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mission2 嫁取り

 私の名前はレオン・ハーヴィー。


 まあ、周辺と比べても大きめの国の王太子をしている。ちなみに国の名前はガプロス。


 そして私は実は男装をしているだけで女性だったりする。肉体的にも精神的にも。恋愛対象はどうだろう、例が少ないからよくわからない。


 なんでそんな面倒なことになっているのかと、いいとこのお嬢様である母が数ヶ月差で妊娠した側室に焦ってついた嘘が発端である。


 まあそれがなかったら彼女の考えの通り私は次期国王ではなかった。下に二人も息子がいるので。どちらも側室さんの子だ。


「進んでいますか?婚姻の手続きは」


 少し不遜に聞いてくるのはカズキだ。苗字はない。ちなみに絶賛思春期だ。今日もサボりに私の執務室に来たそいつにジト目を送る。


「まあ進めてはいるな。しかし量が多い。正直猫の手でも借りたいぐらいだ。まあ猫に限らず目の前で二十歳の青年の手が二つほど空いているようなのだが」


 私は目の前に積まれた書類を押して机から落としてしまいたくなる。婚姻の儀は二週間後。お姫様が来るのは明日。急すぎるスケジュールは王座を争っている弟や側室さんサイドからの嫌がらせではなく嫁取りが王座の必須条件であることに焦った我が母親なのだから救えない。


 実はこの宮殿では一番の敵というのはどこかの定石に則って身近にいるものらしい。




「そ、それでお姫様はどんな方なんですか?」


 美姫と噂の明日の婚約者を思い出す。まあ直接会ったことはないので彼女の父親からの話しか知らないが。


「どうもこうもないね。まあ、思ったよりもタフというか精神的に強そうな子らしいから安心したかな。連れて来る侍女が1人だけっていうから心配したけど、そこの仲もいいらしいし」


「それはよかった。ただでさえ皇太子の嫁なんて僻まれ放題な立場なのに第二、第三王子派、側室様。それに皇后様!俺なら絶対無理ですね」


「私も君みたいのは無理だよ」


 カズキも一番の障害は私の母上と認識をしているらしいもののツッコム気力は出ず、とりあえず譲れないところだけを返す。


「嫁入り前にできるだけ憂いをなくせるようにしたかったのだけれど、全く根が深い。分かっていたけど間に合いそうにないや」


 必死こいて処理をしている目の前のタスクにゲンナリする。流石に親をすげ替えるわけにもいかないので主な仕事は城内の従業員の質の向上だが女官の采配は母のものなだけに手を出しにくい。


 ちなみに今書いているのは母上宛に女官一人一人の調査結果とそれにより誰を辞めさせたいという書状を送ろうと思うのだがその後現場は成り立つと思うのか女官長宛に聞いてもらえないかという女官副長宛の書類だ。形式だから仕方ないと心の中で唱えてはいるがもういい加減手が痛い。ちなみにゴールである母上は距離的にも私の身分的にも歩いて十数分で会うことができる。


 そんな私にカズキは溜息を吐いた。


「お姫様が図太いようなら任せてもいいんじゃないですかそれ。何から何まで道を作ってあげなくてもいいように思いますけど。幾らか仕事をさせれば彼女自身の立場を作れますし」


「……立場と言ってもね。どうせお飾りだ」


「…………」


 そうは言ってもな……みたいななんとも言えない顔をしている侍従に顔を背ける。


 まあ冷たいとは思うが仕方がない。姫様と私ではどう足掻いても子供は作れないのだ。あの母上も王家の血縁を尊重しているので秘密裏に養子を取ることもできない。そうなれば一代限りの王。そんなトラブルの元を兄弟を蹴落としてまで得ようとは思わない。


