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僕には魔法がない②

制服のベルトと巣にあったツルのような植物を結びつけ、長めの紐が作れた。


「小夜さん、これでもしかしたら降りられるかも」


少し小夜さんの表情が明るくなった。ピンチだったけど快方に向かってる。あと少しの辛抱だ。


《キエェエエエエ、、、》


この声は、さっきの魔物だ。巣に戻ってきたのか?

まずいぞ。どうしよう。抵抗してこんな高さから落とされたらひとたまりもないし、かといって抵抗しなければそのまま、、、

気がつくと小夜さんは太めの木の枝を握っていた


「ま、まさか戦うつもり?!」


「私、君のこと尊敬するよ!怖くて仕方なかったけどさ、こんな状況でもアイデア出して、助かりそうな方法見つけちゃうんだもん。ほんと勇気もらったよ、ありがとう!」


頼りない武器を持つその手は震えていた。

「危険だよ!今ならまだ間に合うから、早く」


《キエエェエエエエ!!!!》


間に合わなかった。魔物は迷わず小夜さんの方に向かい、ギリギリのところでせめぎ合っている。


「君が作ってくれたんだから!その紐で早く!」


情けない。僕はなんでいつもこうなんだ。僕にできることって本当に何もないのか。

紐を巣にくくりつけながら重い後悔が襲う。


「ぐあっ」


小夜さんはみぞおちに蹴りを入れられ、そのまま体をうちつけ悶えている。次は僕の番だ。僕がどうにかしなければ、小夜さんはここで食べられる。逃げるのも怖くなってしまった。もう、どうしようも、、、


フラッシュをたいたように僕の頭に浮かんだのは、魔法の呪文だった。特殊魔法と違って、誰でも使えるように設定された一般魔法。普通中学校で習うものだけど、昔本で読んだんだ。知ってるのは呪文だけだけど、もうそんなこと考えていられない。

「イグニス!」

、、、何も起こらない。

さっきからずっと冷や汗が止まらない。魔物の鋭い眼光が、僕の心臓を貫いているみたいだ。僕がまだ死んでいないだけで、勝負にはとっくに負けていたのかもしれない。


とっさに木の棒を持ったはいいものの、そこからのアクションがなにも思い浮かばない。魔物が掴みかかってくる。やっぱり小夜さんみたいにはいかない。だって僕は自分から立ち向かってすらいない。またあの言葉がリフレインする。

「それは無理だろ」

わかってる。現実的に考えれば誰だってわかる。でも


「諦める方が無理だって!、、、イグニス!」


木の棒が炎に包まれる。魔物は驚いて巣の中で暴れ回り、巣ごと地面に落ちた。魔物は飛んで逃げていき、巣がクッションになったおかげで幸い2人とも大怪我はしなかった。

「小夜さん大丈夫?!」

「な、なんとかぁ、、、」


その後、パトロール中の魔術師に保護され、僕たちは帰路に着いた。

「ねえ、そういえば名前なんだっけ」

「僕、松比良永遠」

「永遠くん!いやーそれにしても今日は」

「災難だったねー」

「ねー、もっと強くなって、あれくらいちゃっちゃと対処できるようになりたいなあ」

あんな危険な状況だったのに切り替えが早い。さすがは小夜さんだ。

「そっか、小夜さん魔術師志望だもんね」

「うん!そうなんだけどさ、今回の一件で思ったよ。こういう人が魔術師になるんだろうなって」

「こういう人?」

「永遠くんみたいに冷静で頭いい人!」

晴天の霹靂だった。少し大袈裟かもしれないけど、魔術師という職業はそれくらい僕にとって大きいのだと、改めて気付かされてしまった。

でも僕には特殊魔法がない。大体人口の8割は生まれつき固有の、特殊魔法を持って生まれる。一般魔法は義務教育で全員が習うので、魔術師として働くとなると特殊魔法を持たない人はどうしても活躍しにくい。今日活躍する魔術師の99%は特殊魔法持ち。僕は今一度自分の夢について、冷静に考えるべきなのかもしてない。


小夜さんが突然立ち止まって真顔になった。

「ねえ今気づいたけどさ」

「どうしたの?」

「学校!」

嫌な汗が滲んでくる。今はもう夕方だ。パトロールをしていた魔術師の人に話をしていたら、だいぶ時間が経っていたらしい。

「入学初日にー?!」

ヘナヘナと崩れる小夜さんを横目に、僕はぼんやりしていた。まあなんとかなるだろう。鳥の餌にならなかったんだから、もう大抵のことはどうにかなる気がする。


翌朝


学校へ向かうと小夜さんが数人から囲まれていた。どうやら電車でのことがニュースになっていたらしい。

そのあと鳥に連れ去られたこともバレていた。僕は匿名でお願いしたので、話題には登らなかったらしい。


チャイムがなってホームルームの時間になった。僕たちだけ自己紹介がまだなので、小夜さんが先に席を立った。自己紹介っていえば、自分の特殊魔法を言うのがあるあるだけど、小夜さんって何の魔法使うんだろう

「天野小夜です!魔術師になるのが夢です!特殊魔法使えないんですけど頑張ります!」

一瞬教室が静まり返った。僕も驚いた。すぐに大きな拍手が鳴って、次が僕の番だとわかるのに少し時間がかかった。まずい。何を言おうとしてたかとんでしまった。緊張で頭がこんがらがる。僕は特殊魔法が使えないから、何か魔術に少しでも関わる仕事がしたくて、それで、でも今小夜さんのこと誰も笑わなかったから、、、


「松比良、永遠です。えっと、特殊魔法は持ってません。それで、魔術に関することが好きなので、、、」

僕は今、何か嘘をついている気がして嫌だった。だってここで素直になれなかったら、僕は一生嘘をつき続ける。

「なので、僕は魔術師を目指しています!」

言葉にした瞬間、付きものが落ちたように気が楽になった。

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