表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

第4話 王子様のキス

 拓也は、躊躇うようにもう一度だけ冬香の寝顔を覗き込んだ。規則正しい寝息が、静かな部屋に小さく響いている。柔らかく緩んだ表情は無防備で、どこか幼さすら残していた。


 その姿に引き寄せられるように、拓也はわずかに唇を尖らせ、ゆっくりと顔を近づけていく。ほんの数センチ??触れ合う直前で、しかし彼の動きはぴたりと止まった。


 胸の奥で、何かがせめぎ合っていた。してはいけないという理性と、抑えきれない衝動。その狭間で、時間さえ凍りついたかのように、拓也は動けずにいた。


「兄さん、顔が近い……」


 かすれた声が、不意に静寂を破る。


 今日は珍しく、拓也に起こされる前に、冬香は自分で目を覚ましていた。


「あっ、ご、ごめん! い、いや、その……今ちょうど声をかけようと思ってて……!」


 慌てて身を引く拓也。その動きはあまりにも露骨で、言い訳の拙さを自ら証明しているようだった。


「嘘……。今、わたしにキスしようとした……」


 冬香はじっと彼を見つめる。その視線から逃げるように、拓也の目が泳ぐ。


「ば、馬鹿だな! そ、そんなこと、この俺が可愛い妹にするわけないだろ。あはは……」


 乾いた笑いは、空しく部屋に響くだけだった。


 やがて、観念したように拓也は深く息をつき、その場に崩れるように膝をつく。


「……ごめんなさい。確かに俺は、冬香にキスをしようとしました」


 素直すぎるほどの告白とともに、額が床に触れる。


「兄さんの……変態……」


 ぽつりと落とされたその一言は、思いのほか鋭く拓也の胸に刺さった。


 彼は大きく肩を落とし、言葉を失う。


「兄さん……どうしたの?」


 うなだれる背中を見て、冬香の声が少しだけ不安げに揺れる。


「いや……何でもないよ。朝飯、もうできてるから。着替えたら下に来いよ」


 振り返らずにそう言い残し、拓也は静かに部屋を後にした。


 その背中はどこか小さく、いつもより少しだけ遠く感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