心霊と晩ご飯
後編です。
漸く心霊の言葉が出てきます。
「う~ん、それより、桃ちゃんこれからどうする?」
「へぇっ?」
宥める術が思いつかなかった佐助は話題を変える事にした。
桃は急な展開についていけずに変な声が出てしまった。
「ほら、前に住んでいた所の嫌がらせをする奴らがうろうろしていたんでしょ、桃ちゃんの新しい住処に帰るの危なくない?俺そっちの方が心配だよ、お母さんとしては」
先程衝撃を受けた言葉をわざと使ってみた。
「えっ、否、お母さんって、違う、違いますから、佐助さん凄く素敵な男性ですから、全然違いますから、ごめんなさい、お母さんってもう二度と言いませんから、凄く素敵で頼りがいのある男性です」
桃が慌てて叫ぶように言う。
ぶんぶん首がもげないかと心配になる程横に振っている。
『よぉーーーし!』と心の中で拳を突き上げた佐助。
「良かったよ、俺、男として見てもらえて」
悪い笑顔を半泣きの桃に向ける佐助。
「心霊の話って知っているよね?」
佐助が椅子から立ち上がり、桃の足元に跪いて両手をとって穏やかな顔で見つめた。
こくりと頷く桃。
「桃ちゃんは俺の心霊だ、初めて会った時からそうだと思っていた」
目を瞬き、頬が桜色になる桃。
「桃ちゃんは俺の匂いで何か感じなかったかな?俺、こうして落ち着いて話している自分が不思議に思える程なんだけど」
首を少し傾けて佐助は桃の反応を伺う様に見つめた。
「独り立ちしてから、とっても周囲に気を張っていたんですけど、佐助さんは最初から不思議な匂いがして、よくわからなかったけど、初めての妖だから用心しなきゃって思ったんだけど、何だかあんまり思え続けなくて、あれって思って、心霊の話は聞いていたけど、これって言うのがわからなくて、でも、大丈夫かなぁって思って、一緒にいると楽しいなって、美味しいなぁって、あ、これはその、食べ物に釣られた訳では無くて、でも、凄い事しているんだなぁと思ったら、私、何か出来ないと一緒に居られないと思って、でも、駄目って言われてどうしようって思って、えっ?」
話をしている最中に桃は椅子に座り直した佐助の膝の上に乗せられていた。
「あの?」
桃は小首を傾げて同じ目線に来た佐助の顔を見た。
「良かった、桃ちゃんも感じてくれていて、両想いだね、今日から桃ちゃんもここに住もうね、あ、住処から何か持ってくる物ある?一緒に取りに行くから」
満面の笑みに有無を言わさずぎゅっと桃を抱きしめた佐助。
「良いの?何も出来ないけど私」
桃は心配そうに佐助を見る。
その瞳にうっすらと膜が張る。
「良いんだよ、桃ちゃんは桃ちゃんでいれば、一緒に生きていってくれれば、一緒に居れば自然と色々出来るようになるよ、きっと、それで良いから、それが良いから」
佐助が片手で抱いたまま、片手で桃の頭を撫でる。
「嬉しい、心霊の話を聞いていても、自分に見つかると思えなかったの、私、何か特別出来る訳でもないし、特別かわいい訳でもないし、何か特別な事が無ければ無理だと思っていたの」
桃が頬を赤くしてぎゅっと佐助の首に腕を回した。
「特別な事、心霊と出会う事が特別な事だよね、でも、自分が特別とも思っていないし、日々努力はしてきたかなとは思うけど、それは自分で思っている事だから、他人の評価はわからないよね、あまり、気にしないけど」
佐助は淡々と桃の頭を撫でながら話しかける。
「私、これから、佐助さんのためになる事を頑張ります」
桃が少しだけ佐助の首から顔を上げて佐助に決意を語る。
「それは嬉しいな、でも、無理しちゃ駄目だよ、桃ちゃんが笑顔でいる事が一番大事だからね、それは約束してね」
目尻が下がった、甘い声が桃の頭の上からしている。
「はい、約束します」
桃の顔はより赤くなっていた。
暫く桃の頭を撫でていた佐助はコホンとわざとらしく咳をした。
「ところで、桃ちゃん、住処に取りに行くのはどうする?」
本来なら、このまま・・・行きたいところぐっと堪えた佐助。
まだまだ初々しい桃には慣れも必要だろう。
ただし、自身がどのくらいもつかは別である。
「あ、そうですね、身の回りの物は色々あるかと」
桃は申し訳なさそうに返事をした。
「じゃ、陽があるうちに持ってこれる物は持ってこようか」
