勤務 3 給料日も、わい田ワールドは全開だ!
私、馬場朝海は、純喫茶・うららでの初給料日を迎えた。
そして、歓迎会までも、模様してもらえる事になった。
しかし、やはり、わい田の謎行為、わい田ワールドは、いついかなる時も、静まる事はなかった。
私、馬場朝海は、純喫茶・うららに勤め始め、二十五日が経った。
今日は、念願の給料日。
しかも、私にとって、バイトではなく、社員としての初給料の日である。
だが、その日、 うきうきしながら働いて、休憩時間になり、休憩室に行くと、休憩室は大変な事になっていた。
「へっ⁉ 何、この臭い‼」
私は思わず、鼻を抑えてしまった。
何故なら、休憩室はにんにく臭で充満し、ゴミ箱には、コンビニで売っているデカ盛りのパスタが入っていたであろう容器が捨てられていたからである。
「臭いの原因って、これかな?」
「馬場さん、どした?」
「あっ、武庫川山。ちょっと、臭いませんか?」
「ああ、これは、わい田のペペロンチーノテロだね。そいや、馬場さんは初めてだっけ?」
「はい……」
「ふーん。まあ、わい田の奴はね、週四は弁当屋でこってりメニューの弁当を食べてるんだけど、週一はコンビニで、デカ盛りペペロンチーノと、デカ盛りプリン、それにリンゴジュースを買って、食べるんだよね」
「そうなんですか⁉」
「そう。でね、その食べた後の容器を、会社のスポンジを使って洗うわけ。そして、ここに捨ててくのよ」
「じゃ、じゃあ、スポンジは……」
「当然、ニンニク臭で、使い物にならなくなってるはず!」
わい田は、週一、そうやって食べた後の容器を純喫茶・うららの休憩室にあるスポンジを使って洗い、ゴミを持って帰らず、純喫茶・うららの休憩室にあるゴミ箱に捨てていくらしい。
(やっぱり、わい田さんを理解出来ないや……)
そうして、私は、また武庫川の言いつけを忘れ、わい田について、無駄に考えてしまうのであった。しかし、私の休憩時間が終了すると、わい田を忘れる事が出来る出来事が訪れた。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です! オーナー!」
それは、英美の夫、公正だった。
公正は、純喫茶・うららのオーナーとして、各店舗を回っている。
「皆さん、お疲れ様です。今月の給料です」
そう、今日は私の発給料日だった。
それを思い出すと、わい田ワールド等、頭の中から吹っ飛んで消えてしまった。
「はい、馬場さん。よく働いてくれたね」
「あ、ありがとうございます!」
公正は、年齢は四〇代前半に見え、黒髪の短髪、日焼けした肌で、身長は一七五センチメートル以上はあるであろう痩せ型の体型である。
話は戻るが、純喫茶・うららでは、給料は現金を手渡しするシステムで、今まで振り込みだった私からすれば、この事も、新鮮に感じれた。
そして、私が、給料袋をしっかりと持ち、その厚さを両手で感じながら、何に使おうか、心であれやこれやと楽しく考えていると、ペラ、ペラッ!と、何かをめくる音が聞えてきた。
私が、その音の方を見ると、それは、わい田だった。
何と、わい田は公正がいる前で、給料袋を開け、そして、指サックを使い、枚数を数えていたのだ。私が信じられないといった顔をしていると、武庫川から、ある事を、こそっと、教えられた。
「わい田はね、ああやって、いつも給料を数えるんだ。この店で、一番多くもらってるくせに。しかも、みんながそろった時にね」
武庫川から教えられた事実に、私が、有り得ないと思っていたその時、公正から、あるお誘いを受けた。
「そう、馬場さん。今度、あなたの歓迎会をしようと思うんだ。まあ、この店舗のメンバーと、穴水さん、それに私ぐらいだけど、どうかな?」
「えっ⁉ いいんですか!」
「勿論。でね、今度の土曜日とか空いてる?」
「はい、大丈夫です。お願いします」
そうやって、 私と公正が話していると、やっぱり、わい田が話に割り込んできた。
「おお、それは良かったですわぁ。わいは、酒にかなり強いんですわぁ!」
「そ、そうなんですか?」
「せやで。わいは、すぐ顔が赤くなんけど、代謝が凄く早いねん。だから、二日酔いになんか、ならへんのやで! 馬場さんは飲めますかぁ?」
「ええ、嗜む程度なら」
「それは、良かったですわぁ! 恐らく店は毎度決まっとる見せですから、そこには、ヒレ酒があるねん。メッチャ、美味いでっせ! 馬場さんも、折角ですから、どうですかぁ?」
「あ、そうなんですね……。でも、ヒレ酒は、強そうなんで、遠慮させてもらいます」
「そうですかぁ? 折角、オーナーのおごりやから、飲めばええのに……。でも、わいは飲みまっせ! オーナー、ゴチになります‼」
この後、わい田は暫く、謎の自慢をし続け、何とか私は、わい田ワールドから逃れ、仕事へと戻った。
それから、仕事を終えると、急いでホームセンターに行き、念願だった、ある物を購入した。
そして、私の至福の時間になると、私は自慢した。
「レオ! これ、なぁ~んだ?」
「キュウん? キャンキャン!」
「へへ、分かった? レオの大好きな、ジャーキーだよ!」
