表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

勤務 6 わい田は苦手を克服していた⁉

 私、馬場朝海は純喫茶・うららで、棚卸をしていた。

 そして、武庫川と二人で棚卸を終えると、生石が悩んでいて……。

 私、馬場朝海は、純喫茶・うららに勤め始め、五か月が過ぎた。

 今日は、純喫茶・うららで一年間で四回行われている棚卸の日である。

 一度は経験したので、少しはその流れは、分かっているつもりだ。

 そして、純喫茶・うららの閉店後、リスト方式により、棚卸は行われたが……。

「あれ、わい田さんは?」

「わい田は、何か忙しいとか言って、他の事をしてるよ」

「何か、やり残した事があるんですね」

「違うよ」

「また、ですか?」

「そう。わい田はね、いつも、この日になると、忙しいとか言って、消えるんだ。

 でね、棚卸の終わりがけになると、何所からともなく出て来るの」

「やっぱり、変な人ですね」

「まあ、わい田だし……」

「そう言えば、生石さんもいませんね」

「彼は、本当に忙しいみたいだから、大変だけど、私達二人でやろう」

「わかりました。お願いします」

 そうやって、私と武庫川とで、棚卸を始めた。

 武庫川が商品の名前、ロット番号、消費期限等を読み上げ、私がリストに記入していく。

 最後に、在庫管理表のリストと照らし合わせていると、午後六時過ぎだった時間は、

もう、午後九時近くになっていた。

 その時、私は、ある事に気付き、武庫川に聞いてみる事にした。

「武庫川山、ちょっと聞いていいですか?」

「何でもどうぞ」

「この、みかんのゼリーと、梨のゼリーって、全然、動いてないんですけど、

どうして、こんなに在庫があるんですか?」

「ああ、それね。それも、わい田のせい」

「ど、どういう事なんですか?」

「何かね、わい田のお婆さんの家で作ってる商品でさ。

 最初は、可愛らしい数で送ってきて、従業員に配ってたんだけど……。

 『ばっちゃんのゼリーは、最高やでぇ‼』とか言って、

 『そうや! この店で売ろう‼』とか言い出したの。

 んで、全く、売れないのに、レジ横に置くやら、買うんだよね」

「そ、それじゃあ、これは……」

「そう、所謂、デッドストック!」

「どうして、買うんですか? 社長が困るじゃないですか!!」

「うーん。買うのは、わい田のお婆さんに、わい田が良い顔したいだけで、

社長には言わずに、勝手に買ってるんだよね」

「酷い……」

「まあ、これだけじゃなくってねぇ……。

 わい田の奴は、良く、誤発注するし、それを阻止したり、返品するのも骨が折れるわ」

「呆れますね」

「そだね」

「どうして、武庫川さんは、それをフォローして、何も言わないんですか?」

「だって、言っても無駄だし」

「けど、大変じゃないんですか?」

「うーん、まあ、大変ちゃ、大変だけど……。

 こんなの、前、勤めてた所よか、全然、気にならないし、

ある意味、わい田の無謀を阻止する事って、やりがいがあるんだよね」

「武庫川山って、以前、どんな所に勤めてたんですか……」

「そうね、かなりのブラック?」

 二人で話しながら、あと少しで、棚卸が終わろうとした時、やはり、わい田は現れた。

「ふぅ~、いやいやいや~。棚卸は疲れますなぁ! 何や、わいが手伝う事、ありますかぁ?」

「田中店長、もう、馬場さんと、ほとんど終わらせました」

「ほうでっか。まあ、後は、わいがやるから、帰って、ええで!」

「そうですか。お疲れ様です。じゃあ、馬場さん、帰ろっか?」

「は、はい。お疲れ様でした」

 そして、私が何か腑に落ちない気分で帰ろうとすると、調理場に、まだ生石が残っている様だった。

「生石さん、お疲れ様です」

「……」

 生石は私が話し掛けても、中々反応しなかった。

「生石さん?」。

「えっ⁉ な、何だ、武庫川さんに馬場さんか!」

「生石さん、棚卸が終わりましたよ」

「そう。悪かったな、全然、手伝わなくって」

「大丈夫です。武庫川山と終わらせましたから」

「ところで、生石君。上手くいきそうなの?」

「それが、その……」

「何が、上手くいくんですか?」

 苦笑いをしている生石に私は聞いた。

「いやね、来月、純喫茶・うららではハロウィン限定メニューがあるんだけど……」

「知ってます! ハロウィンの一週間だけやるやつで、各店によって、違うんですよね!」

「そうそう。で、食事部門とデザート部門を一つずつ、考えなくちゃいけなくってさ」

「えーーー!! それって、生石さんが考えるんですか?」

「そうだよ。毎年、考えてはいるんだけど……」

「だけど?」

「だけど、代わり映えがないって言うか、変えたくないって言うか……」

「生石君。だけど、来月まで、時間ないよ?」

「そうなんだよ……」

 生石は、武庫川の言葉を聴いて、へこたれた。

「生石さん!! しっかりしてください!!」

「ところで生石君。大体、何を作るのかぐらいは決まってる?」