 今でこそ王太子妃という扱いでも、すぐにそうではなくなる。その後は円満に離縁、帰国させるつもりである。


 それならば特に情を持たせず、かつ変な権力や人脈を築かれないようにするのが吉。


 この内容はカズキと散々話し合った内容なのだから、いい加減飲み込んでほしい。


「まあ、ファーストレディになるつもりできたのに結局バツがついただけで帰国なんて散々だからな。どうすることもできないが、これくらいはいいだろう」


 微妙な表情のカズキをこれ以上見たくなく、書類に目を戻すと、目の前の山がいくらか低くなった。


「うちの坊ちゃんは優しいんだか冷徹なんだか。いや、優しくはないか。特に自分に対して」


「……やってくれるの?」


 カズキの顔は呆れたものに変わっていた。こいつのこういう物言いはよく分からない。確かに自分を律するようにしているが。


「猫の手には及ばずとも五本の指が不自由なくついている手を二つほど持っていたのでね。あと外にも同じような手が何本かあったはずなので持ってきますね」


 と想定していたよりも多い量を持って行ってくれるようなので脳内で予定を書き換える、よし、これなら明日には無理だが結婚前には間に合いそうだ。


「手の空いている文官がいたか。分からなかった」


「蛇の道は蛇っすね。いいサボり方なら普段そういうことを考えていないと思いつけませんから」


 それはつまり……とは考えないでおく。まあこいつは納期が迫ればきちんとやるので。


「あと、レオ」


「おい、まだ仕事ちゅーー」


「結婚おめでとう。幸せになれよ」


 上司である王太子でも立場のある坊ちゃんでもなく、性別立ち位置関係ない「レオ」。ただの小さい時から知っている少女への祝いの言葉に、レオンは密かに困ってしまった。




 ただしレオン・ハーヴィーは少女である前に王太子であったので、その次の日にはそんな気持ちを忘れてしまったが。


 次の日、お姫様がやってきて私に会いたいというので目の前の書類をそのままに出向くことにした。


 思ったよりもずっとタフだな。今日はそのまま休まれるかと思ったので全く準備をしていなかった。


 ……少しの間になるのだから、情の湧かないように。会話も最低限に、その上で失礼にならないように調整して。作り笑いは得意だ。


 間違っても惚れられないように。


 そう改めて心の中で呟いて、私は扉を開いた。






 こんにちは。俺はカズキ、レオン・ハーヴィー様に直接お仕えする立場にある、まあ簡単にいえば少し偉い人です。お給料とかも結構いいです。


 そうなるとよく聞かれるのが、「あなたのお家もきっと良家なのでしょう?」とかそういうことです。しかしそれは全くの間違いです。


 残念ですが俺は偶然陛下に拾われただけでただの庶民、むしろ親のいない孤児です。


 ただその、言うところの「普通」の孤児と少し違う点が一つあって、まあそれが原因で陛下にも拾っていただいたのでまあありがたいところなのだが。まあなんというかその……まあはっきり言おう。


 それは俺が転生者であると言うことだ。


 孤児院の片隅で産まれそしてゆくゆくは陛下に見つかり殿下の侍従になるまで、まあ話せばハートフルでエンターテイメントなコメディがあるのだが、それはまあ置いておいて。ここで重要ならば俺が転生者であると言うこと、そして転生前の世界がオタク文化と多様化が混合し青少年の性癖がひっちゃかめっちゃかになっていた現代日本であったと言うことだ。


 それに加え、俺は転生してからも四六時中誰かさんの男装姿を見るという特殊な業務についている。


 すなわち……。




(あれこの姫さん、男じゃない?)


 最初に違和感を持ったのは喉仏。その後手、声。つまりは顔以外のなのだが、まあそう言うところで。


(男装した王女と女装した王子様か)


 あのだいぶ特殊な少女の行き先を密かに心配していたお兄さんとしては、これ以上にないほどのピッタリの相手につい笑ってしまった。


 咄嗟に誤魔化して案内を提案すると、目の前の少女?少年?は花開くように笑った。


(これでレオも気に入れば最高なのだけど)


 先にも触れたように、カズキは転生者だ。しかも現代日本からの。


 だからこそ結婚と言えば幸せの象徴であるし子供といえば守られ幸せになるべき存在である。


 カズキは願っていた。心の底から。


 あんなに苦労をしてきたレオに、今後抱えきれないくらいの幸せに見舞われますようにと。




「レオン・ハーヴィーだ。……君に出逢えて嬉しい。私は幸せ者だ」


(ん??)


「今後とも、よろしく頼むよ。私のお姫様」


(ん????)


 砂糖を煮詰めたような声と微笑みに思わず思考が止まる。


(この人何かにつけ情が……とか惚れられないように……とか散々言ってなかったか?)


 気がつくとお姫様たちは退室しており、そこには主従のみが残された。


「…………」


「………………」


「……うるさい」


「まだ何も言ってないです」


(口に出してはないだけだけど)


「…………惚れてしまっただんだ。笑顔が、その可愛くて……おい、何笑ってんだ」




「そりゃあ笑いますよ」


 こんな嬉しいこと。

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