「キャン、キャン、キャン! くーん!」
「レオ、褒めて! がんばってもらえた給料で買ったんだよ! 食べてね!」
そう、私は、初給料で買う物を決めていた。
それは、レオの大好物のジャーキーである。
しかし、ちょっと、値が張るので、中々、手を出せなかったが、今の私の財布は温かかったので、贅沢に三袋も購入してしまったのだ。
だが、私は後悔等、していない。
レオが、こんなにも喜んでくれているのだから。
「キューン、キューン……」
「レオ、今日は、もうあげれないよ」
「クうーん……」
「また、明日ね」
「ワン!」
そういう約束をして、私の至福の睡眠の時間へとなった。
そして、時は流れ、私の歓迎会が行われる日となった。
その日は、わい田は浮かれまくり、何かと私に、その店で何が提供されるやら、自分のお薦めを話してきた。
だが、純喫茶・うららの営業時間の終わりが近づくと、わい田の様子が、いつも以上に、おかしくなった。
「そいや、馬場さんや……」
「何でしょ?」
「今日の店には、どうやっていきますかぁ?」
「そうですね。私は今日は飲まないので、車で向かおうかと思ってます」
「そうでっかぁ……」
「あ、あの、何か?」
「いや、わいはどうやって行こうかと考えてまして……」
「はあ」
「はよう終わればええんですが、居座りの客が来たりしたら、開始時刻に間に合いま返わぁ。電車もバスも、良いのがなさそうですし……」
わい田は今日、酒を飲む気満々で、出勤していた。
だから、歓迎会となる店への足がないと言い続け、私に、ある事を言ってほしい空気を出し続けた。
そして、私は、その空気を読み、こう言った。
「あ、あのぅ……、私が乗せて行きましょうか?」
「えっ⁉ ほんまに? ええんでっか?」
「私の運転で良ければ……」
「そりゃぁ、えろう助かりますわぁ!」
「いえ、気になされないでください」
それから、純喫茶・うららは、定刻の午後六時半には閉めれた。
そして、私の歓迎会が行われる店へ、私は、わい田と向かう事となり、わい田が、私の車の助手席に乗り込んだ。
「ほな、頼みまっせ!」
「はい。じゃあ、動かしますね」
この後、五分もしない内に、予想通り、わい田ワールドは発動した。
「馬場さんや、ちゃんと運転してや。割り込まれたで!」
「す、すみません」
「あっ! ほら、信号、変わっても歌で。こんなんで、歓迎会に間に合うんかいな?」
「まだ、七時半までは時間ありますよ」
「でもぉ……、この辺、混むからな。せや、わいが生石君に連絡しときますわぁ!」
「あ……、お願いします……」
わい田ワールドは発動したが、結局、七時半より一〇分以上前に、その店に私達は到着した。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。馬場さん、迷わずに来れたね」
「そりゃぁ、わいがいますからね!」
「はは……」
この様に、公正の苦笑いとともに、私の歓迎会は始まった。
分かってはいたが、食事が運ばれてくるや否や、わい田の自慢話が始まった。
誰も聞いてないのに、食事の蘊蓄を語ったかと思うと、今度は、わい田が学生の時分、焼き肉屋でバイトしていた時の話までも始めてしまった。
そして、肉の切り方は、どうだの、ここの店の切り方は悪いだのと言った様に、どんどん、今日の会の目的が、わい田ワールドへと変更されてしまった。
だが、その時、公正が、わい田ワールドを終わらせる、あの話を、わい田に振った。
「田中君、ヒレ酒どうする?」
「それは、いただきますぅわぁ!」
公正に聞かれ、ビールを二杯飲んでいたわい田は、何故か、両腕を自分の顔の前で並べる謎のポーズを決め、そう言った。
しかし、わい田の顔は、既に茹で蛸状態で、薄毛の間から覗かせる頭皮までもが真っ赤だった。
(わい田さん……。大丈夫かな?)
私の心配は、的中した。
ヒレ酒を一口飲んだだけで、わい田の茹で蛸状態はさらに進み、目は、いかにも眠たそうになった。
しかし、おかげで、わい田は少しだけ静かになってくれ、わい田ワールドは終了した。
そして、私の歓迎会は終わり、皆で解散していた時、私は穴水から話し掛けられた。
「馬場さん、どうだった?」
「穴水さん、とても美味しかったです」
「そう、良かった。あまり仕事の話を出来なかったけれど、大丈夫そうかな?」
「はい、武庫川山が特に良くしてくれてますから」
「それは良かった。敬子ちゃん、今後とも、馬場さんをよろしくね」
そう、武庫川は、敬子ケ(イコ)という名前なのだ。
「はい、任せてください」
「武庫川さん、お願いします」
「馬場さん。こちらこそ、お願いします」
そして、最後に、こういう風にちょっとだけ、女子会の様になり、私の歓迎会は終了し、私は、また明日から純喫茶・うららに出勤したのだった。。
いかがでしたか? こんかいの【わい田さん】は……。
でも、このぐらいで、驚かないでください。
高が、人前で、人の約三倍もらっている、あれを数えるぐらいで。
高が、人の車に乗ってくるぐらいで。
高が、茹蛸状態になるぐらいで……。