「良いんですか?」
「早くこの家に慣れてもらわないとね」
まだ不安が残るような顔で桃は佐助を見上げる。
安心して欲しくて、穏やかな笑みを返す佐助。
ちゅっと音がする程の口づけを佐助は桃の頬にして、膝から降ろして手を繋ぎ歩き始めた。
佐助の住処の山を下り、お志乃の畑の横を通れば、お志乃が畑からこちらを見ていた。
佐助は歩きながら大きくお志乃に手を振った。
隣を歩いている桃が見える様に位置をずらして、更に大きく手を振る。
お志乃からも側にいた子らかも大きく手を振り返してもらえた。
お志乃達の笑顔も嬉しかった。
おそらくこちらはだらしない笑みを向けているのだろうと佐助は自覚した。
その通り。
お志乃達の声が聞こえないから良かった。
「熊のお兄ちゃんどうしたんだろう、顔が溶けているよ」
「そうだね、心霊さんが来てくれたのが嬉しくて、顔が溶けたんじゃないかね」
「ええー、剣様はきりっとし・・・そうだね」
「そうだろう、心霊様と居るとよく顔が溶けているだろう」
「そうだね、よく溶けているね」
「心霊様の顔は溶けないのにどうして相手の顔は溶けちゃうんだろうね」
「そうだね、どうしてだろうね」
「心霊様の妖術かな」
「そうだね、心霊様は妖では無いけど、相手の顔を溶かしちゃう術だけは使えるのかもしれないね」
「熊のお兄ちゃんの心霊さんは妖だからもっと色々な妖術使えるのかな?」
「きっとそうだと思うけど、聞いちゃ駄目だよ」
「どうして?」
「熊のお兄ちゃんに内緒で使う妖術が多いから、お兄ちゃんの前で聞いたらばれちゃうでしょう?」
「そうっか、内緒なんだね」
「きっとね」
お志乃と忍の母娘ではなく、女同士の会話だった。
そんな会話をしているとは微塵も見せないで明るい笑みを向けて佐助に大きく手を振っていた。
用心をしながら桃の住処に向かったのだが、幸いな事に怪しい妖には鉢合わせなかったので、直ぐに必要な物や、大事な物等、手早くまとめて出来るだけ持ち出した。
「場所がわかれば、今度は俺だけで来られるから」
「そんな事までしてもらったら、申し訳ないです」
「良いから、良いから、桃ちゃんは心霊だからね」
締まらない顔に笑みが零れ落ちている佐助に何を言っても。さらりと流されて行く。
自分ですると言ったところで、もし、怪しい者と鉢合わせたら自分では対処しきれないかもしれない。
否、きっと無理だろう。
それが嫌でそこから逃げて来たのだから。
きっと自分にも出来る事が見つかると信じて桃も気を取り直す。
持ち出す荷物をまとめて、次の荷物等順番を付けてまとめた。
大きな荷物を背負い、桃も小さな荷物を背負い、二妖で佐助の住処に向かう。
「桃ちゃん、疲れたでしょ、荷物置いたら、先に湯に入っておいで、それから晩ご飯にしよう、お魚は食べられるよね?」
「はい、食べられますけど、お手伝い・・・」
きっとまた要らないと言われてしまうと思うと最後まで言えなかった桃。
「うん、明日から一緒に準備をしたり道具の使い方も教えるから、それから色々しようね、今日は良いよ、ここに来てくれた事が嬉しいし、何度も往復して疲れたでしょ、今日は特別ね」
「はい、明日から頑張ります」
「はい、頑張って下さい」
ふふっとくくっとお互いを見つめ合いながら笑った。
桃が湯に入っている間に佐助は近くの川で魚をさっと取り、調理を始めた。
佐助は桃が美味しそうに食べるのがとても好きだった。
変に拘ったり、論じたりせず、美味しい物を美味しいと、嬉しそうに食べてくれる姿に愛おしさを感じた。
これから美味しい物をどんどん食べさせてあげたい。
その度に嬉しそうな顔を見たい。
こんな風に心霊を得られると思ってもみなかった。
願っていたのは確かだが、必ず得られるものでもない。
本当に唯一無二の心霊。
もっともっと、幸せにしたいと思っている。
これから、もっと、もっと、心霊も果実も美味しく育てよう。
新たな決意を心の中で誓った佐助であった。
「桃ちゃん、美味しいご飯が出来たよ」
「はーい」
如何でしたでしょうか?
きゅっとしたお話でふんわりして頂けましたでしょうか?
隙間な時になごんでもらえたら良かったです。
お気に召しましたらお星さま頂けますと、嬉しいです。
よろしくお願いします。




