異世界より君臨せし魔王
あの日、我は全てを失った。
地位も名誉も仲間や力さえも忌まわしき勇者に奪われた。
一瞬の隙を突き、なんとか別次元へと逃げこんだが精魂尽き果てその場で気絶してしまった。
目が覚めると、我はベッドの上で寝かされていた。
(な、なんだこのベッドは…身体が沈む…まるで呑み込まれるようだ…)
どうやら何者かに匿われたらしい。
この魔王が匿われるなど、と文句を言う気力もない。
なんと情けない事か。
(しかし何処かも知れぬ場所に長居をしても仕方がない、やがて追手が来るだろう…)
軋む身体をなんとか起こす。
やれやれとんだ非力になってしまった事か。
(あぁ…腕もこんなに細くなっ…て…)
ふと視界に鏡が写り、その中に居る我の姿が見えた。
思わず目を見開いた。
「な、なんじゃあ!?こりゃあ!?」
まるで別人、もはや原型すら残っていない。
ドカドカとだれかの走る足音がする。
「な、なんだ!どうした!?」
短髪の容姿の整った男が部屋に入ってきた。
「ば…バカな…ありえない…!これではまるでサキュバスの幼体じゃないか!」
「はぁ?急にデカイ声だして見に来たら、何を言ってるんだお前は」
「おい人間!これはどういう事だ!説明しろ!」
何やら人間は怪訝な表情をしている。
「はぁ…またえらい変なの拾っちまったなぁ…」
そう言うと人間はその場に座り込んだ。
「変なのとはなんだ!我は魔王であるぞ!今…は力を失いこのような場に居るが力を取り戻したあかつきには…!」
「はいはい、わかったから…名前と年齢は?パパかママの連絡先わかる?」
人間は哀れむような目で我をみている。
「だから魔王だと言ってるだろう!齢などとうに2000は越えとるわ!それに我は邪悪、混沌より生まれし存在である!」
「うんうん、良いキャラ作りだね~」
(こ、こやつめあくまでも我を愚弄する気か…)
この人間の言う事はあまり理解出来ぬがバカにしている事だけはわかる。
「ふっ、弱体化したとは言え所詮は人間程度…そのハラワタ、えぐりとってやる!」
渾身の力を込めて、人間の腹部に突きをくりだす。
が、
ゴキッ、っと骨の音が鳴り我は膝をつく。
「ば、ばかな…アダマンタイトの鎧だと…?」
「バカはお前だよ、ガキにやられる程やわじゃねーんだよ。」
「くっ…こうなったら仕方ない!魔法で…!」
身体中の神経を集中させて魔力を放つ。
が、
人間の前髪が軽く揺れるだけのそよ風しか出ない。
「…無念、ひとおもいにやるがよい。」
(よもや逃げこんだ別次元の人間がこれほどまで屈強で、我がこれほどまで無力になったとは。)
こうなってしまった以上、もう諦める他ない。
「お前はさっきから何をやってるんだ?」
「ええい!さっさとやれ!情け無用!」
「うーん…あぁ、そうだ!ほらこれ」
人間は我に黒い塊を差し出した。
「な、なんだこれは…まさか毒!?己の手を汚さずに自害させる…だと…」
「はぁ!?チョコだよチョコ、知らねぇのかよ。」
「知らん!そんなもの!だが良いだろう、敵の手にかけられるより自害するほうがよっぽど魔王らしい!」
我は黒い塊を口に含んだ。
「な、なんじゃあ!?こりゃあ!!」
口いっぱいに広がる甘味、色々な物を口にしてきたが今までこれほどの物は食べたことがない。
「ははっ、幸せそうな顔しやがって…やっぱただのガキじゃねぇか」
「くっ…また我をバカにしよって…だが今は聞かなかった事にしてやる!」
「はいはい…食い終わったら話、聞かせろよな」
こうして我は、異世界に降り立ちまもなく人間に籠絡されてしまった。
そしてこの出会いが、我の新しい人生(?)の第一歩となるのだった。




