出会い
何とか、冬?、2月だから冬の範疇?間に合ったかな・・・
熊妖の青年が主役ですが、単純に婚活と思って頂ければ想像しやすいかもです。
『心霊』という世界観は実は他の話が主体です。
それのスピンアウトものと言う感じなのですが、こちらを先に載せる事になりました。
順序が逆で解り難くて申し訳ないです。
ふんわり、ほんわり、ちょっとした息抜きに幸福感に浸って頂ければ良いなぁ~と思っております。
連載ですが短いです。
出来上がって予約搭載なので、終わりが見えます。
安心して、ちょっと読んで頂けれな嬉しいです。
俺の名前は佐助。
熊の妖だ。
俺には憧れている人がいる。
否、違った。
憧れている妖がいる。
ここから少し離れた山に居を構えている『狼妖の剣様』だ。
あの辺り一帯を治めているので、山神様とも言われている。
とても強い。
ほんとに強い。
あ、俺は強いところに憧れている訳ではない。
あ、強いところも勿論憧れてはいるのだが、そこだけではなく。
主たる憧れは『心霊を迎えている』ところだ。
しかも、あれだけ強い妖なのに、心霊は人らしい。
しかも、小さくて幼いらしい。
らしい、と言うのは見た事がないのだ。
まぁ、心霊は滅多に他に見せないものだ。
しかも、他の雄には特に見せない。
だから見た事が無いのだが、池の畔の狸妖の所には来た事があるらしい。
『ほんに、かわいらしい、愛らしい心霊様ですよ』
と言っていたのを聞いた事がある。
いいなぁ。
心霊。
妖は生涯で唯一度、心霊と巡り会える、かもしれない。
巡り会えても心霊と結ばれないかもしれない。
長く生きていても、それはわからない。
同じ時、同じ場所に居なければ、会えないのだから。
ましてや種族が違うなど、奇跡だ。
いいなぁ。
心霊。
「今日は剣様の方に蜜を採りに行こうかな」
少しずつ暑さが増してきて、夏らしくなりかけていた。
佐助は先日、剣に許可をもらったので夏に向けての商品のために、新しい花を探しにいこうかと思っていた。
「やっぱり、夏は涼しげに見えるような花束にするか、情熱的な恋の花束にするか、迷うよね~~」
佐助は自分で言っていて、自分で照れていた。
只今、絶賛恋人否、心霊募集中の佐助である。
「出会いの春は過ぎちゃったけど、恋の夏はこれからだもんねぇ~」
思うことは自由である。
「きっと来る~きっと来る~」
歌いながら蜜採りの準備を進める。
籠など持ちながら、家を出て剣の山の麓の池まで歩いてきていた。
佐助の足取りは軽い。
「佐助さ~ん、こんにちは」
少し遠い畑からお志乃の声が聞こえてきた。
「お志乃さ~ん、こんにちは~、順調ですかぁ~?」
佐助も大きく手を振りながら応えた。
「は~い、順調です~」
お志乃も両手で大きな丸を頭の上で作って応えてくれた。
非力なお志乃が困っていたら手を貸すと言う約束だ。
よしっと握り拳を作って、顔を上げたら、お志乃がこちらに歩いてきた。
佐助もお志乃の方に向かって歩く。
「佐助さん、これから蜜採りですか?」
お志乃は声が届く所で一旦止まり、声を掛けた。
「はい、夏用の新商品のために新しい花を探しに行こうかと」
佐助も少し手前止まる。
「一昨日、娘と少し散歩に出かけたのですが、あちら側の小道を歩いた先に小さな白い花畑があって、そこから向こう側が黄色一面に見えました、多分、お花だと思うのですが、私共ではあまり遠くへは出かけられないのですが、もし、良かったらそちら方面にお花がありましたよ」
お志乃が向こうへと指先を伸ばして教えてくれた。
「ありがとうございます、お花の情報は助かります、お志乃さん達のお出かけの距離は決まっているのですか?」
佐助は遠くへ出かけられないというお志乃の言葉が気になった。
「いえ、娘もまだ小さいので距離は歩けないのと、あまり遠くへ行くと剣様の匂いが薄れた所になるので、危険の可能性が増えるので避けているだけです」
「成程、確かに、安全は大事ですよね」
