第八十五章:スペクトラルウルフの存在しない悩み
カラン——
……ドアが開く音はしなかった。
だが、冷たい風が室内を駆け抜けた。
「……ここが仕事を探せる場所か?」
誠が顔を上げると、透明な狼の姿がそこにいた。半透明な体は揺らめき、床に影すら落としていない。
れながノートを開く。
「……スペクトラルウルフですね?」
「ああ。」
「お名前は?」
「フェンリスだ。」
「フェンリスさんですね。それで、本日はどんなご相談でしょう?」
フェンリスは、幽霊のような体をゆらめかせながら、静かにため息をついた。
「……俺は、物理的に存在しない。」
誠とれなが顔を見合わせる。
「存在しない?」
「ああ……俺は霊体だから、物を掴むことも、誰かに触れることもできない。この世界にいながら、何の影響も与えられないんだ。」
フェンリスはしなやかな体を伏せ、宙を漂うように揺れた。
「俺はこのまま、ただの亡霊として消えていくしかないのか? それとも、俺にできることがあるのか?」
れなが頷く。
「つまり、霊体のままでも活躍できる仕事を探しているってことですね?」
「ああ。しかし、そんなものがあるのか?」
誠がニヤリと笑った。
「あるじゃねぇか、ぴったりの仕事が!」
フェンリスが興味を示すように、青白い目を光らせた。
「……何だ?」
「オカルト系のリポーターになれ!」
フェンリスの霊体がわずかに揺らぐ。
「オカルトリポーター?」
れなが頷く。
「フェンリスさんの幽霊としての存在を活かせば、心霊スポットや超常現象をリアルにリポートする仕事ができるわ! しかも、あなた自身が霊だから、どこよりも本物のレポートができる!」
誠がさらに補足する。
「最近は、心霊ドキュメンタリーや超常現象の研究が人気だしな。お前がやれば、『実際の霊が案内する心霊レポート』として注目されること間違いなしだ!」
フェンリスはしばらく考え込んだ。そして、ゆっくりと微笑んだ——いや、空気がわずかに揺らぎ、満足げな気配が漂った。
「……なるほど、それは確かに俺にしかできない仕事かもしれんな。」
そして、柔らかく尾を揺らした。
「よし、俺はオカルトリポーターになる!」
結果:スペクトラルウルフの新たな道
数ヶ月後——
フェンリスは、「スペクトラル・リポート」というチャンネルを開設し、心霊スポットや超常現象の調査を行うリポーターとなった。
彼の番組は「本物の幽霊が語る心霊レポート」として爆発的な人気を博し、ホラーファンやオカルトマニアの間で話題となった。
「俺の存在は、ただの亡霊じゃなかった。今は、人々に未知の世界を伝えるためにある。」
届いた手紙には、そんな言葉が書かれていた。
「さて、次はどんなモンスターが来るかな?」
相談所のドアが、再び静かに開かれる——。★




