第七章:ミノタウロスの新たな闘技場
カラン——
重々しい足音とともに、事務所のドアが開かれる。
「すまない、ここで職を探してもらえると聞いた。」
現れたのは、巨躯を誇るミノタウロスだった。隆々たる筋肉、鋭い角、そして迷宮の番人らしく堂々とした佇まい。しかし、その顔にはどこか物憂げな表情が浮かんでいる。
「おぉ、またとんでもねぇのが来たな。」
誠が腕を組みながらミノタウロスを見上げる。
れなは冷静にノートを開く。
「お名前は?」
「バルガスだ。」
「バルガスさんですね。それで、本日はどのようなご相談でしょう?」
バルガスは深くため息をついた。
「……俺の迷宮に、もう誰も来ない。」
誠とれなは顔を見合わせる。
「えっ、誰も来ないって……どういうこと?」
「俺はずっと、迷宮の番人として生きてきた。挑戦者がやってきて、それを迎え撃つ。それが俺の誇りだった。」
バルガスは腕を組み、悲しげに天井を見上げた。
「だが、最近は誰も来ない。今の勇者どもは、わざわざ迷宮を攻略しようとしない。遠くから魔法で敵を排除したり、ショートカットする道具を使ったり……もはや、俺の出番すらない。」
れながメモを取りながら頷く。
「なるほど……つまり、体力を活かせる仕事を探しているってことですね?」
「そうだ。」
誠がニヤリと笑う。
「あるじゃねぇか、最適な仕事が。」
「……何?」
「プロレスラーになれ!」
バルガスが目を見開く。
「プロレスラー……?」
「そうだ! お前みたいなデカくて強い奴がリングに上がったら、めちゃくちゃ盛り上がるだろ? しかも、戦う相手はお前を倒すために本気で向かってくるんだぞ。」
バルガスの目が一瞬輝く。
「……本気で向かってくる相手と戦えるのか?」
「もちろん! お前のパワーを存分に活かせるし、迷宮じゃなくても観客が大勢見てるぞ。むしろ、迷宮より盛り上がるんじゃねぇか?」
れながさらに付け加える。
「それに、プロレスってただの戦いじゃなくて、エンターテインメントでもあるのよ。技を決めたり、相手との駆け引きを楽しんだり、観客を沸かせることが大事なの。」
バルガスはしばらく考え込んだ。そして、ゆっくりと頷く。
「……やってみたい。」
誠がガッツポーズをする。
「よっしゃ! お前のリングネームは……ミノ・ザ・ブルだ!!」
結果:ミノタウロスの新たな闘技場
数ヶ月後——
バルガス改め、「ミノ・ザ・ブル」はプロレス界のスーパースターとなっていた。
彼のパワフルな投げ技、圧倒的な耐久力、そしてリング上での堂々たる姿は観客を熱狂させた。
「迷宮の番人だった頃より、今の方がずっと楽しい。俺はここで、戦い続ける。」
届いた手紙には、そう書かれていた。
「さて、次はどんなモンスターが来るかな?」
相談所のドアが、再び開かれる——。