「はい、己を弁えるのは大事です」
こっくりと頷きを返すお志乃と納得顔で頷く佐助だった。
「では、教えて頂いた所に行ってみますね、ありがとうございました」
「お気を付けていってらっしゃい」
お互いに軽く手を振ると、佐助は教えてもらった方へと小道を歩き始めた。
佐助の後ろ姿が小さくなるまで、お志乃は見送っていた。
佐助は程なくして、白い小さな花が群れて咲いている場所に着いた。
「ここがお志乃さんが言っていた白い花畑だな」
言われた通り、日日草がふわふわと風に揺れている。
小さな花が風と奏でる香りが佐助の鼻を擽る。
「さて、では少し頂きますので、お邪魔します」
佐助はいつものように花から蜜をもらう。
視線を上げれば、その向こうには向日葵かルドベキアか、黄色の群生が見える。
日日草から蜜をもらい終わると、そのまま、見えていた黄色い花畑へと向かう。
不意に黄色の花畑から風が吹いた。
「んっ!?」
佐助の鼻を掠めたのは花の香では無かった。
今まで、感じた事の無い匂いだった。
全身が痺れて、思わず立ち止まってしまった。
体の中から何かが蠢いて出て来ようとしている様な気配がする。
自分の体なのに、訳が分からず、体の真ん中が熱い。
気が付いたら動かなかったはずの体が猛然と匂いの元へと走り出していた。
黄色い花畑が近づいてきた。
見えていたのは一部だったらしく、思っていた以上に広かった。
そして、居た。
黄色い花畑の中に溶け込む様に。
金茶色の同族の熊。
まだ、若い。
1頭でいる。
器用にルドベキアで花冠を作って頭に乗せていた。
「あぁ」
風など吹かなくてもわかる。
まだ、それ程近づいていないのに、佐助の鼻から入ってきて全身を駆け巡る匂い。
これが、『心霊』の匂い。
確かに、どうやって見分けるとか、どんな手がかりがあるとか、誰からも教わらなくても、その時になればわかると言われた事が、漸く分かった。
「俺の心霊・・・」
間違い無い。
佐助は心霊を驚かさないように、そっと近づき始めた。
「あの・・・」
「えっ」
突然、声を掛けられて金茶色の熊は驚いて振り向いた。
「突然申し訳ありません、初めまして、俺、佐助って言います、お名前を聞いても?」
佐助は第一印象を良くしようと、柔らかな目、少しだけ上げた口角、ぴんと伸ばした背筋、両手の肘を軽く曲げてお腹の前で手を軽く組んでいる。
「初めまして、桃です」
桃は名乗ったが、知らない妖なので、全身で警戒していた。
「あの、花蜜ってご存じですか?俺、それを作って生業にしています、そのため、今日は少し遠くまで花を探しにきているんです」
佐助は出来るだけ、桃の逆立つ様な警戒を解きたかった。
言外に怪しくない者ですと、懸命に訴えていた。
「花蜜、ですか?ごめんなさいわからないです、でも、お花を扱っているのですか?」
桃は花蜜を知らなかった。
それはそうだろう、高級品だ。
若い妖が簡単に口にするような物では無い。
だが、花を扱う妖に悪い妖はいないような気がして、少し、警戒心が緩んだ。
「はい、花から蜜を採ってそれを特別に加工して妖街に卸しています」
微笑みを絶やさず、近づかず、言葉は柔らかく、最新の注意を払う佐助。
「素敵ですね、お花から物を作っているなんて」
桃も和やかな笑みを浮かべた。
「あの、この花畑は初めて来たんですけど、桃さんはよく来られるのですか?」
個の事ではなく、この地の事を聞いて更に警戒心を解き解す(ときほぐす)佐助。
「ええ、と言っても春にこの近くに来たばかりで、私もまだよく知らないのですけど」
やはり桃も応えやすかったらしい。
「そうなんですね、どなたかお見えになるのですか?」
ついでの様に佐助が聞いた。
「いえ、私一妖で住んでいるので、その、周りをよく見ておいた方が良いかと思って、色々と歩いている最中なんです」
流れで応えてくれる桃。
心の中で拳を上げる佐助。
桃が一妖なら自分にも機会が巡ってきたと言う事だ。
絶対にこの機会はものにする!
