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僕には魔法がない①

僕、松比良(まつひら)永遠(とわ)は、魔物に囚われ巣の中にいます。

平和な現代でどうしてこんなことに、、、


数時間前


今日は中学校の入学式。

小学校の友達とは別のところに進むから、正直すごく不安だ。だけど今日は天気もいいし、春の陽気が心地いい。入学を歓迎されているような気がして少し緊張がほぐれる。


茶髪で天然パーマな自分の髪を少し整える。

「、、、やっぱり子どもっぽい」

鏡を見るたび、昔から変わらない容貌に少し落ち込む。完全に制服に着られている。中学生になれば背も伸びるってみんないうけど、本当なのかな。


「いってきまーす」


同居人はすでに出社しているため、僕の声に誰かが答えることはない。

それでも新たな門出に際してのこの言葉は、何かの始まりを予感をさせる。


受験で向かったきり使っていないルートで電車に乗り込む。このくらい早く出ておけば、まず遅れることはないだろう。

電車に揺られつつスマホを確認すると、魔術師の活動に関するニュースの通知があった。


僕は魔術師を目指していた。小学校低学年ごろ。何もわかっていなかったんだ。特殊魔法を持たない人間が魔術師を目指すなんてありえない。

未練がましくこうして魔術師の活躍を追っている自分に、いい加減嫌気がさす。星神に中学受験で入学を希望したのも、エスカレーター式で高校に上がれば魔術師を目指す科に進学も可能というのがあってのことだった。

もういいんだ、僕は勉強も好きだし、このまま何か面白そうな職業を見つけて、普通に過ごす。特殊魔法を持たずに生まれた人だってそんなに珍しいわけじゃない。ただ魔術師に向かないってだけ。


「キャーーーーーーーーーー!!!」


誰かの悲鳴が聞こえて振り向いた瞬間、ガラスの破片が僕の頬をかすめた。そして僕より三倍はある、鳥の魔物と目が合った。


逃げなきゃ


そう思っても、電車内の人混みでなかなか進めない。悲鳴をあげる人、泣き崩れる人、パニック状態だった。僕もその一部だった。周りなんて見えなくて、何も気付いていなかった。


「とりゃーーーー!」


黒髪ボブの、僕と同じくらいの女の子が、魔物に立ち向かうまでは


何してんだあの子!そう思ったのも束の間、魔物が小さな男の子を咥えていたことに今更気がついた。

機敏な動きで魔物との距離を詰め、その子は魔法の杖を取り出した。そしてそのまま魔物の目に杖を投擲しクリーンヒットさせた。


《キエェエエエエエーーーー!!!!》


魔物の叫び声とともに、男の子が解放された。魔物はそのままどこかへ行ってしまった。すかさずその子を回収してこちらに戻ってくる。男の子は気を失っているみたいだ。

「あー怖かったーーー!!!」

女の子は胸を撫で下ろしていた。

自然と乗客はその子を囲み拍手をする。

「すごかった、、、魔術師みたいだ」

自然とそんな言葉が声に出た。それは女の子にも聞こえたようで

「魔術師みたいなんて照れるなー!そうだ、私天野(あまの)小夜(さよ)っていいます!いつか魔術師になって活躍するつもりなので、よろしくおねがいします!」

そう言って爽やかに笑っていた。あんな危険な状況であそこまで勇敢になれるのは、やっぱり才能だ。


小夜さんはこちらを見ると、ハッとしたような顔をして言った。

「あれ?星神中学?」

「えっ、うん、、、あれ?その制服」

小夜さんが着ている制服は、僕と同じ星神中学の女子制服だった。

「えーーー?!本当に?!私一年なんですけど、今日入学式で」

「僕も一年生!」

予想外の出来事にお互い気を取られていた。さっき去ったはずの魔物が戻ってくるのに全く気が付かないほどに


《キョエエェエエーーー!!!》


そして冒頭に戻る。今は魔物の巣の中だ。


小夜さんは気を失っているみたい。どうにかしてここから出る方法を探さないと。まずこの巣の高さはどのくらいなんだろう。恐る恐る下を覗いてみると、、、10mはあるな。すごく高い。


とりあえず警察に連絡しよう。、、、スマホが壊れている。小夜さんは荷物を落としてきたみたいだし、これもしかして相当まずい状況なんじゃないかな。非日常すぎて逆に冷静になってきたけど。

巣の中にあるのは、木の枝や石ころだけだ。長めの雑草?もいくつか散乱しているので、これで何か出来るかもしれない。


「うっ、頭が痛い、、、」


小夜さんが目を覚ました。簡単に今の状況を説明すると、驚くほど青ざめてしまった。さっきは不安なんて一ミリも感じさせないくらいだったのに、予想外だ。


「私、高いところだけは本当苦手で、、、うっぷ」


「そっか、じゃあ早くここを降りる方法見つけよう!」


そう言った瞬間、強風で巣が大きく揺れた。


「、、、うう、無理だって!」


泣いてしまった。

人間てこんなに弱気になるものなんだな。高所恐怖症なら仕方ない。


それにしても『無理』か。昔友達に、魔術師になる夢を打ち明けた時に同じ言葉を言われた。


「永遠が魔術師?それは無理だろ」


何度もこの言葉を思い出す。自分への戒めだ。

世の中には無理なことの方が多い。今回だってそうなのかもしれない。助からないのかもしれないけど、さっき僕を救ってくれた小夜さんへ恩返しができるなら、今精一杯をやるしかない

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