第四十一章:ドッペルゲンガーの自分探し
カラン——
相談所のドアが開いたが、そこには誰もいなかった。
「……?」
誠が首を傾げると、室内の空気がわずかに揺らいだ。
「ここが、転職相談所か?」
まるで何もない空間から声が響く。
誠が驚いて後ずさる。
「お、おお……透明人間か!?」
「いや、違う……。」
次の瞬間、誠と瓜二つの男が目の前に現れた。
れなが少し眉をひそめる。
「……ドッペルゲンガーですね?」
「そうだ。」
れながノートを開く。
「お名前は?」
「ファルスだ。」
「ファルスさんですね。それで、本日はどんなご相談でしょう?」
ファルスは、少し気まずそうに目を逸らした。
「……俺、自分が何者か分からないんだ。」
誠とれなが顔を見合わせる。
「何者か分からない?」
「ああ。俺は、誰にでも変身できる。 でも、そのせいで、俺自身の本当の姿がどんなものか分からなくなってしまった。」
ファルスは、軽く指を鳴らす。
すると、一瞬でれなの姿に変わった。
「こうやって、どんな姿にもなれる……でも、これが俺なのか?」
今度は誠の姿に変わる。
「誰かに成り代わることは得意だが、『俺』としての価値を見いだせない。」
ファルスは、元の姿に戻りながら、ため息をついた。
「俺は、ただ誰かの影として生き続けるしかないのか?」
れなが頷く。
「つまり、変身能力を活かしながらも、自分らしく働ける仕事を探しているってことですね?」
「ああ。でも、そんな仕事があるのか?」
誠がニヤリと笑った。
「あるじゃねぇか、ぴったりの仕事が!」
ファルスが興味を示すように顔を上げる。
「……何だ?」
「俳優になれ!」
ファルスの目が一瞬大きく開かれる。
「俳優?」
れなが頷く。
「俳優は、役になりきることが求められる職業よ。ファルスさんの変身能力があれば、どんなキャラクターにも完璧に成りきれるはず!」
誠がさらに補足する。
「しかも、お前はただ外見を変えるだけじゃなくて、声や仕草まで完璧にコピーできるんだろ? だったら、どんな俳優にもできないレベルの演技ができるぞ!」
ファルスはしばらく考え込んだ。そして、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「……なるほど、それは確かに俺にしかできない仕事かもしれないな。」
そして、力強く頷く。
「よし、俺は俳優になる!」
結果:ドッペルゲンガーの新たな道
数ヶ月後——
ファルスは、「カメレオン俳優」として映画界で大活躍することになった。
その完璧すぎる役作りと、誰にでもなれる演技力は絶賛され、「変身する天才」と評されるようになった。
「俺は、誰かの影じゃなかった。今は、この世界で唯一無二の俳優になった。」
届いた手紙には、そんな言葉が書かれていた。
「さて、次はどんなモンスターが来るかな?」
相談所のドアが、再び静かに開かれる——。★