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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

物語は俺の手の中

掲載日:2022/06/12

「そこどけよ、陰キャ」

「……っ」

 面倒な奴と同じクラスになってしまった。

 典型的ないじめっ子という言葉が正しい男――亮哉。亮哉は、俺のことを偉そうに上から見下ろすと、大股で廊下を歩いていく。何を言っても無駄だ。反抗しても火に油を注ぐだけだと学んでいる俺は、静かに道を開ける。亮哉は、昔からこの調子で威張り散らしている。季節は高校三年の夏。卒業まで耐えたら――こいつともお別れだ。それまでの辛抱。我慢だ。


 昔々、勇者と呼ばれる存在あり。勇者は仲間を募り、各地で偉業を達成して功績をあげました。

 勇者たちは、完全に自惚れていました。自分たちは強い、我らこそが最強――と。

 調子に乗った勇者たちは、自分たちの地位を確固たるものにすべく、人々を脅かす脅威である魔王へと宣戦布告をします。このときの勇者たちはまだ知らなかったのです。それこそが驕りだと。一番敵に回してはいけない人物を敵にしてしまった――と。

「この先が書けない……」

 シャーペンを置いて、頭を抱える俺。

「ノートに何かいてるんだよ、なにこれ妄想?きもちわりぃ」

 今一番会いたくないやつ亮哉が、俺の渾身のストーリーが書かれたノートを見て、顔を歪める。

「き、きみっ……なにして――」

「なにって、見たくないから処分してるんだよ」

 ビリビリッと豪快に音を立てて破かれる俺の物語たち。

「やめてくれええええ!」

 その瞬間、俺たちは白と黒の光に包まれる。

 

 目を覚ました時、俺は――この世界最強になっていた。

 自分でもよくわからない。

 ノートが破かれ、悲鳴を上げると同時に俺は黒い炎に包まれた。

 気づけば、召使や魔物を使役する魔王としてこの世界に君臨していたからだ。

「魔王!俺は貴様を討伐しにきた勇者の――」

「弱い、弱すぎる」

 ここへ来たのは、三人。男が二名、女が一名。

 見ただけで相手の力量がわかるが、此処にいる中で一番弱いのはどう見ても自称・勇者の奴だ。

 勇者一行が魔王城へと来ているという情報は入手済みだ。知っておいて、わざと通させたのも俺だ。

「おまえ、本当に勇者か?」

 思わず、魔王である俺が聞き返してしまうほどに……弱い。

「リョーヤさんが、負けるわけがない!」

「リョーヤさんは、百年に一度の逸材といわれる勇者なのですよ!」

 勇者一行のメンバーが口々に囃し立てるも信じられない。

「なめんな!悠長におしゃべりしていられるのも今のうちだ!」

 急に喧嘩口調になる勇者。

「威勢だけは良いようだな」

 冷酷無慈悲な魔王。それが俺の立ち位置であり、物語に欠かせない最重要人物。

「うるせぇ!俺は元の世界に帰りたいんだ――」

 背中に抱えていた大剣を両手で握り、渾身の一撃を繰り出す勇者。並大抵の人間ならば、多少はダメージを受けていたことだろう。

 俺は、片手で剣を受け止め、剣先を握りつぶし、遠慮なく破壊する。

「ほう……この程度の力で?」

 目を細めて相手を凝視すれば、案の定、勇者は俺の天敵の亮哉だった。

 元の世界では俺はなにもできなかった。

 でも、今は違う。勇者VS魔王。情けも容赦もいらない相手だ。

「……ずびばぜんでじだ」

 リョーヤは問答無用でぼこぼこにした。素手で殴り続け、相手は戦意を喪失している。

 かろうじて残っている意識で、リョーヤは降参の意思を示す。

「次はないと思え」

 似非スマイルでそう告げれば、相手は恐怖のあまり顔を青白くさせ卒倒する。



 残念だったな、亮哉。

 この世界は、俺が作った物語の中なんだ。

 おまえは、選ばれし勇者。俺は、伝説の魔王。

 シナリオには抗えないかもしれないから、何度でも相手してやるよ。

 


 物語が俺の心の中に残っている限り――。

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