第5話 新たな目的地と知の探究
リーフ村での一件は、シリルにとって大きな自信となった。
彼女の錬金術は、戦闘では役に立たなくとも、現実の生活において人々を救い、確かな報酬と信頼をもたらす。ルシウスの評価など、取るに足らないものだと改めて確信した。
村長をはじめとする村人たちは、シリルとジンを心から感謝と尊敬の目で送り出した。
「お嬢さん、貴方のおかげで、来年以降も安心して暮らせる。本当にありがとう」
シリルは、村から受け取った報酬の中から、ジンに新しい服と、少し高価なナイフを贈った。
「ジン。あなたは頭の回転が速く、動物の言葉が分かる貴重な才能を持っているわ。この旅で、あなたの才能を磨きなさい。そして、私に必要な素材を見つけてちょうだい」
ジンは目を輝かせた。
「はい!シリル姉さん。僕、姉さんの助手になります!馬車の整備も、素材探しも、何でもやるよ!」
ジンは正式にシリルに弟子入りし、二人は真の旅の相棒となった。
アイアン・クロフト号の内部で、シリルは次の目的地を示す地図を広げた。
「次の目的地は、北の山脈にある鉱山の街『イグニス』よ。リーフ村の土壌の病、そして王都で頻発しているらしい原因不明のトラブル……それらは、古代の錬金術、あるいは「大地の知識」の喪失と関連しているかもしれない」
シリルは、ルテニウムとモリブデンの欠乏が、自然発生したものではない可能性を感じていた。太古の昔、誰かが大規模な錬金術実験を行った痕跡、あるいは、何らかの理由で特定の元素が極端に偏って存在する場所があるのかもしれない。
彼女の旅の目的は、追放された屈辱を晴らすことではない。王国の小さな枠を超えて、この世界の裏に隠された「大地の知識」と、古代錬金術師たちの叡智を探求すること。そして、その知識を使って、自分とジンが自由に生きていくための「土台」を築くことだ。
シリルは受け取った報酬の中から、特に光を放つ珍しい鉱物素材を手に取った。これはイグニスでしか手に入らないと言われる、複雑な金属合金だった。
「イグニスでは、この鉱山で起こる、誰も解決できない『鉱毒』の問題に挑戦しようと思っているの」
「鉱毒?姉さん、また大変なことになりそうだよ」
「ええ、でもそれが面白いのよ、ジン。従来の魔法では、毒を浄化するか、その場を封鎖するしかない。けれど錬金術なら、毒の構成元素を理解し、無害な物質へと『転換』できる。そのための知識が、きっとイグニスにあるわ」
シリルは再びアイアン・クロフト号の運転席に座り、魔導炉を起動させた。静かに、しかし力強く、馬車全体が振動する。
ジンは窓から外を眺め、手を振る村人たちに満面の笑みで応えた。
「シリル姉さん!次の街でも、面白い錬金術と、美味しいご飯と、それから…自由を見つける旅を続けよう!」
「ええ、もちろんよ」
シリルは静かに頷き、手綱を引いた。魔導キャンピング馬車「アイアン・クロフト号」は、ゴォという低い駆動音を響かせながら、次の目的地、北の山脈へと続く街道を走り始めた。
追放令嬢の新たな錬金術の旅は、始まったばかりだ。




