2.必要なこと
嫌がる彼を引っ張りながらなんとか町についた。町はいつも通り難民用のテントがそこら中に張られており、みんなその中で生活している。環境は良いとはいえないが、それを人間関係の暖かさでカバーしているおかげで、みんななんとか生活できている。その中を通るには彼はかなり異質な見た目をしているので、町の人に警戒されないようにフード付きのコートを着てもらった。彼もその方が安心するようだ。情報収集とはいっても行く当てがないので、手始めに一緒に住んでいるアリおじさんに聞きに行くことにした。町を歩いていると色々なところから声を掛けられる。
「リリィ!おかえり!」
「ただいま!」
「あ!リリィちゃんだ!さっきの空襲大丈夫だった?」
「うん!大丈夫だったよ!」
みんな血は繋がっていないが家族のようなものだ。ここでの暮らしはみんながいるから成り立っているのかもしれない。
「そのお兄ちゃんだあれ?」
駆け寄ってきた近所の子が、私の隣にいる少年のことを指さした。さすがに悪魔というのはまずいなと思い、友達ということにした。
「あー…私の友達!久しぶりに会えたから連れてきちゃった!」
「なんていうの?」
その子が彼の顔を覗き込むように見る。怖がってしまうかと思ったとき、
「なに見てんだ。人間となれ合う気はねぇぞ。」
と彼は子供相手に脅してしまった。
「ちょっ…何言ってんの?!」
私はとっさに彼を自分の後ろに隠し、誤魔化した。
「ご、ごめんね!このお兄ちゃん今ちょっとイライラしてて…私たち用事あるから行くね!」
そう言い残してそそくさとその場から離れた。離れてから彼に問い詰める。
「ちょっと!あなた敵意むき出しにしたらダメでしょ!ばれちゃうかもしれないのよ!」
すると彼は口をへの字にして不満げに返した。
「別にいいだろ。本心だったし。あんなんいつでも食えるし。」
「今は人間のフリをして?じゃないと情報が手に入らないから。」
彼は相変わらずムスッとしたままだ。確かに強引に人間の町に連れてきてしまったのは悪かったかもしれないが、こちらに協力すると言った以上こう言うしかない。家に着くまで、彼が周りの人間に振っかからないように警戒しながら歩いた。家の前に着くと、中から見慣れた人が出てきた。
「あ!アリおじさん!」
髪の毛と髭がグレーで丸い眼鏡をしているアリおじさん。町の人からもおっとりとしていると人気だ。おじさんとは2年前から一緒に住んでいる。もともと住んでいたところは国内でも情勢が悪化している地域なので、両親が私を疎開させたのだ。きっと両親はまだあの地域にいるのだろう。
「ああ!リリィか!今日の仕事は終わったのかい?」
「うん!」
「そうか。今日も無事だったんだね。よかった…おや?そちらの子は…?」
アリおじさんが私の隣で気まずそうにしている彼に気付いた。
「私の友達!久しぶりに会えたから連れてきたんだ。」
「友達か!初めまして。リリィのおじのアリといいます。」
おじさんが手を出して握手をしようとしても、彼は何も反応しなかったので声をかけた。
「…ほら、自己紹介して!」
と催促すると、ようやく気付いたのか
「あ?…メア。」
とめんどくさそうに返事をした。
「メアくんか。よろしくね。というか君ボロボロじゃないか!向こうに服があるから、君に合うやつを好きに選んで着ていいよ。」
コートを着ているものの、隙間からズボンやシャツの千切れ具合はよくわかる。今まで他のことで頭がいっぱいで、そんな単純なことに気づけなかった。
「たしかにそうだわ!ほら!早く着替えてきて!」
「え?お、おい!」
抵抗する彼を強引に部屋に押し込んで扉を閉める。少し申し訳ない気もするが、先ほどから色んな人間に食らいつきそうな気配を出していた以上、彼がいると話が進まないかもしれないと思うと、部屋に閉じ込めて正解だった。それよりもおじさんに聞きたいことを聞く。
「ふぅ…ねぇおじさん。あたしたちね、この戦争を終わらせる方法を探してるの。何かいい方法ない?」
するとおじさんは目を見開いて、すこしの間私をじっと見つめた。
「おお…急にすごいことを聞くね。そうだなぁうーん……わかんないなぁ。私に聞くより、もっと賢い人に聞いた方がいいと思うよ。」