「ああ、それなら……」

 生石は、私達に、ホットパイ包みと、二つのモンブランを見せてきた。

「うわ! 美味しそう!」

「そだね。ところで、このパイ包みの中身は?」

「かぼちゃスープだ」

「食べたい!!」

「どうぞ、馬場さん」

「いいんですか? いただきます!」

 私は、ホットパイ包みに匙をザクっと入れ、中を覗いた。

 すると、きつね色のパイの中は、鶏肉、にんじん、マッシュルーム、それに玉ねぎが、

かぼちゃスープの具の様だった。

 そして、私は、崩したパイを絡める様にそのスープを掬い、食べた。

「美味しい!! やっぱり、生石さんは料理が上手!!」

「それはどうも」

「で、何が納得いかないの? これって、毎年、大人気でしょ?」

「そこなんだ。味は変えたくないけど、何か変えたいんだ!!」

「何を?」

「だからですね……」

 武庫川と生石は、話し合ったが、解決には至らなかった。

 だが、その時、私は閃いた。

「あ、あの、ちょっといいですか?」

「何、馬場さん?」

「これって、ハロウィンのですよね?」

「そうだけど?」

「じゃあ、こんなのはどうですか?」

 私は、匙で開けた穴を下に向け、生石にそのホットパイ包みを見せた。

「どうです?」

「どうですって、言われても……。何が?」

「ですから、こうやって、お客様自身が穴を開けて、

ジャック・オー・ランタンを完成させるんですよ! そしたら、お客様は写真を撮る!

 そして、食べる! ね! 楽しみが増えるじゃないですか!!

 これなら、味は飼えないで、変えれるでしょ?」

 私の説明を聴いた生石は、黙った。

「駄目ですか……」

「そうだよ、その通り!! もっと、形をかぼちゃらしくして、種で目を付けて焼いてみる!!

 ありがとう、馬場さん!!」

「お役に立てて、良かった!」

「良かったね、生石君。で、デザートはどした?」

「それがですね、今年は栗とさつまいもが良すぎて、どっちにしようか迷ってるんですよ!」

 生石は、二つのモンブランケーキを用意していた。

 その二つ共、タルト生地に、モンブランクリームがのっていた。

「どっちも美味しそう!」

「そうなんだよ。でも、店の方針としては、一種類だし。どっちかなんて、選べないんだ‼」

「ですよね……。でも、どっちも食べたいな!」

「馬場さん、欲張りだね」

 武庫川がそう言うと、生石は何かを思いついた。

「生石さん?」

「武庫川さん、そうですよ!! 欲張ればいいんですよ!!」

「生石君……。遂に壊れたか?」

「そうじゃなくって‼ 二種類共、クリームを使うんです!

 名付けて、うららの欲張りモンブランです!! 武庫川さん、ありがとうございました!!」

「そりゃ、良かったね」

 そうやって、私達が、ハロウィンメニューを完成させつつしていると、

やはり、汗を拭くふりをしながら、あいつが出現した。

「ふぅ~、ヤレヤレ。棚卸は、疲れますなぁ。

 おやぁ? 生石君や、棚卸もせんといて、何しとったんや?」

「田中店長、完成しそうです!」

「何が矢?」

「ですから、ハロウィンメニューですよ! モンブランに関しては名前まで、思いついたんです!」

「おお、それは良かったですわぁ!

 わいは子供の時分、車の中で、チョコを食べて吐いたせいで、

甘いもんは食べへんから、分からんけど!」

「そうでしたっけ? 田中店長、この前、チョコレート、食べてましたよね?」

 私が話に入ると、わい田は一瞬、黙ったが、話し出した。

「せやから、克服したんねん」

「じゃあ、食べます?」

 生石は、わい田にモンブランを差し出した。

「生石君、ごっつあんです!」

 それから、わい田は、モンブランを二つとも食べた。

 そして、武庫川が、こそっと、教えてきた。

「わい田はね、恐らく、バレンタインデーに一度もチョコをもらった事がないんだ。

 だから、強がっていつも、ああいう言い訳してる」

 こうして、私は、また、わい田の謎行為、わい田ワールドを目の当たりにし、帰宅した。

 そして、レオに報告した。

「ねえ、レオ。今日、こんな事があったんだ」

「クーン?」

「生石さんのメニュー、上手くいくといいね!」

「ワン、ワン、ワン!」

「ありがとう、レオ! 生石さんのは絶対、上手くいくね!」

「ワン!!」

 そうして、私は、またレオとの至福の夜を過ごした。

 ちなみに、言うまでもなく、生石のメニューは二つとも大好評で、

生石は純喫茶・うららから表彰され、金一封をもらった。

 そして、私は、生石の嬉しそうな顔を見て、また、純喫茶・うららで勤務するのだった。


 いかがでしたか? 今回の【わい田さん】は。

 でも、こんな事ぐらいで、驚かないでください……。

 高が、面倒臭い仕事になると、何処かに消えるぐらいで。

 高が、バレンタインデーのチョコを食べた事がない事に、見栄を張るぐらいで……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