第二十六章:トンベリのゆっくりすぎる悩み
カラン——
ドアが、ゆっくりと開いた。
「……ここが、仕事を探せる場所……ですか?」
入ってきたのは、トンベリだった。
ずる……ずる……と、一歩進むたびに長い時間がかかる。その動きは驚くほど遅い。
「おお……トンベリか!」
誠が驚きながら、じっと動きを見守る。
れながノートを開く。
「お名前は?」
「コヨ……です。」
れなが彼の動きに合わせ、ゆっくりとメモを取る。
「コヨさんですね。それで、本日はどんなご相談でしょう?」
コヨは、一瞬だけ沈黙する。
そして、ものすごく時間をかけてため息をついた。
「……僕……動きが……遅すぎて……どこでも……働けない……んです……。」
誠とれなが顔を見合わせる。
「遅すぎる?」
「はい……。どこで働こうとしても、動作が遅すぎるって言われてしまうんです……。飲食店では、料理を運ぶのが遅すぎてクビになり……工場では、効率が悪いと言われ……気づけば、仕事が見つからなくなっていました……。」
れなが頷く。
「つまり、スピードを求められない仕事を探しているってことですね?」
コヨがゆっくりと頷く。
「……はい。」
誠がニヤリと笑った。
「あるじゃねぇか、ぴったりの仕事が!」
コヨが驚いたように、ゆっくりと顔を上げる。
「……何……でしょう……?」
「高級料理店の板前になれ!」
コヨが目を瞬かせる。
「……料理……ですか……?」
れなが頷く。
「最近、スローフードが流行っているのを知っていますか? 速さを求めるのではなく、じっくり時間をかけて仕上げる料理が人気なの。コヨさんのゆっくりな動作なら、丁寧で繊細な料理を作るのに向いてるはずよ。」
誠がさらに補足する。
「しかも、お前の慎重な動きなら、ミスが少なくて完璧な料理を仕上げられる! 高級料亭や伝統的な和食の店なら、お前のスローペースがむしろ武器になるぞ!」
コヨはしばらく考え込んだ。そして、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「……そんな……仕事が……あるなんて……考えたことも……なかったです……。」
そして、力強く(ゆっくりと)頷く。
「……やってみます。」
結果:トンベリの新たな道
数ヶ月後——
コヨは、高級料亭「トンベリ庵」の板前として働くことになった。
彼のじっくり仕込まれた料理は「深い味わい」と評判を呼び、多くの食通たちを魅了した。
「僕は……僕のペースで……仕事をすることが……できるんですね……。」
届いた手紙には、そんな言葉が書かれていた。
「さて、次はどんなモンスターが来るかな?」
相談所のドアが、ゆっくりと開かれる——。★