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第23話 真実

 冬香に、嘘がばれてしまった。その事実が、頭の中で何度も反響する。


 どうする。どうする、俺……。


 思考は空回りするばかりで、まともな案などひとつも浮かばない。胸の奥で焦りが膨れ上がり、呼吸さえ浅くなる。


 とはいえ、このまま黙っているわけにもいかない。


 逃げ場はない。ならば――


 せめて、うまく誤魔化すしかない。


「ふ、冬香……?」


 喉がひどく渇いて、声がかすれる。


「何?」


 返ってきた声は、驚くほど平坦だった。感情の揺れが、ほとんど感じられない。


「お、俺が嘘をついてるなんて……そ、そんなはずないだろ? 俺は、嘘なんて……。その……言ってない。そ、それに……な、なんで、そう思うんだ?」


 言いながら、自分でもわかる。ひどく不自然だ。


 だが、冬香が「嘘だ」と断じた以上、そこには必ず理由があるはずだ。まずは、それを聞き出さなければ。


 わずかな沈黙のあと、冬香はぽつりと呟いた。


「兄さんの部屋から……夏香の声が……聞こえたの……」


「え……?」


 鼓動が一気に跳ね上がる。


「俺の部屋から……夏香の声が……?」


「うん……」


「そ、それで……何て、聞こえたんだ?」


 祈るような気持ちで問いかける。


 冬香は少しだけ間を置いてから、抑揚のない声で――まるで台詞を読み上げるように言った。


「もう……いきなり何すんのよバカァ……本当にエロ兄貴なんだから……もう最低……」


 終わった。


 その瞬間、頭の中で何かが弾けた。


 うぎゃあああああああああ!!


 叫びは、声にならず胸の内で暴れ回る。


 最悪だ……。


 よりにもよって……。


 あの言葉を聞かれていたなんてえええ!


 冷や汗が背中を伝い、視線を上げることすらできない。俺はただ、俯いたまま固まるしかなかった。


「……ねえ、兄さん?」


「ひゃ、ひゃいっ!」


 情けない声が飛び出す。


「何で夏香が……兄さんの部屋で……あんな事を言ったの?」


「あっ……そ、それは……えっと……」


 言葉が出てこない。喉の奥で絡まるだけだ。


「兄さん……答えて」


 静かな声音なのに、逃げ道を塞ぐような重さがある。


 どうする?


 どうすればいい?


 誤魔化す? 


 いや、もう無理だ。ここまで追い詰められて、取り繕えるはずがない。


「兄さん……正直に答えて……」


 そして、決定的な一言が落ちる。


「そうじゃないと……。私は兄さんのこと……嫌いになる……」


 その言葉は、鋭く胸に突き刺さった。


 ああ、もう駄目だ。


 ここまで来たら、選べる道は一つしかない。


 嘘を重ねて嫌われるくらいなら、正直に話して、それで嫌われた方がいい。


 俺は、顔を上げた。


 真っ直ぐにこちらを見つめる冬香の瞳から、逃げずに。


 そして、あの夜に起きた出来事を――夏香とのことを、すべて話した。


 言い終えたとき、胸の奥にあった重石が、少しだけ軽くなった気がした。


「……ごめんな、冬香」


 絞り出すように言葉を紡ぐ。


「前に約束したのに……俺、破っちまった。本当に、ごめん……」


 それ以上は、何も言えなかった。


 ただ、裁きを待つように――静かに、冬香の返事を待つしかなかった。


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