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そして異世界転生10年目。突然、押し倒されてチューされる

「はぁ……」


またか、って感じだ。


「やあ、冒険者テツト。まだ帰っていなかったのか」


「戦友と立ち話をしていたからね」


「戦友? ヴルバトラ様と? ハハッ、おもしろいことを言う」


その男、親衛隊隊長フェルマックは自らの服を引っ張って、その胸の白銀の勲章を見せつけてくる。


「赤銅の勲章を授かって調子に乗ったか? お前はただヴルバトラ様のお荷物として最前線で守られていたに過ぎない。戦友なんて言葉は、せめて何かしら戦功を立てて私のように白銀くらいの勲章を得てから言うんだな」


「あっそ」


コイツ、フェルマックは事あるごとに俺を目の敵にしてくるんだよな。それはたぶん、ヴルバトラがフェルマックたち親衛隊よりも、俺と仲良くしてることの方が多いからだろうけど。


……まあ、誰だって頼みもしないのに付きまとってくるヤツらと、自分の好きなタイミングで世間話やら馬鹿話やらができるヤツ、どっちと仲良くしたいかっていったら後者でしょ。


「じゃあ赤胴の冒険者は大人しく帰るとしますよ。じゃあな、白銀の騎士サマ」


「フンっ、せいぜい帰りがけに足腰を鍛えることだ」


「は? 足腰? ……まあ、いいや。そっちも次に戦場に出る時までに括約(かつやく)筋をしっかりと鍛えて、せっかくの白銀を茶色に染めないようにしておけよ」


「──ッ! キサマッ!」


「ははっ、じゃーなっ!」


顔を真っ赤にしたフェルマックを残して、俺は歩き出す。


……懐かしいなぁ、確かあれは開戦から3年目。伯爵家の次男で箔(はく)をつけるためにと戦場に来たフェルマックが、モンスターの軍勢に恐れをなして大便を漏らしてしまったのだ。それも二度も。


泣きながら事態を隠そうとするフェルマックのフォローをその度にしてやったのは俺なんだが、なんでこんなに敵視されてるんだろうな。弱みを握ってるからか?


「白銀の勲章を授与されるだけあって、それなりに指揮官としての才能はあると思うんだけどねぇ。性格がなぁ……」


貴族以外を見下す、事実関係を自分の都合のいいように捏造するなどなど、フェルマックは伯爵家の威厳を使ってやりたい放題なんだよな。俺も結構いろいろと嫌がらせされたし、実際にそれで鬱になって前線から退くことになってしまったヤツもいる。


……ま、いいや。嫌なことは考えないようにしよう。せっかく戦争が終わってフェルマックと離れられるんだから。しばらくは楽しい気持ちで過ごさなきゃ損だもんな!


で、元々俺が冒険者として拠点にしていた町に帰ろうと馬車の貸し出し場までやって来たわけだが、


「馬車? いや、しばらくは無いよ?」


貸し出し場の店主に「当然だろう」とばかりに言われてしまう。


「戦争が終わってみんな町に帰るのに使ってるし、お高い馬車も勇者様の親衛隊のフェルマック様が貸し切って宮廷に集めているからね」


「へっ?」


「今ごろ叙勲された人たちをそれぞれの町に送って差し上げていることだろうよ。フェルマック様はとても気の利く方だねぇ……って、アレ? アンタも胸に勲章を付けているようだが……?」


「──あ、あの野郎っ!」


フェルマックめ、『せいぜい帰りがけに足腰を鍛えることだ』ってのは、『俺だけ歩いて帰れ』ってことかよ! 陰湿すぎるぞ!


「くそっ……」


とはいえ、今さら宮廷に殴り込みに行くわけにもいかない。そんなことしたらそれこそフェルマックの思う壺だろう。


「歩いて帰るか……」


俺は徴兵時の(それほど多くもない)給与の中から野営道具を一式買い揃えると、宮廷のそびえるその帝都を出た。




 * * *




地平線が見える平野を、拠点の町に向けて歩く。いくら歩いても景色が変わらない。ただ、陽だけがだんだんと暮れて落ちていく。


「……あ、そういえば俺、今日でこの世界に来てちょうど10年じゃね?」


星を見ながら歩いている最中、今さら気が付く。


「なんちゅー節目の迎え方だよ」


最初はただ女の子にモテたい、その一心での転生だった。しかしそうして手に入れたスキルは不発。っていうか誤発。ロリにしかモテない人生の幕開けだった。しかし、そんな中でいろんな出会いもあり、冒険者としても比較的成功し、割とこの異世界ファンタジー世界を楽しく今日まで過ごしてはきたと、そう思う。


……でも。


「やっぱり、女の子にモテたかったよな……」


ボソリ、とそう呟いた時だった。


──ビュオンッ!


俺の横を一陣の風が吹き抜けた。


「なんだ……!?」


「──ご主人っ!」


「えっ……?」


突然、後ろから声がして振り返る。そこに立っていたのは、一糸まとわぬ姿の15、6歳の美少女だった。裸なのにももちろん目が行ってしまうのだが、しかしそれ以上に目を引くのはその頭についている犬耳と、フサフサの尻尾。


──フワリ。何だかとても懐かしい匂いが俺の鼻元をかすめた。


「約束通り会いに来たよ……! ご主人っ!」


「君は……」


まさか、とは思う。目の前にいるのはほとんど人間の姿をした女の子だ。でも、それでも……俺の脳裏に思い描かれたのは10年前、罠にかかって動けなくなっていたところを俺が助け、そして2週間の日々を共に過ごした子犬。


「シバ……シバなのかっ!?」


「わんっ! 会いたかったよぅ! ご主人っ!」


「うわっ!?」


その少女が勢いよく飛びついてきて、俺は平原のど真ん中へと倒れ込んでしまう。フワリと香るその優しい匂いと温もりは間違いない。柴犬のシバだ。


「ご主人ご主人っ!」


「ちょっ、シバ……! いったいなんで……!?」


「言ったでしょっ? ボク、いつか必ずまた会いに来るって!」


「え、えぇっ!?」


言ったも何も、あの時の子犬のシバは言葉なんて喋れなかったはずだろうに。ていうか、子犬じゃなくなったからって普通は言葉も話さなければ美少女にだってなるはずもないんだけどなっ!?


「見て見て! ボクもすっかり大人になったんだよっ!」


「あ、ああ……! そうみたい、だな」


「でしょっ? だからね、ご主人。ボクと結婚しようっ?」


「んむっ!?」


馬乗りになられたまま、唐突に。俺の初チューはシバにもぎ取られる。




──異世界に来てちょうど10年目。後から思い返せば、この瞬間から俺の非モテ人生は180度の転回を迎えることになったのだ。

このエピソードで1章は終わりです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


もしこの作品を、


「おもしろいかも?」


「続きも気になる!」


など思ってくださいましたら、ブックマークと、ページ下部の☆を押しての評価ポイントをいただけると励みになりますので、ぜひよろしくお願いいたします!


続きはまた明日の朝7時に更新します。

明日からは毎日1話か2話ずつくらい更新していくので、これからもよろしくお願いいたします!


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