表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

第6話 拓也の親友

 拓也と春菜は、いつものように並んでバスへと乗り込んだ。


 車内はすでに通勤客と通学生で埋め尽くされ、立っているだけでも精一杯なほどの混雑ぶりだった。押し合う人の波に揺られながら、二人はなんとか足場を確保する。


 学校まではわずか一〇分ほどだが、そう分かっていてもこの窮屈さは決して楽なものではない。


 ふと、拓也はすぐ隣に立つ春菜へと視線を向けた。


 彼女は吊り革につかまりながら、どこか息苦しそうに小さく肩で呼吸をしている。


「春菜、大丈夫か?」


 声を潜めて問いかける。


「うん……平気だよ……」


 そう答えながらも、春菜の頬はほんのり赤い。


「だって……拓ちゃんが傍にいるんだもん」


 その一言に、拓也の思考が一瞬止まる。


「あ、そ、そっか……。それなら、いいんだ」


 ぎこちなく返しながら、視線を逸らした。


 朝のバスのざわめきの中で、二人の間だけがどこか不自然に静かだった。先ほどから続く、言葉にしきれない距離感が、そのまま空気に滲んでいる。


 やがてバスは目的の停留所に到着し、人の流れに押し出されるようにして二人は外へ出た。


 目の前には、「私立南茶羅学園しりつなんちゃらがくえん」と刻まれた大きな校門がそびえている。


 門をくぐり、並んで校舎へと向かう。階段を上り、廊下を抜け、二人は二年B組の教室へと入った。


 拓也はいつものように窓際、一番後ろの席へ。春菜は教室中央、前から二番目の席へと腰を下ろす。


「拓也、おはよう」


 声をかけてきたのは、目の前の席に座る神崎清彦かんざききよひこだった。くるりと振り返り、にやりと笑う。


「今日も春菜ちゃんと一緒に登校か。ほんと羨ましいよね」


 清彦は、真面目で人のいい性格をしているが、嘘がとことん苦手だ。勉強の成績は拓也といい勝負だが、小学校の頃からの付き合いで、気を許せる数少ない親友の一人だった。


「まあな。俺と春菜は、昔から家が隣同士の幼馴染だから」


 肩をすくめて答えると、


「いいなあ……幼馴染。僕にもそんな子がいたらなあ」


 清彦は心底羨ましそうにため息をついた。


「そうか?」


 あまり実感のない様子で返す拓也に、清彦は呆れたように眉をひそめる。


「本当に拓也は、何も分かってないよね」


「何がだよ」


「春菜ちゃん、学年の男子の中で一番人気なんだよ?」


「……は?」


 思わず間の抜けた声が出た。


「だからさ、うかうかしてるとさ。他の男子に取られちゃうかもしれないってこと」


 その言葉に、拓也は一瞬だけ視線を春菜の方へ向ける。


 前の席で、何事もないように友達と話しているその横顔は、確かに目を引く柔らかさを持っていた。


「いや、俺は別に春菜のことは――」


 言いかけた、その時。


 ガラリ、と教室の扉が開く音が響いた。


 担任教師が教室へ入ってくる。


「はい、席につけー」


 その一声で、教室の空気が一気に引き締まる。


 拓也と清彦の会話は、そこで途切れた。


 朝のホームルームが、静かに始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