第七十二章:ゴーストの存在しない悩み
カラン——
……いや、ドアは開かなかった。
それでも、確かに誰かが入ってきた気配がする。
「……ここが仕事を探せる場所か?」
かすれた声が、部屋の中に響いた。
誠が顔を上げると、そこには誰もいなかった。
れながノートを開く。
「……ゴーストですね?」
「……ああ。」
「お名前は?」
「フェイドだ。」
「フェイドさんですね。それで、本日はどんなご相談でしょう?」
フェイドは静かにため息をついた。
「……俺は、存在がない。」
誠とれなが顔を見合わせる。
「存在がない?」
「ああ……俺は幽霊だ。物理的な体を持たないし、人間には気づかれない。かつては恐れられていたが、今の人間たちはホラー映画や都市伝説のせいで、幽霊なんてただの娯楽の一つになってしまった。」
フェイドは椅子に座ろうとしたが、当然のようにそのまま空をすり抜けた。
「……俺はこのまま、誰にも気づかれずに漂い続けるしかないのか?」
れなが頷く。
「つまり、幽霊としてでも社会に貢献できる仕事を探しているってことですね?」
「ああ。しかし、そんなものがあるのか?」
誠がニヤリと笑った。
「あるじゃねぇか、ぴったりの仕事が!」
フェイドが興味を示すように、ぼんやりと光る姿を揺らした。
「……何だ?」
「ホラー系YouTuberになれ!」
フェイドの目がわずかに光る。
「ホラー……YouTuber?」
れなが頷く。
「フェイドさんの幽霊としての特性を活かせば、本物の心霊現象を映すことができるわ! 最近は、心霊スポットの探索や怪奇現象の動画が大人気だから、本物の幽霊が発信するチャンネルなんて、間違いなくバズるわよ!」
誠がさらに補足する。
「最近はVRホラーとかも流行ってるしな。お前の体験談を語るだけでも、『リアル怪談』としてめちゃくちゃ人気が出るぞ!」
フェイドはしばらく考え込んだ。そして、静かに笑った。
「……なるほど、それは確かに俺にしかできない仕事かもしれんな。」
そして、ぼんやりと揺れながら力強く頷いた。
「よし、俺はホラーYouTuberになる!」
結果:ゴーストの新たな道
数ヶ月後——
フェイドは、「ゴーストの語り部」というチャンネルを開設。
彼の「本物の幽霊が語る怪談」というコンセプトは大ヒットし、登録者数は100万人を超える人気チャンネルへと成長した。
「俺の存在は、ただの漂う霊じゃなかった。今は、人々を恐怖と興奮で魅了している。」
届いた手紙には、そんな言葉が書かれていた。
「さて、次はどんなモンスターが来るかな?」
相談所のドアが、今度こそ静かに開かれる——。★




