第十五章:リッチの孤独な不死
カラン——
ドアがゆっくりと開く。
「……ここが、モンスターの転職相談所か?」
低く響く、落ち着いた声。室内に入ってきたのは、リッチだった。
暗いローブをまとい、骸骨の顔に青白い魔力の光を灯すその姿は、まさに不死の魔術師の風格を漂わせていた。しかし、その雰囲気とは裏腹に、どこか物憂げな表情をしている。
「おお……ついにリッチまで来たか。」
誠が腕を組みながら感心する。
れなが淡々とノートを開く。
「お名前は?」
「ヴァルサスだ。」
「ヴァルサスさんですね。それで、本日はどんなご相談でしょう?」
ヴァルサスはゆっくりと椅子に腰を下ろし、ため息をつく。
「……私は、孤独に耐えられなくなった。」
誠とれなが顔を見合わせる。
「孤独?」
「ああ。私はかつて偉大な魔術師だった。より強大な知識を求め、不死の存在となり……それから数百年が経った。」
ヴァルサスの青白い目が虚空を見つめる。
「しかし……気づけば、私の周りには誰もいなくなった。 弟子たちは皆、寿命を迎え、かつての知り合いも消えていった。私だけが、永遠の時を生きている。」
れながペンを止める。
「……つまり、人と関わる仕事がしたいってことですね?」
ヴァルサスは静かに頷いた。
「私は知識を持っている。魔法、歴史、哲学……だが、それを誰に伝えることもなく、ただ過去の記憶を反芻するだけの存在になってしまった。誰かに知識を分け与える仕事がしたい。」
誠がニヤリと笑った。
「あるじゃねぇか、ぴったりの仕事が!」
ヴァルサスが目を細める。
「……何だ?」
「教師になれ!」
ヴァルサスは一瞬、言葉を失う。
「……教師?」
れなが頷く。
「そう。リッチの知識量は膨大よね? だったら、それを若い世代に伝えるのがいいんじゃない?」
誠がさらに付け加える。
「しかも、お前は不死なんだろ? 長く教えられるし、過去の歴史を実際に見てきた教師なんて、生徒たちにとっては最高の学びになるぞ!」
ヴァルサスはしばらく沈黙した。
「……考えたこともなかった。」
しかし、その沈黙の後、彼の青白い目にかすかな希望の光が宿る。
「私の知識が、誰かの役に立つのなら……それは素晴らしいことだ。」
そして、静かに頷いた。
「……やってみよう。」
結果:リッチの新たな道
数ヶ月後——
ヴァルサスは、魔法学校の教師として活躍することになった。
「リッチ先生」の異名で親しまれ、彼の授業は魔法理論だけでなく、実際に体験してきた歴史談話も織り交ぜた、圧倒的な説得力を持つ講義として大人気となった。
「私はもう孤独ではない。知識を受け継ぐ者たちがいる限り、私は永遠に生き続けられる。」
届いた手紙には、そんな言葉が書かれていた。
「さて、次はどんなモンスターが来るかな?」
相談所のドアが、再び開かれる——。