第八十八章:グールの忌避される食性
カラン——
相談所のドアがギィ……と重く軋んだ。
「……ここが仕事を探せる場所か?」
低くしゃがれた声が響いた。
誠が顔を上げると、そこには痩せこけた灰色の肌を持つ男が立っていた。指は長く、爪は鋭く、目の下には深いくぼみがある。
れながノートを開く。
「……グールですね?」
「ああ。」
「お名前は?」
「ヴォルドだ。」
「ヴォルドさんですね。それで、本日はどんなご相談でしょう?」
ヴォルドは、少し気まずそうに口元をぬぐった。
「……俺は、死体を食べる。」
誠とれなが顔を見合わせる。
「死体を?」
「ああ……それがグールという種族の本能だ。だが、この時代、そんな習性を持つ者は社会に受け入れられない。人間は俺を恐れ、嫌悪し、排除しようとする。」
ヴォルドは細長い指を組みながら、苦々しく笑った。
「俺はこのまま、ただの厄介者として生きるしかないのか? それとも、この忌まわしき力を活かせる道があるのか?」
れなが頷く。
「つまり、死体を扱う仕事を探しているってことですね?」
「ああ。しかし、そんなものがあるのか?」
誠がニヤリと笑った。
「あるじゃねぇか、ぴったりの仕事が!」
ヴォルドが興味を示すように、骨ばった顔を上げる。
「……何だ?」
「法医学者になれ!」
ヴォルドの濁った目がわずかに輝く。
「法医学者?」
れなが頷く。
「ヴォルドさんの死体に関する知識と、細かい部分まで見極める能力があれば、法医学の専門家として活躍できるわ! 事件の真相を解き明かすために、あなたの力が必要になるはず!」
誠がさらに補足する。
「最近は、未解決事件の調査や犯罪科学の進歩が求められてるしな。お前がやれば、『死体の声を聞く者』として、名探偵顔負けの活躍ができるぞ!」
ヴォルドはしばらく考え込んだ。そして、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「……なるほど、それは確かに俺にしかできない仕事かもしれんな。」
そして、長い指を口元に当てながら、深く頷いた。
「よし、俺は法医学者になる!」
結果:グールの新たな道
数ヶ月後——
ヴォルドは、「死者の証言」という名の法医学研究所を立ち上げ、数々の未解決事件の鑑定を行う仕事を始めた。
彼の鋭い観察眼と、死体の状態を見ただけで過去の出来事を読み解く能力は「死者の探偵」として大きな注目を集め、警察や捜査機関からの依頼が絶えなくなった。
「俺の本能は、ただの呪いじゃなかった。今は、死者の声を聞き、真実を明らかにするためにある。」
届いた手紙には、そんな言葉が書かれていた。
「さて、次はどんなモンスターが来るかな?」
相談所のドアが、再び静かに開かれる——。★




