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第一章:キャリア相談所、開業す

 

「モンスターのためのキャリア相談所」。

  そんな突拍子もない看板が掲げられたオフィスは、町の片隅にひっそりと存在していた。表向きは「誠キャリアサポートセンター」という名称だが、その実態は戦いに疲れたモンスターたちのための転職支援機関である。

 相談所を立ち上げたのは、まことという男。

  30歳手前にして、勢いとノリだけで突き進むタイプの人間。考えるより行動する性格で、気づけばこの仕事を始めていた。もともとは人間相手のキャリアアドバイザーをしていたが、「モンスターだって生きるために働いているのに、なぜ転職の支援をしないのか?」という素朴な疑問が発端となり、モンスター専門のキャリア相談所を開設した。

 その隣に座るのが、共同経営者のれな。

  れなは数字に弱く、経営管理はからっきしダメだが、モンスターたちと打ち解けるのが異様に早い。感情の機微を察するのが得意で、相談者たちが抱える深い悩みを引き出すのが彼女の役目だ。彼女自身は「私が何を考えているかなんて分からなくていい」と公言しているが、不思議とモンスターには理解されやすいタイプらしい。

「で、なんでこんなことになったんだっけ?」

  れながコーヒーを啜りながら、事務所の雑然とした室内を見回した。

「それはな、れな。俺たちが人間の社会に適応できなかったからだ」

  誠は自信満々に言い放ったが、れなは呆れたようにため息をつく。

「違うでしょ。あんたが『モンスターも転職する時代だ!』とか言い出して、元の仕事を辞めてまで開業したんじゃないの」

「まぁ、結果的にはそうなった。でも聞いてくれ。勇者や冒険者は自己実現のためにモンスターを倒す。でもモンスター側からしたら、それはただの『業務妨害』なんだぞ?」

 誠は勢いよく椅子から立ち上がり、手を振り回して熱弁をふるった。

「ドラゴンは宝を守るために雇われてるし、スライムはダンジョンの清掃業務を担当してる。ミノタウロスは迷宮の管理者だ。みんな職務を全うしてるだけなのに、ある日突然、勇者とかいう奴らが『成長の糧にするため』とか言って襲いかかってくる。おかしくないか?」

「まぁ、言われてみれば…確かに」

「だからこそ、俺たちの相談所が必要なんだ! 戦わなくても生きていける道を提案してやる!」

 れなは腕を組んで考え込む。

「でも、そんな簡単に転職できるのかな? そもそも、モンスターが人間社会に馴染めるの?」

「そこは俺の腕の見せどころだ!」

 誠は胸を叩くが、れなは「本当に大丈夫かな…」と不安を拭えない様子だった。

 そんな時、事務所のドアがガチャリと開く音がした。

「すみません、相談に来たんですが…」

 低く響く声とともに、巨大な影が事務所に入ってきた。

  立っているのは… ドラゴン。

「おいおいおい! いきなりの大物じゃねぇか!」


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