第四章:フェニックスの悩み
カラン——
静かに鳴るドアベルの音とともに、相談所の中へと歩みを進める影があった。
「ご相談、よろしいでしょうか?」
低く落ち着いた声が響く。
そこに立っていたのは、フェニックスだった。燃えるような紅い羽毛、気品ある立ち姿。それなのに、どこか陰りのある表情を浮かべている。
「フェニックス!? すげぇな、最近うちの相談所、レベル高くね?」
誠が椅子から乗り出す。
れなが淡々とメモを開く。
「お名前は?」
「……イグナスと申します。」
「イグナスさんですね。それで、本日はどのようなご相談でしょう?」
イグナスは少し沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「死ぬことの意味が分からなくなってきました。」
誠とれなは顔を見合わせる。
「……それはまた、すごい悩みだな。」
「フェニックスは生まれながらにして不死。何度でも蘇る…それは誇りであると同時に、呪いでもあります。」
イグナスの目には、深い虚無の色が宿っていた。
「過去、私は何度も死を迎え、そして何度も生まれ変わりました。しかし……それを繰り返すうちに、終わりがないことに疲れてしまった。」
彼の声は重く、静かだった。
「死が怖いのではなく……生が続くことに意味を見出せなくなったのです。」
れながペンを止めた。
「……何か、やりたいことはあるんですか?」
「……永遠の命を活かした仕事を探したい。」
イグナスは真っ直ぐにこちらを見つめていた。
「せっかく生き続けるのなら、歴史の流れを見守るような仕事がしたいのです。」
誠は腕を組んで考え込む。
「なるほどな。永遠に生きることができるなら、過去と未来を繋ぐ仕事が向いてるってことか…」
れなも深く頷く。
「だったら……どうかな?」
れなはノートに二つの候補を書き込んだ。
「一つ目は、歴史学者。」
「歴史学者……?」
「イグナスさんは、何百年も生きてるんでしょう? だったら、本で読むより実際に見てきた歴史を語ることができる。これはすごい強みになると思います。」
イグナスは少し考えた後、もう一つの候補を促した。
「……二つ目は?」
「古書修復師。」
誠が横から付け加える。
「長い年月を経た書物は、どうしても劣化する。でも、お前なら炎を操れるから、適切な温度管理ができるんじゃねぇか? しかも、昔の文字や言葉をそのまま知ってるなら、失われた書物の修復にめちゃくちゃ向いてる。」
イグナスは、しばらく黙ったまま天井を見上げた。そして、しばらく考えた後、静かに口を開いた。
「……素晴らしい提案だと思います。」
そして、はっきりと頷く。
「私は歴史を研究し、そして過去の書物を修復する道を選びます。」
れなが満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、紹介できるところを探してみますね。」
誠もニヤリと笑う。
「お前の目で見てきた歴史を、世に残してやれ!」
イグナスの瞳に、初めて小さな光が宿った。
結果:フェニックスの新たな道
数ヶ月後——
イグナスは、歴史学者兼、古書修復の専門家として名を馳せることになった。
彼の知識は圧倒的で、失われた歴史の数々を語る姿に、多くの人が耳を傾けた。
「歴史を記録することは、ある意味、永遠を生きることと同じだと気付きました。」
彼からの手紙には、そんな言葉が添えられていた。
誠とれなは、それを見て微笑み合う。
「さて、次はどんなモンスターが来るかな?」
相談所のドアが、再び開かれる——。