい……のための準備をしに来た、ということだろうか。
「その荷物は急ぎのものか?」
「え?」
アッシュが指差したのは、テオが抱えている紙袋。小脇に抱えられる程度のサイズしかないそれの中身は、何に使うのか良くわからない皮袋だ。急いで買って来いとは言われなかったから、多分急ぎではないはず。
アッシュの指が紙袋の縁を少し開く。中身を一瞥したアッシュは、
「これなら急ぎではないな。では店に入ろうか」
と、ドアを押した。キイイと蝶番がきしむ音を耳にしながら、どういうことだろう、と戸惑ったまま立ち尽くしているとアッシュがテオの方を振り向いた。
「どうした、来ないのか」
「! ……い、行きます」
アッシュの後について扉を潜る。店の中は外から見えた煌びやかな雰囲気はなく、薄暗い空間にロッド等の武具と、ローブやブーツといった防具が並べられていた。それでも、テオには初めて見るものばかりで、円柱型の箱に無造作に立てられたワンドをまんじりと眺めたり、壁に掛けられた彼の背丈よりももっと長いロッドを見上げたり。そしてその視線は、再びショーウィンドウの中に飾られている煌く石に向いた。
値札も説明書きも付いていないこの石は、一体何なのだろう。説明書きは付いていたとしても、きっと自分には読めないだろうけど。
「気に入ったのか」
店主と話し込んでいたはずのアッシュが、何時の間にやらテオの背後からショーウィンドウを覗き込んでいた。「どれだ」と無愛想な顔で迫られ、テオは自分が惹かれた石を思わず指差した。深く緑色を湛えた石をじとと睨め付けていたアッシュは、「まぁ、妥当なレベルだな」と謎の呟きを残して再び店主の元へ戻っていった。
良くわからない人だ、少なくともテオにはアッシュが何を考えているのか全くわからない。
何となくこの空間に居辛くなり、テオは店の外に出た。店の外に出たからといって、テオの居場所がそこにあるわけではないのだが、それでも閉鎖された空間よりは空が何処までも広がっている表は苦しくない。かといって、誘われて一緒に店に入ったのに、断りもなく勝手に一人帰ってしまうわけにもいかず、アッシュが出てくるのを待つことにした。
手持ち無沙汰なまま入口の横にしゃがみこむ。紙袋を膝の上に置き、ぼんやりと街の喧騒に目をやる。
そういえば今日は花を供えていない。忘れていたわけではないが、あまりの慌しさに後回し、後回しにしたままになっていた。瓦礫の下敷きになってしまった友人達を偲んでいるのは、この広いストレイスでもテオ少年一人しかいないはず。
荷物を主に届けてから庭の花を摘んで、もう一度街に出る。それぐらいの時間、取れるだろう。
早くあの人、店から出てこないかなと思って、ショーウィンドウから店内を覗き込もうと立ち上がったところで、ドアが開いた。出てきたのがアッシュ当人で、テオ少年はちょっと安心する。……何で安心したんだろう?
