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ミステリー 2 または28j

 申し遅れたが、全田ー 和兎。

 これが、私のフルネームである。

 ・・・名前の読みは、かずと、ではあまりに男の子っぽいので、女子らしく? わと、であり、出典はもちろん、某名探偵の助手である。

 ソンは損っぽいので、無くて正解か。


< うっさい! 推理させようとすんな、バカ兄貴。

> 知ってるか? 脳は使わないと神経の回路が減るらしいぞ。


 ああ言えばこう言う。

 いや、こう打つ、だろうか?


 この嫌みっぽいメッセージを送ってきたのが、この家の引きこもり、ではなく、長男である、“名探偵 メッセージ探偵 Z”(自称)である。


> 誰が引きこもりか。

  あと、((かっこ)自称)もいらん。

< ・・・心を読むな、変態!


 もはや顔も朧気にしか覚えていない兄は、自室も無く(・・・・・)、家から一歩も出ないらしいのに、姿を捉えられない変態的な生き物である。

 姿も無いのに、食べ物を減らし、洗濯物を増やし、トイレットペーパーを補給せず、通販の段ボールを供給し、誰もいない所から生活音を響かせ、メッセージだけ送りつけてくるその生態は、もはや妖怪と呼んでも差し支えないのではなかろうか?


> 差し支えあるから! 誰が妖怪か!


< だから、心を読むな、妖怪!

 いや、違った。変態 !!


 ・・・話がそれた。問題はなんだったか?

 ああ、父が宿に泊まっても問題ない理由か。


 最初に鳴った両親の着信音は、私が答えるまで種明かしを待つようにと、兄が送ったメッセージだったのだろう。二人そろって、わくわくしながら私が口を開くのを待っている。


「・・・貸し切り。それだと従業員・・・。いや、それには犯人と被害者が・・・。なら・・・」

 私の考える推理は、バラバラになった複数のパズルから一種類を探しだして組み立てるのに近い。

 父や兄は一目で関係ないモノを見切り、すぐに角と端の(たぶん、一辺に凸凹(デコボコ)がついてないのが手掛かりと呼ばれる)ピースを見つけるのだろう。


 それでも、根気よく考えればだんだんとピースが並び、描かれている絵は見えてくる。


「貸し切り、いや、何らかの原因でお客さんがこないんじゃないかな? 改装とか。それで従業員が一人で、自殺とかしなさそうな人で・・・」

 ぱちぱち、ぱちぱち。


 つっかえ、つっかえの推理だったが、どうやら合格点に達したようだ。


「父さんがお世話になっていた警部さんが、お家を継がれてな。源泉側の工事と同時に建物に手を入れようとしたら、腰をやっちゃったそうで、お湯が出るようになったのに、まだ終わらないんだってさ」

「あら!」

 口に手をあて、目を丸くしているあたり、母も知っている人のようだ。

 ちなみに母は結婚する前、幼馴染みポジションだったので、父の知り合いはたいてい顔見知りだったりする。


「建物の手入れは父さんがするし、元警部も身の回りの事ぐらいは自分でできるそうだ。・・・元警部には色々。ほん、とうに色々お世話になったからな『ぜひ、御家族で』と誘われたら断れん」

「ほん、とうにお世話になったものね・・・」

 両親そろって本と当の間に溜めが入り、遠い目になるぐらい、お世話になったのだろう。


 ・・・深くは聞くまい。


 世の中には正体をバラしたく無いという理由で、近くの人に麻酔針を撃ちまくる探偵もいるのだ。


> 犯人に撃てばいいのにな。


 まったくである。


○ー ○ー ○ー


< 兄貴はこないの?


> 親父と俺が一緒に宿泊?

  向こう三軒と両隣から犠牲者を出すつもりか?


 白目の女性が「恐ろしい子」と言ってるスタンプまで押されてしまえば、無理に誘うわけにもいかない。


 そういえば、「大変だー!」と、誰かが宿に駆け込んでくる可能性は考えなかったなぁ、との反省はまったくの無駄だった。


< 知ってた?

> 場所か? もちろん。


 秘境=あまり知られていない所。

 つまりは、人に知られない理由があるわけで。

 今回のお宿は、引きこもりには厳しい、険しい山道がそれだった。


 こんな坂道を駆け登るぐらいなら、スマホで、1、1、0(ポチポチ)するのを選ぶだろう。


 ~♪


 たぶん、引きこもりちゃうし! とか、くだらないメッセージを見るのに、腕を動かすのもいやになるぐらいきつい坂なのだ。


○ー ○ー ○ー


「おー。よくきてくれたな」

 出迎えてくれたのは白髪交じりの短髪を、ぐるりと(あご)の下までめぐらせた初老の男性だった。

 がっちりした体格と、時折見せる鋭い眼光が警察関係者だった過去をうかがわせる。

 普段は必要無さそうな杖と、無意識に当てた手が、まだ腰が治ってないのをうかがわせる。


「元警部!」

 いや、父よ。元って、失礼じゃないかな?


「警部は、やめてくれよ。元でいい」

 “もと” って、名字だったんかい!


 なんて、ツッコミつつ笑えていたのも、そこまでだった。


「それで、えーと」

「ああ。こっちは妻と娘と息子で、向こうは弟だ。どこから聞きつけたんだろうなあ。手伝いにきてくれたんだよ。折角きてくれて悪いが、もうほとんどやってもらう事は無いんだ。まあ、温泉に入ってくつろいでくれよ」

 にこやかに微笑んでゆっくりと振り返る元さんに比べ、残りの三人の顔は険しい。

 まるで、邪魔者が現れた、と言うように。


 ・・・いや。くれよ、じゃないから!


 どうすんの、これ ?!


 私を含め、こっちの三人の表情がひきつったのは言うまでもない・・・。


○ー ○ー ○ー


 情報の海が深くなりつつある昨今(さっこん)、最近はケータイの電波が入らないのを売りにしているお宿もあるらしいが、ありがたい事に、ここはちゃんと扇のようなマークが表示されている。(Wi-Fi万歳!)


 そして、ありがたくないメッセージも。


> 妻。宿を始めた当初は女将とだったが、あまりの田舎に耐えきれず、まだ引き払っていなかった都会の家に戻る。

 ホストクラブに多額のツケあり。

 元さんの生命保険の受取人。


 娘。社会人。大学時代に仲間と始めた事業が暗礁に乗り上げている。このままだと自己破産。


 息子。よくない仲間に紹介された彼女に、貢ぐ為に重ねた借金の出どころがヤバい。取り立てから逃げているもよう。


 弟。離婚歴あり。元妻に慰謝料、養育費の滞納を弁護士相談されたらしく、内容証明が届いている。

 再びの裁判まで、カウントダウン中。


 ・・・マジか。

 なんだこの、火のついた爆弾の導火線の束は。


 突っ伏した青畳の井草のかほりが(かぐわ)しい。


> おーい。帰ってこーい。


 ハイハイ。

 あまりの事に現実逃避していたのだが。


 皆さん、御存知だろうか?


 現実以外にもちゃんと電波が届く事を。


> まだ、イマイチ戻り切っていないな。

  一番まずい人物はわかるか?


 まずいと言えば全員に不味い理由があるけれど。


 犯人として、一番、忙しくなるのは───。



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