第五章:ケルベロスの退屈
カラン——
鈍い音を立ててドアが開く。
「失礼する。」
低く響く声とともに入ってきたのは、ケルベロスだった。漆黒の毛並みに、鋭い三対の瞳。圧倒的な威圧感を放ちながらも、どこか退屈そうな雰囲気を漂わせている。
「おぉ…三つ首の番犬、来たな。」
誠が興奮気味にケルベロスを見上げる。
れなは淡々とノートを開いた。
「お名前は?」
「ガルムだ。」
「ガルムさんですね。それで、本日はどんなご相談でしょう?」
ガルムは少し黙った後、ため息混じりに言った。
「……退屈なんだ。」
「退屈?」
れなが首を傾げる。
「ああ。俺は長年、冥界の門番をしてきた。亡者が勝手に外へ出てこないように、ただ立ち続ける仕事だ。」
ガルムは肩をすくめた。
「昔はまだやりがいがあった。門を突破しようとする輩がいれば、容赦なく噛み砕く。しかし……最近は誰も突破しようとしない。みんなルールを守るようになった。」
「つまり……番犬としての仕事がない?」
「そうだ。」
三つの首が同時に頷く。
「門番としての使命はまだあるが、俺はもっと動き回れる仕事がしたい。」
誠は腕を組んで考え込む。
「ふむ…体力があって、警戒心が強くて、見張るのが得意……」
れながメモを取りながら呟く。
「この条件なら……警察犬とか警備の仕事が向いてるんじゃない?」
ガルムの耳がピクリと動く。
「警備?」
「例えば、高級ホテルや美術館の警備。冥界の門番やってたんなら、誰よりも厳しく警戒できるでしょ?」
「なるほどな……」
ガルムは少し考え込む。
「……それなら、ちょうどいい仕事があるぞ。」
誠がニヤリと笑った。
「高級ホテルの警備主任!」
「高級ホテル?」
「そうだ。最近、超高級ホテルの『ヘブンズ・ゲート』で、警備責任者を探してるらしい。金持ちが泊まる場所だからな、警備の質が超重要だ。」
れなも検索しながら頷く。
「確かに、VIPが泊まるホテルは厳重な警備が必要みたいね。ちょっとしたトラブルも許されないから、番犬としてのスキルが活かせそう。」
「……俺に向いているかもしれない。」
ガルムは、しばらく考えた後、ゆっくりと頷いた。
「では、その職を試してみる。」
誠がガッツポーズをする。
「よっしゃ! これでお前も立派なセキュリティだ!」
結果:ケルベロスの新たな道
数ヶ月後——
高級ホテル「ヘブンズ・ゲート」の警備主任として、ガルムは活躍していた。
「お客様、このホテルの安全は私が保証します。」
三つの首で360度の警戒を怠らず、どんな侵入者も許さない。彼の圧倒的な監視能力は、VIPたちから絶大な信頼を得ていた。
「最近は、毎日刺激がある。」
届いた手紙には、そう書かれていた。
「さて、次はどんなモンスターが来るかな?」
相談所のドアが、再び開かれる——。