「あの……ボク、帰ります……」
「バウマン氏の屋敷にか?」
そうですと頷くと、「途中まで方向が同じだから、そこまでは同行しよう」と、相変わらず不機嫌そうな表情でアッシュが言った。
お互いに口を開くこともなく、何となく気まずいまま歩いていく。大通りから一つ入った路地である通りの路肩には、露天商でもなく、日向ぼっこを楽しむわけでもない、家を持たない人が座り込んでいる。
自分もこういう場所でずっと暮らすことになっていたかもしれないな、と思うと、テオには彼らが他人事には思えなくて仕方がない。あの家にいた友達のほとんどは、路上で生活していた子だったから。
その中に、周囲とは明らかに空気が違う人をテオは見つけた。小柄な女の子で、べったりとうつ伏せになって倒れている。目を惹いたのは、その髪の毛が鮮やかな水色だったから。
「あの……人が倒れてますよ」
「ああ、昨日もあそこに倒れていた」
「助けないんですか?」
誰が、と言い掛けたアッシュを少年が見上げた。
「私が? 何故だ」
「だって……」
もにょもにょと口ごもると、暫くテオを見つめていたアッシュはふいと爪先の向きを変えた。そして路肩に倒れている人の下へと向かった。テオも慌ててアッシュの後を追う。
その人とはテオの歩幅にして三歩ぐらいの距離を置いて、アッシュが足を止めた。水色のふわふわの髪には埃が纏わり付いているが、その肩は緩やかに上下運動を繰り返している。
ああ、この人は生きている、とテオ少年は心の中で安堵の溜息を吐いた。
「おい、生きているか?」
「――ですぅ……」
アッシュが無遠慮に問い掛けると、倒れていた人の手がピクリと動いた。それとともに漏れ出したハイトーンの呻き声。
「どうした」
「お腹が、すいた……ですぅ……」
相変わらず路面に顔を突っ伏したまま、その少女は搾り出すように呟いた。
お腹が空いただって? あまりにも直球の懇願に驚き、びっくり目のままアッシュを見上げると、流石の彼女も面食らったようでテオの顔に思わず視線を向けた。
「腹が減った……だと?」
それから数刻後、テオとアッシュの眼前で、件の少女は猛然と食事を口にかき込んでいた。
「はふはふっ、美味しいですぅ~。はうう~、涙が出てきちゃいますぅ」
「……そんなに急がなくとも、料理は逃げないぞ」
「はうう~、美味しいですぅ~。うううっ……もぐもぐ」
少女の食べっぷりを見ているうちに、テオの腹の虫がきゅううと悲鳴をあげた。その悲鳴にすかさず気がついたアッシュが、料理の皿を一つテオの前に押し出した。大きめにカットされた肉と野菜がごろごろと入っている赤いスープが、食欲をそそるいい香りをくゆらせている。
「テオも好きなだけ食べればいい。バウマン氏のことだ、食事もそっちのけで朝っぱらから研究に勤しんでいたのだろう」
「……そ、そうです……」
「遠慮はしなくていい、ここは相棒の実家だから安く済むしな」
相棒……というと、昨日一緒に館に来たファイターのことだろうか。丁重に断ろうとも思ったが、腹の虫の方がテオの理性より強かった。何か食べたい。
「……じゃあ、頂きます」
スプーンを右手に、スープを口の中に運び入れた。
空腹を訴える少女を引っ張り上げると、アッシュはテオと少女の二人を裏路地に居を構える酒場の一つに連れてきたのだった。夜は酔っ払いだらけになるそうだが、昼間は普通にランチメニューを提供しているのだという。安くてボリュームのある料理を提供すると、冒険者の間では好評な飯屋でもあるらしい。
野菜の酸味と甘みが蕩け出したスープが、空っぽできりきりしていた胃にじんわりと広がっていく。
バウマンの屋敷では、食事はあのちょっと変わった主人が作っている。本当は調理を専門とした人を雇うべきなのだろう、ほとんどすべてのブレンダーはお抱えのシェフがいるらしいぐらいには。
だからバウマンが朝っぱらから何かに取り込んでしまうと、テオは腹ペコのまま過ごすことになる。
「あの、アッシュさんはご主人様のことをよく知っているのですか?」
料理を頼むだけ頼んで、自身は茶を飲んでいるだけのアッシュを見上げた。
「うん? 何故そう思った」
「え……あの、ご主人様がご飯の準備をしていることを知ってたから……」
