第3話 眠れる森のお姫様
二階へ上がった拓也は、足を止めた。目の前にあるのは、冬香の部屋――と言っても、双子である夏香と同室のため、正確には二人の部屋だ。
軽く扉をノックし、返事がないことを確認してから、そっと中へ入る。
部屋の中は、柔らかな色合いのぬいぐるみや小物に囲まれ、いかにも女の子らしい空間だった。本棚には本が整然と並び、床には塵ひとつ落ちていない。几帳面な空気が隅々まで行き届いている。
これが夏香一人の部屋だったら、どうなっていたことやら。
そんなことを思い、拓也は苦笑する。
二人は二段ベッドを使っており、冬香は下の段で眠っていた。拓也は静かに歩み寄り、ベッドの脇に立つと、その寝顔をそっと覗き込む。
「……こうして見ると、まるで眠れる森の美女だな」
思わず、声が漏れた。
長いストレートの髪は腰のあたりまで流れ、白い頬に影を落としている。規則正しく繰り返される寝息は穏やかで、まるで時間が止まっているかのようだった。
冬香は大人しく、読書を好む知的な少女で、運動は苦手。対照的に、ショートヘアで活発な夏香はスポーツ万能――同じ顔立ちを持ちながら、その性格は驚くほど対照的だ。
「気持ちよさそうに寝てるな……」
拓也はしばらく、何も言わずにその寝顔を見つめていた。
だが、ふとある考えが頭をよぎる。
「眠れる森のお姫様は……王子様のキスで目を覚ます、だったよな」
ぽつり、と呟く。
冬香は低血圧で、朝は何度呼びかけてもなかなか起きない。ならば――と、妙な発想が芽を出す。
「ってことは……。俺がキスすれば、起きる可能性も……?」
腕を組み、真剣な顔で考え込む拓也。
やがて、何かに納得したように小さく頷き、ぱん、と手を打った。
「……いや、ありえるぞ」
その瞳は、妙な確信に満ちて、きらりと光っていた。




