第十章:キマイラの多才な悩み
カラン——
相談所のドアが開いた。
「ここが……転職相談所か?」
低く、少し困ったような声。入ってきたのは、キマイラだった。
獅子の顔に、山羊の角、蛇の尾。三つの異なる生物の特徴を持つその姿は、どこかまとまりがないようにも見える。
「おぉ……またすごいのが来たな。」
誠が目を輝かせる。
れなが落ち着いてメモを開く。
「お名前は?」
「レオーンだ。」
「レオーンさんですね。それで、本日はどのようなご相談でしょう?」
レオーンは少し戸惑った表情を見せながら、ため息をついた。
「……俺は、何をすればいいのか分からない。」
誠とれなは顔を見合わせる。
「えっ、どういうこと?」
「俺は、複数の動物の力を持っている。でも、それが逆に問題なんだ。」
レオーンは苦笑いを浮かべながら続けた。
「例えば、ライオンの力は戦闘向きだが、戦う仕事には興味がない。ヤギの柔軟さは器用な作業に活かせるが、職人的な仕事がしたいわけでもない。蛇の尾は俊敏な動きを可能にするが、素早さを活かしたいわけでもない。」
「つまり……才能がありすぎて、適職が分からない?」
「そうだ。」
誠は腕を組んで考え込む。
「贅沢な悩みだなぁ……」
れなが何かを思いついたように、ゆっくりと口を開く。
「だったら……ショービジネスの世界に行くのはどうですか?」
レオーンの目が驚きに見開かれる。
「ショービジネス?」
「例えば、サーカスとか。キマイラなら、空を飛び、火を吹き、猛獣のように咆哮し、しなやかな動きを見せられる。これって、お客さんを魅了するパフォーマンスにぴったりじゃない?」
誠がさらに続ける。
「お前の複数の才能を活かせる場、それがエンターテインメントだ! どうせなら、観客の前で大暴れしてみろよ!」
レオーンはしばらく考え込んだ。そして、ゆっくりと頷いた。
「……確かに、それなら俺の能力を全部活かせるかもしれない。」
そして、力強く拳を握る。
「よし、俺はショービジネスの世界で生きてみる!」
結果:キマイラの新たな道
数ヶ月後——
レオーンは、サーカスのスターとして活躍することとなった。
空を舞い、火を吹き、圧倒的なパフォーマンスで観客を魅了する。彼のショーは世界中で話題になり、多くのファンを獲得していた。
「俺はようやく、自分の全てを活かせる仕事に出会えた。」
手紙には、そう書かれていた。
「さて、次はどんなモンスターが来るかな?」
相談所のドアが、再び開かれる——。