「元々、あの屋敷にはバウマン氏一人しか住んでいなかったからな、君が彼の初めての同居人のはずだ。洗濯と掃除はたまに人を呼んでやらせていたようだが、食事の準備だけはバウマン氏が自分でやっていたそうだよ。それを踏まえれば、今も彼が食事を作っていても不思議なところはないだろう」
「初めて……」
知らなかった、あの広い屋敷に主人はずっと一人で住んでいたなんて。てっきり、それまで雇っていた使用人が辞めたから、替わりに自分が買われたのだと思っていた。
「はふ~ん、美味しいですね~」
それまで凄まじい勢いで料理をかき込んでいた少女の手が、ようやく緩やかな動きになった。時折料理を口に運んでは、美味しいです~と幸せそうな笑顔を浮かべている。あまりに幸せそうなその様子に、なんだかテオの口元も綻んできそうだ。
「そう、それは良かった。そろそろ君の名前を伺っても良いか?」
「そ、そうでした! わたしの名前はリリーです~。ええと、オラクルやってます」
アッシュの呼び掛けでようやく気が付いたのか、水色の髪の少女が慌てて名乗る。それから、服以上に汚れた鞄から一枚のカードを取り出し、アッシュに手渡した。
「私はアッシュ、こちらの少年はテオだ。……確かに神官協会の正規ライセンスのようだな。これは単なるアドバイスだが、ライセンスは鞄ではなく身に着けていた方がいい」
「身に着ける?」
「そうだ。こういうライセンスなら、喉から手が出るほど欲しいと思う輩は大勢いる。どのように持つかは好きにすればいいが、鞄に入れておくのはやめておいた方がいい」
そのようにアッシュに言われたリリーは、まじまじとカードを見つめている。
「でもどうしたら……」
「わかった。後でチェーン付きのカードケースをやる。それに入れて首から下げるといい。しかし、オラクルなら幾らでも職があるだろうに、何故あんなところで行き倒れになっていたんだ」
「幾らでも……職?」
リリーと名乗った少女が小首を傾げた。
「そうだ。オラクルなら聖職者としての仕事もできるし、病や怪我の治療で報酬を得ることもできるし、冒険者として依頼を受けることも出来るだろう。……その様子だと何も知らないようだな。持ち合わせはないのか?」
「持ち合わせ???」
きょとんとしたまま、それでもパンを口に運んでいるリリーを見て、アッシュが嘆息する。
「金のことだ。ストレイスでは貨幣経済が基本だから、何をするにしても必要だぞ」
「お金? 持ってないです~」
「では今後の宿はどうするつもりだ。金がなければこのまま路上生活しかないな」
「うええ! どうしましょう~」
リリーがじいっとアッシュの顔を見つめた。どうするつもりなのだろう、とテオもアッシュを見遣る。
「本当に、全く当てがないのか?」
「ないです~、ストレイスには来たばっかりですし~」
しょぼん、としょぼくれたリリーを暫く眺めていたアッシュが、ふいにテオの方を向いた。腹がくちくなるまで、とは言わないが、ある程度食事を取ったことでテオの空腹感はとうになくなっている。夕食までの時間を考えると、これ以上食べてしまうと食事が入らなくなってしまいそうだ。だから、テーブルの上にはまだ料理の残っている皿があるが、テオの手は止まっている。
「もういいのか?」
「え……あ、はい。沢山食べちゃうと、夕ご飯が食べられなくなっちゃいます」
「彼の手料理を美味しく食べられなくなるのは問題だからな。バウマン氏のことだから、君に沢山食べるように言うだろう」
こくり、と頷く。
「アッシュさんは、ご主人様の作るご飯を食べたことがあるんですか?」
「いや、ないよ」
「そうですかぁ……」
バウマンの料理の腕はそんなに悪くない、テオにしてみれば彼の料理は美味しいぐらい。
「あの……ご主人様は、いつか友人に食事を振舞いたいって言ってますけど……」
と主が常々ぼやいていることを伝えてみると、アッシュはむ……と眉を寄せた。そして、
「あの奇妙奇天烈な味のブレンドティーがなければ伺うと伝えてくれ」
と返してきた。あのブレンドティーはそれほどまでに曲者らしい。テオにしてみれば至極普通に飲める味だし、昨日アッシュはあの茶を平然とした顔で啜っていたはずだ。ひょっとしてやせ我慢をしていたということ?
