第六章:クラーケンの器用な手先
カラン——
ドアが静かに開いた。しかし、次の相談者はなかなか姿を見せない。
「あの……ここが、モンスター向けの転職相談所で間違いないでしょうか?」
低く、どこか遠慮がちな声が聞こえた。
「ええ、そうですが……」
れなが答えた瞬間、ズルッと何かが滑り込んできた。
「うおっ!?」
誠が驚いて椅子から飛び上がる。
床を這うようにして入ってきたのは、巨大なタコのような姿のモンスター——クラーケンだった。
「でっけぇ!!」
「す、すみません……あまり大きな体で入れる場所がなくて……」
水気のある触手をもじもじと動かしながら、クラーケンは申し訳なさそうにしている。
れなが淡々とノートを開く。
「お名前は?」
「オクトラと申します。」
「オクトラさんですね。それで、本日はどのようなご相談でしょう?」
オクトラは、ため息をつくように触手をたらした。
「もう、船を沈めるのに飽きたんです。」
誠とれなは顔を見合わせる。
「飽きた?」
「ええ……私は長年、海で船を襲い続けてきました。しかし、最近の船は頑丈で、なかなか沈まない。昔は木製の船が多かったので、少し触手を絡めればすぐに折れたのですが……今は鉄でできているし、武装も強い。私の仕事はもう、時代遅れなのかもしれません。」
オクトラは悲しげに目を伏せた。
「それに……私は、壊すことより作ることが好きなんです。」
「作る?」
「はい。触手がたくさんあるので、細かい作業が得意なんです。昔、海底で沈んだ船の装飾をこっそり修理したり、貝殻を並べて模様を作ったりしていました。人間の道具を拾って組み立てるのも好きです。」
誠が興奮して叫んだ。
「それだ!! 職人になれ!!」
オクトラが目を丸くする。
「職人……?」
「お前、めちゃくちゃ器用なんだろ? だったら、その触手の器用さを活かして寿司職人になれ!」
「寿司職人……!?」
れなも検索しながら頷く。
「たしかに、寿司職人って繊細な手さばきが求められる仕事よね。しかも、オクトラさんなら何本もの触手で同時に調理できるんじゃない?」
オクトラは戸惑った表情を見せる。
「しかし……私はモンスターですし、果たして人間社会で寿司職人としてやっていけるでしょうか?」
誠は自信満々に言い放った。
「そこは心配いらねぇ! お前の実力を見せつければ、誰だって認めるさ!」
結果:クラーケンの新たな道
数ヶ月後——
オクトラは超一流の寿司職人として大成功を収めた。
その店の名は——「海神寿司」。
彼の握る寿司は、一瞬でネタとシャリが絶妙に融合し、芸術的な美しさと完璧な味わいを生み出す。そのスピードとクオリティの高さから、連日予約で満席の超人気店となった。
「昔は沈めていた船の人たちに、今は寿司を振る舞っているなんて……なんだか不思議ですね。」
オクトラからの手紙には、そんな言葉が添えられていた。
「さて、次はどんなモンスターが来るかな?」
相談所のドアが、再び開かれる——。