おじさんは私を諭すように、私の頭に手を置いて話してくれた。
「…そう…だよね。」
置かれた手とおじさんの表情から、おじさんの言いたい事がひしひしと伝わってくる。
「うん…ごめんな。」
「ううん。私の方こそ、こんなこと聞いちゃってごめんなさい。」
「いいんだ。私はリリィと話せるだけでも幸せだからね。」
こんなことを聞いても怒らないおじさんは、本当にいい人だ。そんな人と出会えて、私は本当に幸せ者なのだろう。おじさんが私の頭を優しくなでる。
「えへへ。ありがとう。」
おじさんは私の頭から手を放すと、ある提案をしてくれた。
「そうだ。町はずれに住んでるヒューズ先生なら何か答えてくれるかもしれないぞ。あの人は国直属の研究者だけど、私たちにとっても優しくしてくれるからね。」
町外れに研究者が住んでいるという噂は聞いたことがある。確かに研究者と言われるほど賢い人なら何か知っているかもしれない。次はその人のところに行ってみることにした。
「そうなの?じゃあその人のとこにいってみるわ!」
「ああ。気を付けるんだぞ!」
「はーい!」
服を着替えた彼と合流し、その研究者に会いに行くことを伝える。それにしても、彼の服のセンスはなかなかいいようだ。
「その服なかなかいいじゃない!あなた服のセンスあったのね。」
彼は、黒のシャツに黒のズボン。ベルトは白にしてポイントを加え、上着に濃い青色のコートを羽織って、黒の靴を履いている。全体的に黒が多いが、何故かしっくりしている。そんな服があの部屋にあったのも驚きだ。
「舐めんな。これでも立派な悪魔だぞ。」
「はいはい。」
彼の自慢もほどほどに受け流しながら町外れに向かって歩く。
「…なぁ。着替えてる時ちょっとだけ聞いてたんだけどよ…なんであの人間お前の質問に答えなかったんだ?俺でもあれは賢いってわかるぞ?」
あの人間、とはアリおじさんのことを指しているのだろう。彼はおじさんが戦争を終わらせる方法に対しての答えが本当にわからなかったと思っているようだが、実際は違う。彼は悪魔だから何も知らないのだろう。これからのためにもちゃんと教えておく必要がある。
「…変に答えると、殺されちゃうからよ。」
「は?」
案の定、彼は意味が分からないといった顔でこちらを見た。
「戦争を終わらせるには私たちの国が勝つしかないの。それ以外に方法はないわ。」
「なんでだよ。俺たちが考えたみたいに他にもあるだろ。例えば…」
「ダメ!!兵隊さんが聞いてたら殺されちゃうでしょ!!」
「…どうゆうことだ?」
「私たちの国が一番なの。私たちの国が一番強くて、世界の資源は全部とれるほど権力があるの。そう信じないとだめなの。そうしないと…反逆者、裏切り者、呪われた人、とか散々暴言吐かれて殺されちゃう。」
そう。戦争中に他国と協力して終戦するなんてことは絶対に考えてはいけない。理由はきっと、他国は敵という意識を持ち続けるためだろう。でないといつか裏切り者が出て国家が転覆し、国が滅んでしまうからだ。偉い人達は自分の地位を失わないためにもそうゆうことをする。売られた喧嘩には勝たないといけないという謎の正義感でできているのだ。
「…ただの洗脳じゃねえか。」
確かに洗脳だ。私たちを都合よく使うための洗脳。
「だからあなたも気を付けてね。国への侮辱をした瞬間、その場で殺されちゃうから。」
「めんどくせぇなぁ。」
彼は呆れた顔で空を見上げる。どの国にも関係しない悪魔という立場から見たら、きっと私たちがやっていることは本当にちっぽけでくだらないことなのだろう。しかしこれが私たち人間だ。
「ここだけの話、さすがにこの国が一番なことはないと思ってる。でも色んなところで勝ってるっていってるし、一番ではないけどそこそこ強いのかなって。」
話が重くなってきて体がうずうずするので、
「さ、この話はおしまい!ヒューズ先生のおうちにいってみましょ!」
気持ちを切り替えて、今私たちにできることをやる。今は小さな一歩を積み重ねる時だ。
「ナイトメア」エピソード2を読んでいただきありがとうございました!前回からかなり投稿が遅くなってしまい申し訳ありません…これから頑張ります!次回もお楽しみに!