「さて、そろそろ君を屋敷に送っていこう。いい加減、バウマン氏も君が買出しから戻ってこないとやきもきしている頃合だろうから」
「あ、はい。ご馳走様でした」
よかった。このまま店から放り出されて、一人で帰りたまえと言われたらきっと迷子になる。帰り道をどうしようかと一寸心配していたのだが、その辺りの事情は汲んでくれていたようだ。
「それからリリー、君の宿だが私の知り合いに当たってみよう。私が戻るまで、君はここで待っていてくれ。ついでに、料理をすべて片付けておいてくれると助かる」
「わかりました~。お料理の方は任せてくださいです~」
ぐっと大げさに拳を握って見せたリリーを呆れ半分の眼差しで一瞥し、アッシュは席を立つ。テオもそそくさと席を立つと、リリーが、「さようならです~」と手を振ってくれた。
ごみごみとした裏路地を通り抜け、閑静な住宅街に繋がる見慣れた街道まで、アッシュはテオを連れてきてくれた。
「あ……ここまで来れば、もう大丈夫です。有難うございます」
ぺこり、と頭を下げる。「あ、それから」とポケットに手を突っ込んだ。
「あの、昨日のハンカチ……染みがちゃんと落ちきってないかも、ですけど……」
「ん? ああ、洗ってくれたのか。すまないな」
あれからすぐ石鹸で洗濯をしたのだけど、白いハンカチに残った血の痕は中々落ちてくれず、実はまだ、日の光の下でよくよく見るとうっすら茶色い染みが残っている。かといって、完全に痕がなくなるまでがしがし擦ったら布地が痩せてしまう。どうしようか凄く迷ったのだが、布地が痛まない方を選んだ。テオの母親は少しぐらい汚れが落ちていなくても、生地が傷まないように洗濯をしていたから。
こんなにすぐ返すことができるとは思っていなかったけど、家を出るときにちゃんと持ってきてよかった。
アッシュはテオの言い訳にも特に頓着した様子もなく、小さな手からハンカチを受け取ると、自身のポケットに仕舞い込んだ。
「テオ、私からも君に渡すものがある」
とアッシュがチェーンを通したシリンダー状のアクセサリーを首に掛けてくれた。
「……何ですか? コレ……」
アッシュがシリンダーの上部を回すと、蓋状になっていたそれが外れた。チェーンが通されていない側の下部をひっくり返すと、中から緑色の石が転がり出てきた。先程、メイジ専用のアイテム屋でテオが食い入るように見つめていたあの石だった。
「コレ、あのお店にあった……」
「そう、風を捕まえる力を封じた石だ。ウインドボイスぐらいの魔法なら、きっとすぐに使える」
「ういんどぼいす?」
「己の声を風に乗せて、遠くまで飛ばすことが出来る魔法だ。いいか、まずは風に乗せる言葉をしっかりと頭に刻め。それから、こいつごと石を握り締めて集中する。風に乗せて自分の声を遠くに飛ばすイメージを作るんだ」
アッシュはゆっくりと、一つ一つの言葉を区切りながら噛んで含めるように説明してくれる。それでも、唐突に降って湧いてきた魔法という言葉に心はざわついていて、ドキドキしている。
「で、でも! 魔法なんて……使ったことないです……使えるかどうかも……」
咄嗟に、それだけの言葉を搾り出した。魔法なんて自分が使えるわけがない。自分なんて、小さな何も出来ない子供だし、両親が魔法を使っていた記憶もない。無理に決まっている。
気まずくて視線を伏せたテオを見て、アッシュが膝を付いた。テオの痩せた肩に手を置くと、「テオ」と短く呼びかけてきた。チラリと視線を上げると、アッシュの灰白色の双眸がテオの薄茶色のそれをじっと見つめてきた。
「君はランザート人なのだろう?」
「う、うん……」
「それならば間違いなく魔法は使える、私もだからな。後は君の考え方次第だ。使えると思えば使えるし、使えないと思えば使えない。私も最初は全く魔法は使えなかった、使えないと思い込んでいたからだ」
「アッシュさんも、ボクと同じ……なの?」
「ああ、ランザート人だよ。そいつは魔法が使えなくとも魔除けの守りにはなる、身に着けておけばいい」
「……わかりました」
アッシュは相変わらずの無愛想なまま、「それでいい」とテオの頭をくしゃりと撫でた。
さよなら、と別れの言葉を告げて、テオはバウマンの待つ屋敷へと急ぐ。
ふと振り返ると、アッシュは腕を組んだままテオを見送っている。逡巡したものの、意を決して手を振ってみる。そうしたら、アッシュが小さく手を振り返してくれた。
何故か走らずにはいられない気分になり、抱えた紙袋を取り落とさないように気をつけながら、地面を蹴る。首に下げたチェーンが揺れるのが、くすぐったかった。