「俺は向こうの山に一妖で住んでいるんです、新しい花蜜を作ろうと思って、最近、この山の剣様と知り合いになって、こちらで採取しても良いと許可を頂きました」
「まぁ、凄い!剣様とお知り合いなんて、お強いんですね」
再度、心の中でぐっと手を握りしめた佐助。
心霊を娶って妖街でも人気の上昇中の剣の名前を出してみたら、好感度が上がった。
嘘は吐いていない、でも、ちょっと人気を借りたのは事実。
「いえいえ、俺なんかとてもとても剣様の足元にも及ばないです、でも、心霊を大事にしているあの姿勢も見習うべきものだと、お会いして実感しました」
更に剣様のお力を借りて、敬意と自分も思っている事は同じと話す佐助。
「そうなんですね、妖街でも評判ですものね、芸妓のお姉さん達も憧れる程だって着物屋の方が言っていました」
弾む様に話す桃はうっとりしている。
「そうなんですね、そうですよね、憧れますよね、ほんとに心霊様を大事にされているみたいでした」
桃のうっとりに乗せる佐助。
「そうなんですね、そうですよね、ここら辺りは剣様の縄張りだと思うのですが、一度も怖い目にあった事が無いのは剣様のお陰なのでしょうね」
両手を胸の前に組んで、いつの間にか佐助と距離が近くなっていた桃。
「実は、お強いのですか?」
佐助はにこやかに話しをしていたのだが、この言葉を聞いて、同じ熊妖として、もしかしたら自分より強いかもしれないと密かに懸念した。
『私より弱い妖なんか嫌!』とか言われたらどうしようかと言う思いが巡ると、背中がじとりとした。
「いえいえ、私なんか全然、でも、一応、熊妖でしょう、見た目に騙されてくれて、弱い妖や獣はよってこないから助かっているんです」
桃は小首を傾げ、手首から上をぶんぶん振って否定した。
「そうですよね、お淑やかそうに見えますからま・さ・か・・・って思いましたから」
佐助は頭の後ろをぽりぽりと搔きながら軽く答えた。
心の中ではかなりほっとしていた。
そうだろう、特別佐助は強い訳では無い。
「そういう訳でもないんですよ、母からはぼーっとしているってよく叱られてました」
桃が口元に手を当てふふっと笑う姿は、どう見てものんびりしたお嬢さんだ。
二面性は否定できそうだ。
「お母さんとご一緒ではないんですね」
「ええ、独り立ちはしたんですけど、向こうの山は居心地が悪かったのでこちらに辿り着きました」
佐助は念には念を入れて探ったのだがやはり独り立ちしたばかりで、まだ不慣れらしい。
気になるのは佐助が住んでいる山の反対側を指して、居心地が悪かったと言っている事だ。
誰かと何かあったのだろうか?
それはもしや・・・
「向こうの山という事は剣様の目の届かない所ですよね」
「ええ、何だか知らないんですが、縄張りにしている獣の手下みたいのが嫌がらせとかしてくるので、さっさと逃げてきちゃいました」
桃は明るく言うので、それ程大事にはならなかったのだろう。
良かった。
佐助は色恋沙汰の揉め事で後から追われる事もなさそうな気配に尾が揺れた。
「それは大変でしたね、確かに剣様の様な寛容な方は妖にしては珍しいですものね」
「そうなんです、ここも生きるためには色々ありますけど、それは当然なので、不要な争いが無い分暮らしやすいです」
桃が両手を合わせて嬉しそうに何度も頷く。
「そうですね、暮らしやすいのは良いですよね、俺の山も変なのがいないので暮らしやすいです」
便乗して宣伝する佐助。
「そうなんですか、良いですね」
何の意図も感じない桃。
「はい、行ってみますか?意外と近いですよ」
満面の笑みで、佐助は誘ってみた。
「良いんですか?あ、でも、佐助さん、こちらにお花を採りに来たんですよね?お仕事なさらなくて良いんですか?」
勢いに乗りそうで乗り切らなかった桃。
「ああ、そうでしたね、いや、何だか楽しくてすっかり最初の目的忘れていました、でも、いつでも良いので、是非来てください、ご案内しますから、向こうもたくさん花が咲いていますし」
行けるかと心の中で喜びの雄叫びを上げかけていたのを踏み倒して答える佐助。
「わぁーそれは素敵ですね、見てみたいです」
きゃっきゃっと弾んでいる桃。
「はい、勿論、明日でも明後日でも」
勢いは大切と畳み掛ける佐助。
「え?そんなに急に大丈夫ですか?お花を採ったら加工するんですよね?ご家族にご迷惑ではありませんか?」
桃の言葉を聞いて佐助は蟀谷が引きつった。
佐助は最初に一妖で住んでいると言ったのに、桃に忘れられているようで、念を押す。
「いえいえいえ、家族はおりません、独り者ですから、独り者です!」
変な汗が流れる中、必死に手や首を横に振って否定した。
「あ、そうなんですね、でも、そうしたら、私なんかがお伺いしたらご迷惑ではないでしょうか?」
桃は少し眉尻が下がって小首を傾げた。
「まったく、まったく、ご迷惑ではありません、とれも嬉しいです」
佐助はにっこり、にっこりを心がけた。
「ありがとうございます、あ、これから花を採るのですよね、お邪魔にならないようにするので、見ていても良いですか?」
桃はすっかり警戒心が無くなっていて、代わりに佐助に興味が湧いていた。
「はい、是非ご一緒に!」
佐助は籠を持っていない手を桃に差し出して花畑を歩き始めた。
勿論、心の中で拳を突き上げて喜びの雄叫びをあげていた。
如何でしたでしょうか?
ふわっとしていただけましたでしょうか?
利用できるものは利用して、心霊を手に入れようと頑張っている佐助です。
ちょっとずれている桃ちゃんはわざとはでは無いのです。
ゆったりとおおらかに見て上げてください。
お星さまなど頂けるととっても嬉しいです。
よろしくお願いします。